幕間 じゃじゃ馬
文字数:1343字
「人間が魔物化? そ、そんな……」
聖女は驚嘆の声を上げる。
三聖である二聖が大挙して押し寄せた1508匹の魔物を瞬殺した後、俺は草原地帯、そして森林地帯で起こった出来事をカリンに報告した。
聖女様は俺の顔の傷を回復魔法で治そうと、魔物達の返り血で赤く染まったローブを洗浄魔法で元通り真っ白にしようとする。
だが、それを断りカリンへの報告を優先したのだ。
俺のことなど二の次で、まずは住民避難の陣頭指揮を執る責任者と情報共有するべきだと思ったから。
「メメル……勇者パーティーのメンバーだった魔術師の女、メメル・フロストが言ってたよ。自分は魔王の眷属になったってな」
「眷属か……うん、分かった。詳細な報告ありがとう、レイン。大聖堂に戻ったら教皇様や枢機卿、ヴィクトと今後の対策を練り直すよ。でも、最初にやるべきことは決まってる。住民避難、これが第一だね」
「うん、そうだな、それがいい。これから――!!」
俺は最後まで言葉を言い終えることが、ある女のせいで許されなかった。
なぜならば、エミリーが俺の手を引っ張って馬車まで歩き始めたからである。
「お、おい、エミリー」
「報告はもういいでしょ? 早く一緒に食べよ! 私がレインのために作った玉子料理をね!」
そう言った女がチラリとカリンを見て、ニヤリと勝ち誇るように笑う。
「待って! レイン!」
「お、おい、カリン」
エミリーが引っ張る俺の右手とは反対の左手を掴んだカリン。
「今からわたしが回復魔法と洗浄魔法を施してあげる」
「聖女様、その汚い手を放してください。レインはお腹が減ってるの。私の手料理を早く食べたいって言ったんです」
「き、汚い? 汚いですって? マジで失礼極まりない女ね。こんな傷だらけのレインを放っておく気なの? 信じられないよ、この冷血女!」
「ちょっとエミリーもカリンも手を放せ! なっ?」
「「イヤ!」」
俺が間違っていた。
エミリー・ファインズとカリン・リーズ。
〈神の信託〉により選ばれし者。
聖騎士と聖女の手綱を握り、どうこうできるかもと邪な考えを持った俺が間違っていたのだ。
こいつらは、紛れもなくじゃじゃ馬。
暴れ馬そのもの。
誰にもエミリーとカリンの手綱は握れない。
誰にもだ。
これは神が与えた俺への罰なのだろうか。
「痛てて。おい、本当に痛いから手を放してくれよ」
「「イヤッたらイヤ!」」
二人の女が声を張り上げる。
エミリーが右手を、カリンが左手を掴んでグイグイと引っ張り合う。
その姿は、まるで綱引き合戦。
無意識なのかどうか知らないけれど、二人の女は身体強化〈剛力〉を発動したようで、俺の手首の骨が軋むと同時に肩の関節が悲鳴を上げる。
「ちょ、待てよ! これは洒落にならないから!」
俺は身体強化を発動し、自分の身を守ろうとしたが時すでに遅し。
〘ボキッ! ゴッキン!〙
無情に鳴り響く手首の骨が砕け、肩の関節が外れる音。
「痛ってぇー!!」
こうして名誉の負傷、もとい不名誉な負傷を負った俺。
エミリーとカリンに絶縁宣言をした時から、半時にも満たない時間で目まぐるしく色々なことがあった。
とりあえず、何とか無事に丸く収まったと思う。
しかし、交易路攻防戦はまだ始まったばかりだ。
そして、俺の懸念は現実となる。
生きる屍。
アンデッドが俺達の前に立ちはだかる。
魔王軍が誇る最強の戦士となって。




