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Over And Over 〜或る男の悲しくも儚い異世界復讐譚〜  作者: 前田ヒロフミ


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第55話 嵐来たる

文字数:3147字

 ガスさんが言うには嵐が来るらしい。


 それもバカでかい嵐が。


 俺達はこれから来るであろう嵐に備えるため、行動を開始することになった。


 しかしだ、ここは言わずもがな交易路という人が往来する道である。


 その道のど真ん中に俺達四人はいた。


 さて、嵐をやり過ごすにはどうすればいいのか。


 辺りを見渡すと、一直線に伸びる悪路、そして両側にそびえ立つ数多(あまた)の巨木。


 木々の中に入れば、多少なりとも雨や風は凌げるかもしれない。


 でも、それは人と馬に限っての話。


 教会騎士団所有の馬車は、長期遠征用と(うた)うだけありどデカい。


 とてもじゃないが、木々の中にこの馬車を入れるなど不可能だ。


 人命第一はもちろんだけど、これから先のことも考慮しなければならない。


 現在、俺達の生活基盤を支えている馬車を嵐から守ることが求められる。


 そのことは、俺だけじゃなくエミリー、ゲイルさん、ガスさんも分かっていた。


 まず口を開いたのは聖騎士エミリー・ファインズ。


「私が轟嵐で辺り一帯を吹き飛ばすよ。それから馬車を含め、みんなが避難できる()を作る」


「却下!」


「えー、即答なの? 酷くない? レイン」


 確かにそれは俺も考えたことだった。


 だけど、聖騎士の轟嵐は最終手段にしたい。


 それでなくてもエミリーとカリンが放った必殺スキルのせいで、あの戦闘現場は草木が一本も残らず惨憺(さんたん)たる有り様になってしまったのだ。


 これでまたエミリーが轟嵐を繰り出したら、自然環境破壊者の汚名を着せられかねない。


 そう何度も容易(たやす)く必殺スキルは、発動すべきものじゃない。


 そのくらいヤバい破壊力なのだから。


「じゃ、どうするの? 早くしないと嵐の直撃をモロに受けちゃうでしょ?」


 頬を膨らませ、プンプンしながら俺に抗議の意思表示をしてくるエミリー。

 

「分かってる、エミリー。今、他に何かいい案がないか考えてるから」


 そんな時だ。


 監視隊の実質的リーダーのゲイルさんが、ガスさんに問いかける。


「おい、ガス。嵐が来るまであとどれくらい時間的余裕があるんだ?」


「半時くらいっすね」


「……半時か。馬車を飛ばせば、ギリギリ間に合うかもしれん。教会騎士団御用達の宿()()に」


「あっ、その手があったっす! やるじゃないっすか、隊長!」


「当たり前だろが! 隊長は伊達じゃないぞ!」


 ゲイルさんとガスさんが握手する様をまじまじと見ていた俺とエミリーは、同時に声を上げる。


「「……宿屋?」」


「ゲイルさん、ガスさん! この交易路に騎士団の宿屋があるんですか? それならそうと早く言ってくれればいいのに。なっ、エミリー?」


「うん、その通り。それでどんな宿屋なんですか?」


 エミリーの問いに二人の騎士が口を揃えて答えた。


「「洞窟です(っす)」」


「「……は?」」


♢♢♢


「はいやー!」


〘パシッ! パシッ!〙


 馬車の御者であるガスさんが、掛け声と共に二頭の馬に鞭を入れる。


〘〘ヒヒーン!〙〙


 黒い毛色の黒兎馬たちは鳴き声を轟かせると、(ひづめ)の音を勢いよく奏でながら走り始めた。


 馬車の屋根の上、いつもと違う風の感覚を感じることができた。


「あぁ、ガスさんの言う通りだね。この嫌な風の感覚は間違いなく嵐だ……嵐は嫌い」


 エミリーが沈痛な面持ちで静かに言った言葉は、風の音に掻き消されることなく俺の耳に届いた。


「……そうだな、俺も嵐は嫌いだ」


 この湿った嵐の風を体に受け、俺は生まれ育った村を思い出す。


♢♢♢


 俺達が生まれ育った村、それは大陸最南端にある。


 地理的影響なのか、村には年に何回も大小様々な嵐が襲来していた。


 通常の雨風は恵みとなってくれることもあるけれど、嵐のそれは違う。


 ただ破壊の限りを尽くし、恵みなど一切与えない。


 嵐の規模によってはたくさんの死傷者が出るし、必ずと言っていいくらい村の人達の生活基盤を脅かし、時に破壊していた。


 俺の家で言えば、嵐が来たら漁に出れなくなって稼ぎがなくなるし、暴風で漁船が傷つき、そして破壊されることだってあるのだ。


 エミリーの家はもっと大変で、せっかく真心を込めて作った果物の数々が、情け容赦ない暴風のせいで一夜にしてすべて破壊されていた。


 畑の中で膝をつき、悔し涙を流しながら泣くエミリーをご両親が慰めていた光景は、今でもはっきりと覚えている。


「この嵐が村に向かわないように祈ろう」


 俺がそう言った後、エミリーも村のことを思い出していたんだと思う。


 流れる涙をそっと手で拭うと、黙って頷いていた。


♢♢♢


 元々薄暗かった交易路。


 その交易路が分厚い雨雲に覆われ、まるで闇の世界に包まれているみたいだった。


 そうかと思うと 雷が光の世界を瞬時に創り出す。


 闇の世界と光の世界が交互に織りなす中、二つの世界に干渉されない猛り狂う暴風と矢のように鋭く降り注ぐ雨。


 俺、エミリー、ゲイルさん、ガスさんがこれまで体験したことのない嵐がこの地に襲来していたのだ。


「本当にありがとうございます、ゲイルさん。この洞窟じゃなければ、こんな強烈な嵐をやり過ごすことなんてできませんでした。それからガスさんにもお礼を。いち早く嵐を察知してくれたおかげで今があると思います」


「うん、本当にそうだね。私からもお礼を。ありがとうございます、ゲイルさん、ガスさん」


「いや、そんなお礼なんていいっすよ。俺は当たり前のことをしただけっす」


「このクソ野郎のスカポンタンが! お前は黙って晩飯の用意をしろ! エミリー様とレイン殿のお役に立てて嬉しい限りです」


 ゲイルさんが教会騎士団御用達の宿()()と言った洞窟はかなりの大きさのものだった。


 二頭の馬と馬車は難なく入ることができたし、奥行きもあって頑丈そうである。


 これならどんな嵐が来てもやり過ごせると思う。


 しかし、自然が相手である。


 この先、何が起こるか分からない。


 いざという時に備えて夕飯時までまだ時間はあるが、ゲイルさんの提案もあり早めに食事を済ませておくことになった。


 ガスさんの美味しい料理をいただき、それぞれが洞窟の岩を背にして仮眠を取る。


 考えてみれば、今日の丑三つ時からみんな起きていたのだ。


 疲れていないはずがない。


 俺もこの時だけは、気が緩んでしまったのかエミリーに起こされるまで熟睡してしまう。


「レイン、起きて! レイン!」


「ん〜? どうしたんだよ〜、何だよ〜、エミリー」


 深い眠りに入っていたせいか、まだ眠くて閉じそうになる(まぶた)を必死に擦りながら、俺は少し抜けた感じで言葉を発してしまう。


「レイン、シャキッとして! 私の聖騎士スキルに反応があるの」


「……えっ!? お、俺のサムライスキルに反応なんてないぞ……!! ……こ、これは」


 俺とエミリーのやり取りで仮眠から目を覚ました二人の騎士が、何かあったのかという感じの顔で黙って状況を把握しようとしていた。


「これは何なの? こんな反応は初めてだよ。魔物? 人? でも、まったく命の息吹が感じられない。単なる()が迫って来るような……だけど、とんでもない殺意を放ってる。探知数は3、レインのスキルはどう?」


 そうか、エミリーは初めてか。


 俺もこの反応は初めてだが、似たようなものなら経験したことがある。


 魔術師メメル・フロストの魔法によって生まれた66体のゴーレム。


 これは紛れもなく命の概念がない奴等の反応だ。


 まさか、本当にあり得るのか?


 生きる屍。


 アンデッドが憎き魔王の手によって生み出され、戦士としてこの世に蘇るなんてことが。


「レイン?」


「あ、悪い、エミリー。これはな――」


 俺が聖騎士エミリーにゴーレムやアンデッドのことを説明しようとした時だった。


 そいつはいきなり姿を現す。


〘パッ〙


「来ちゃった、レイン」


「カリン!?」


「「カリン様?」」


「バカ女!」


 俺達がカリン・リーズの突然の登場に驚いていた頃、勇者ジーク、拳闘士ライル、弓士バークレのアンデッド三人衆が嵐の中、この洞窟を目指して疾走していた。


 レイン・アッシュ、俺をあの世へ送るために。



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