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第4話 聖女

文字数:2058字

〘〘ヒヒーン!〙〙


 馬たちの鳴き声が辺り一面に轟くと、馬車はゆっくりと走り出す。


 目指す目的地は、最東端にある教会総本山。


 ――そして、エミリー・ファインズでもあり玉木奏でもある一人の女は、終焉の地に向けて走り始める。


 立ち止まることも、引き返すことも不可能。


 地獄の一丁目まで、一直線に進むだけだ。


♢♢♢


〘〘パッパカ、パッパカ、パッパカ〙〙


 二頭の馬はテンポよくひづめの音を鳴らしながら、私達が乗る馬車を引いて軽快に走っている。


 村の乗合馬車とは比較にならないほど立派な馬車なので、私の気持ちは自然と躍る。


 御者席にガスさん、その隣の席にゲイルさんが座り、私とレインは馬車の中の席で対座していた。


 いた。


 うん、そう。


 面と向かって座っていたはずなんだけれど、レインは二人と話すためなのか、出発後すぐに席を立つとゲイルさんとガスさんのところに行ってしまった。


 それから、三人の男はかれこれ小一時間ほど何やら話し込んでいる。


 いつまで話してんの? レインのバカ!


 その間、私はひとり淋しく窓の外の風景を眺めていた……。


〘カタカタカタカタ〙


 いつの間にか貧乏ゆすりを始めていた私。


 ……もう何よ! レインったら、私を放置? これが世にいう放置プレイ? 聞きたいこと、話したいことがいっぱいあるのにさ、ここまで私を一人にする放置ってひどくない?


〘カタカタカタカタカタカタカタ〙


 私のイライラが頂点に達する勢いとなると、貧乏ゆすりも一段と激しくなっていく。


 それに、それにだよ。ずっと聞き耳を立てていたら、聞き捨てならない言葉がちょこちょこ聞こえてきたのだ。


 あの方? あいつ? 


 ゲイルさんとガスさん、二人の騎士が誰かのことを「あの方」と呼び、レインはその人物を知っているのか「あいつ」呼ばわりしていた。


 あの方? あいつ? 女だよね?


 話の流れから絶対に女だよね?


 ……誰それ?


[プツン]


 堪忍袋の緒が切れた。


 これ以上ないくらいに完全に完璧に見事に切れた。


「レインー!!!」


「「「!!」」」


 レイン、ゲイルさん、ガスさんの三人の男は私の尋常ならざる声にハッとすると、話を中断して全員の視線が一点に集中する。


 その一点とは、エミリー・ファインズ。


 私にだ。


「レイン、こっちに来て!」


「な、何だよ? 今、俺達は大事な話をしてて――」


 戸惑いを隠せないレインの言葉に、私は自分の言葉を被せるように言い放った。


「いいから、早くこっちに来て!」


「もう、いったい何なんだよ」


 私の有無も言わせぬ気迫に押され、レインは渋々ながら馬車の席に座った。


「そこ! 仕切り閉めて!」


「「はい(っす)……」」


〘カタン!〙


 ゲイルさんとガスさんは、鬼気迫る私の声に恐れおののくと、急いで仕切りを閉めるのだった。


 ふふふ、これで邪魔は入らないよね?


 さぁ、愛しき人レイン・アッシュ。


 何から何まですべて話してもらいます。


 まずは、()()()について話してもらうね。


♢♢♢


「話して!」


「何だよ、藪から棒に。何を話せと?」


 …………ふむ。


 確かにレインの言う通りだと反省した私は、一から順序立てて話を聞くことにした。


「あいつって誰?」


「あいつ? ………あー」


 私の問いかけに眉をひそめるが、何のことか察しがいったレインは淡々と話し始めた。


「最東端に着くまで時間があるのに、出発して半時で説明か。あいつ関連の説明をするなら、まず始めに肝心なことを話さないといけない。一年前、俺はスキルを覚醒したんだ」


「えっ!? レインも〈神の信託〉で?」


 首を横に振り、無言で私の言葉を否定するとレインは言葉を紡いでいく。


「俺は〈聖女の託宣〉だった。聖女がいきなり村に来て言ったんだ。<レイン・アッシュ、君はサムライスキル所持者だよ>ってね。それから、刀という名の剣に触れてスキルを覚醒した」


「……聖女?」


 自分でも驚くくらい冷たい声で、その言葉を口にした。


 ――聖女。


 聖騎士と同じく三聖に名を連ねる者。


「ああ、そうだ。最後に聖女カリン・リーズが俺に言った。もし魔王軍がこの大陸に侵攻してきた時は、三聖と一緒に戦ってくれってな」


「カリン・リーズ!?」


 もう言うまでもない。


 私は侮蔑を込め、聖女の名前を口にする。


 そんなの当たり前だよ。敵になる女の名前に侮蔑を込めて何が悪いの?


 私には分かる。100%自信があるよ。


 聖女、お前は私の愛しき人レイン・アッシュに惚れたよね?


 万が一、私の思い違いだったら聖剣と神剣で自害してあげる。


 でも、そんなことには絶対ならない。


 ――聖女、お前は私の敵になるんだね。


♢♢♢


 教会総本山にある大聖堂。


 この絢爛豪華けんらんごうかな建物の最上階が、一人の女のお気に入りの場所である。


〘ガタン!〙


 聖女は、重厚な鉄枠窓を勢いよく開け放つ。


 窓の外に身を乗り出し、長く美しい白銀の髪をなびかせながら、遥か彼方を見つめる女の名はカリン・リーズ。


 〈聖女の託宣〉によって、レイン・アッシュに()()のサムライスキルを与えし者。


「レイン、地獄のような今の世界を救う救世主になるのは君だよ」


 聖女カリン・リーズは、愛しの人レイン・アッシュを想って頬を赤く染め上げるのだった。


 聖女もまた地獄の舞台に上がる。



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