第54話 嵐の前
文字数:2487字
「レイン、どういうことなの? 今夜って何? ねぇ、ねぇってば?」
馬車の屋根の上、都合何度目になるのかエミリーからの尋問を受ける俺。
「だから、さっきから何度も言ってるだろ? 知らないって。どういうことなのか俺が知りたいくらいだよ」
《さよなら、レイン。今夜、また会いましょう》
聖女カリンは謎めいた言葉を残し、俺達の前から消え去った。
俺を始め、呆然と立ち尽くしていたエミリーとゲイルさん、ガスさんは我に返ると監視隊の任務を遂行すべく目的地に向けて出発した。
それからというもの、エミリーが俺のローブを掴んで激しく揺さぶりながら、しつこくあーだこーだと聞いてくる始末。
で、現在に至るって感じだ。
(カリンってケガに回復魔法は施せるけど、ローブにはどうなんだろ?)
こう思ったのには、もちろん理由がある。
エミリーがローブをグイグイと激しく揺さぶるから、ところどころ破けてる……はず。
〘ビリッ、ビリッ、ビリビリビリ〙
と聞こえちゃいけない音を度々耳にしたから。
(まったくさ、魔王軍との戦闘でローブが破れるんならまだしもエミリーに破かれたなんて洒落にならない)
これ以上ローブを破かれるのを避けたい俺は、話題を変えることにした。
「エミリー、凄かった」
「えっ? 何が?」
急に話題を変えられたことが不満なのか、エミリーは怪訝な表情で言葉を返してくる。
「エミリーの必殺スキルだよ。轟嵐だっけか? 本当に凄いの一言だった」
「あっ、うん」
「前にも言ったが、俺のサムライスキルは今回のような大群の魔物に対処できないんだよ。だから、エミリーやカリンみたいなスキルは凄いと思うし、何より羨ましいと思った。それに……」
「それに?」
言葉に詰まる俺に、その先を聞きたいから話してくれと言わんばかりに催促してくるエミリー。
「それに悔しかった。凄い悔しかった。どうして、俺のサムライスキルは三聖みたいなスキルじゃないんだよとな」
「……レイン」
「ははは。分かってる、分かってるよ、エミリー。俺は三聖じゃないんだ。身の程を知れってことだよな。何が言いたいかというとこれからどんな敵が現れるのか想像もできない。きっと三聖のエミリーに負担をかけさせてしまうことが多々あると思う。その負担を少しでも軽くするため、俺は三聖の、聖騎士エミリーの矛になり盾となるよ」
「ありがとう、嬉しい。私なら全然平気だよ。レインやゲイルさん、ガスさんが支えてくれるなら、どんな強い敵だろうと、どんな大群だろうと私は駆逐できるもん」
ローブの被害を最小限に食い止めるための話題逸らしが殊の外真面目な話になってしまったけど、エミリーの俺への尋問はこの時をもって終了したから、ある意味でこれはこれで良かったんだと思う。
終わり良ければ全て良しだな。
俺はそう思いながら、馬車の屋根の上で流れる景色を見つめていた。
♢♢♢
「レイン殿! マジっすか? 俺達が魔物を駆逐できるかもしれないって話っす!」
「このクソ野郎のアンポンタンが! この俺がレイン殿に聞いてるんだよ! てめぇは黙っとけよな!」
エミリーの尋問が終わって、ほっとしたのも束の間、次はゲイルさんとガスさんからの尋問が始まる。
俺は確かに言った。
六角柱の水晶を砕くことができるのなら、誰でも魔物を駆逐できるかもしれないと。
でも、それはあくまでも条件付きなのだ。
六角柱の水晶を破壊できる武器があること。
そのような武器がこの世に存在するのか未知数だ。
ゲイルさんもガスさんも頭では理解してるんだけど、それよりも自分達が、教会騎士団の騎士があの魔物を駆逐できるかもしれないという思いが勝っている感じだ。
「ゲイルさん、ガスさん、落ち着いてください。六角柱の水晶を破壊できる武器があればの話ですから」
ダメだ、こりゃ。
もう、俺の話なんて聞いちゃいねぇ。
ゲイルさんとガスさんは、エミリーのためとか何とかと盛り上がり、二人だけの世界に入ってしまった。
そんな二人の騎士をうんうんと頷きながら、エミリーはとてもご満悦な顔で眺めている。
アホな三人組はとりあえず放置しておくとして、俺が言ったことなので責任を取らないといけない。
俺は自分なりに考えている武器があるにはある。
それは弓だ。
総合的に判断すると、弓という武器が間違いなく一番いいだろう。
それでも問題はある。
果たして、魔物達の六角柱の水晶を破壊できる矢尻の素材があるのかどうか。
今度、聖女カリンと会った時にでも相談してみようと思う。
♢♢♢
俺達一行を乗せた馬車は二頭の馬に引かれ、監視隊の目的地である魔王軍先遣隊の駐屯地に向かって、順調に交易路を走っていた。
しかし、御者の役割を担うガスさんが手綱をグッと強く引き、馬たちを制御して馬車を止める。
俺とエミリーは顔を見合わせ、ガスさんに事の次第を確かめようとする前に、ゲイルさんが怒声を上げた。
「このクソ野郎のノータリンが! 何で馬車を止めたんだよ?」
「エミリー様、レイン殿。嵐が来るっす、それもでかい嵐っすよ。今からこのバカでかい嵐に備える準備をしたほうがいいっす」
「「えっ?」」
俺とエミリーは、空を見上げる。
雲一つない青空が、俺達の頭上に広がっていた。
「ガス、嵐が来るんだな? 間違いないな?」
「間違いないっすよ、隊長」
ゲイルさんはガスさんに確認を取ると、馬車の屋根の上にいる俺とエミリーに言った。
「エミリー様、レイン殿。ガスは料理の他に得意なものがもう一つあります。天の空、天候を先読みすることができるのです。ここはガスの言う通り今から嵐に備えるのがよろしいかと思います」
「レイン、ゲイルさんとガスさんの言う通りにしたほうがいいよ」
監視隊が出立する前日、一緒に森林地帯へ行ってくれと泣きそうな顔で俺にそう言っていた幼馴染。
だが、今のエミリーはその時とはまるで違う。
立場は人を変えるのか。
俺の目の前いる聖騎士様は、頼れるリーダーの雰囲気を漂わせている。
「聖騎士様の仰せのままに」
こうして、監視隊の俺達四人は嵐に備えるための準備に奔走することになった。
嵐の前。
この静かな時が過ぎ去ると同時に強烈な嵐が襲い来るのだ。
勇者、拳闘士、弓士のアンデッドを引き連れて。




