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Over And Over 〜或る男の悲しくも儚い異世界復讐譚〜  作者: 前田ヒロフミ


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第58話 標的

文字数:2607字

【俺様がお前をぶっ殺してやるぜ】


 誉れ高き王宮騎士団の黄金の鎧を身に纏った男、勇者が手にする長剣の剣先を標的である俺に向け、声高らかにそう言った。


【ムカつく女、魔術師メメル・フロストを()ってくれた()()()()に感謝の気持ちを込め、丁重にあの世へ送ってやるからな。あっはははははは!】


 勇者のバカ笑いにつられたのか、(かたわ)らにいた僧侶服のツルッパゲの大男もデカい口を開けて笑い、少し後ろに立っていた司祭服の華奢な男は顔を伏せ、必死に笑いを堪えている。


 俺の目の前にいる男達はいったい何が楽しくて笑っているのか、皆目見当がつかない。


 だが、そんなことはどうでもいい。


 それよりも気になることがあるのだ。


 この暴風と豪雨のせいだろう。


 俺が以前に写眞絵で見た赤髪の見事なトサカ頭とは、程遠い髪型の今の勇者ジーク。


 こいつが先程から言っている言葉は何だ?


 ――モリサワリョウジ。


 話の流れるからすると、間違いなく人名だと思う。


 もしかして、こいつらは標的を間違えて俺達を襲っているのか?


 いや、それはない。


 《黒髪黒目》と言っているのだから、俺かエミリーのどちらかになる。


 ……そのモリサワリョウジなる人物は、エミリーじゃないな。


 勇者ジークがその手に持つ長剣の剣先を向けた相手は一人だけ。


 ……ふざけんなよ、勇者パーティー。


 俺はモリサワリョウジじゃないぞ。


 俺の名はレイン、レイン・アッシュだ!


「レイン、何やってるの! 前〜!!」


「……えっ?」


 エミリーの鬼気迫る声が、俺を現実世界に引き戻す。


 ハッと気が付くと、まるで覆い被さるように僧侶服の男が俺の前に立っていた。


【お毛々のある奴は、悪即パンチ! ワイだって黒髪のフッサフサのマッシュルームヘアだったでござるよ! 喰らえ、ダイナマイトパーンチ!】


 ツルッパゲの大男が意味不明なことを言いながら、俺を殴りつけるために鉄拳を繰り出すが何の問題もない。


【あっ! ずりぃぜ、ライル】


【ライルが一発で決めてしまったら、さっきのジークのセリフがかっこ悪くなるね。マジで死んじゃう5秒前の森沢亮次だもん】


「誰が死ぬって?」


【【えっ?】】


【悲報! ワイの必殺ダイナマイトパンチが不発だった模様】


 そう、何の問題もない。


 俺は〈空間転移〉を発動し、拳闘士を飛び越えて勇者と弓士の後ろに踊り出た。


【【な、何?】】


 勇者ジークと弓士バークレは、すぐさま振り返り反撃を試みるが、時すでに遅しである。


「遅いよ、お二人さん」


 紅く妖しく光る妖刀ツバキを発現させた俺は、真紅の(やいば)を六角柱の水晶があると思われる心臓に放つ。


「死閃!」


〘ザンッ! ザンッ!〙 


 妖刀ツバキの一の太刀で勇者を袈裟斬り、二の太刀で弓士を右切上。


 瞬時に放った二連斬撃は、敵の急所を破壊する。


【【うがぁ】】


(手応えあり!)


 二つの六角柱の水晶を砕いた手応えをこの手に感じ、残りの一つを砕くべく〈疾風迅雷〉を発動して駆ける。


【悲報! ジークとバークレが死んだ模様】


「俺には朗報だ!」


〘グサッ!〙


 妖刀ツバキが拳闘士ライルの心臓を貫いたのだった。


♢♢♢


 驚きの連続とはこのことだと思う。


 私がバカ女とモメている間、いつしか愛しき人が戦地に赴いていた。


「行ってくるよ、エミリー」とか声を掛けてくれれば、バカ女をぶん殴ってでも黙らして「行ってらっしゃい、レイン」と言ったのにな。


 まったくレインったら、ホントに照れ屋さんだね♪


 でも、そんなところもレインらしくていいよね。


 もう大好き!


《エミリーの矛となり盾となる》


 レインが、私のレインがそう言ってくれた。


 嬉しかった、凄く嬉しかった。


 その言葉を証明するかのように、愛しき人は嵐の中で敵を迎え討つべく、凛として立っていた。


 私は()()ために戦うレインの勇姿を見守るため、洞窟の入口に立つ。


 まぁ、私の他にも3名ほどいたけど。


 ゲイルさんとガスさんは、真っ暗で何にも見えないと嘆いていたけれど、雷鳴が轟くと一瞬だけ明るくなってレインを見ることができたようだ。


 私、それとバカ女は身体強化の〈暗視〉を発動させていたので、問題なく愛しき人を見ることができている。


 そして。


 私達のスキルが反応していた未知なる敵が姿を現す。


「「えっ?」」


 私とバカ女は同時に声を上げてしまう。


 愛しき人曰く、命の概念がないもの。


 まさにレインが懸念していたこと、それが現実となってしまった瞬間である。


 生きる屍。


 あの〈夕刻の悪夢〉でその生涯を終えたはずの勇者、拳闘士、弓士がアンデッドとしてこの世に蘇ったのだ。


 私が()の当たりにした現実に驚いていると、それ以上に驚くべきことが起こる。


 勇者ジークの口からその名前が出るはずはないのに。


 ――森沢亮次。


 勇者はレインを森沢亮次と呼んでぶっ殺すと叫んだ。


 以前の私なら、ここでレイン・アッシュが前世の記憶を思い出してしまうと焦っていたと思う。


 だけど、それはもうない。


 私の聖騎士スキルが発現したユニークスキル〈天眼〉の暗示によって、愛しき人は森沢亮次の記憶を覚醒することは絶対にないのだから。


 しかし、どうして勇者達がその名を知り、()の人物がレインだと知っているのか。


 これはとても気になるところである。


 私がそのことを考えていると、レインはレインで自分の世界に入ってしまったのか、身動き一つしなくなる。


 これはチャンスとばかりに僧侶服のツルッパゲが一気に距離を詰め、自分も黒髪のマッシュルームヘアだったと喚きながら、レインを殴りつけようとした。


 私の横に立っていたバカ女は、首を斜めに傾げ何かを考え込んでいるようで、今のレインの危機的状況すらも分からないでいる。


(お前は所詮そんなもんだよね。レインのピンチを救うのは私、エミリー・ファインズだけ)


 私は、愛しき人をピンチから救うために叫んだ。


「レイン、何やってるの! 前〜!!」


 ふふふ、そこからのレインは本当に凄かった。


 サムライスキルを発動し、紅く妖しく光る刀で勇者、弓士、拳闘士をあっという間に亡き者にしてしまう。


「レイン、やったね! 本当に凄かった!」


 私はバカ女に先んじて愛しき人に感謝を伝えるため、洞窟を飛び出して嵐の中にこの身を投げた。


「エミリー、ダメだ、こっちに来るな! こいつら三人はまだ駆逐できてない!」


「えっ?」


【隙ありだぜ! 射抜け、バークレ!】


【オッケー♪ ジーク】


 弓士から放たれた銀矢が、私の心臓に迫り来る。


 アンデッドと化した勇者、拳闘士、弓士のターゲットは、黒髪黒目の森沢亮次だけではなかった。


 黒髪黒目の玉木奏、私も標的だったのだ。



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