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Over And Over 〜或る男の悲しくも儚い異世界復讐譚〜  作者: 前田ヒロフミ


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第51話 必殺スキル

文字数:2577字

「大丈夫だろ? 俺達の勝ちは揺るがないよ」


「「「「………………」」」」


 その美しき翡翠色の瞳に涙を(にじ)ませるカリンを始め、エミリー、ゲイルさん、ガスさんが満面の笑みを浮かべている俺を呆然とした表情で見つめていた。


「おいおい、自分の発言に責任を持とうぜ。エミリーとカリンは何でモメてたんだよ? ()()()が1508匹の魔物を駆逐するかで争ってたんだろ? そんなことができる聖騎士様と聖女様がここにいるんだ。俺達の勝ちは揺るがないのは当たり前だろ」


「で、でも本隊の魔物達が……」


 こぼれ落ちる涙を拭いながら、カリンが弱気なことを言ったので、俺は一喝する。


「カリン、酒場で俺に言った言葉を忘れたのかよ。守るんだろ? 東を決戦場にして東部と南部の人々を守るんだろ? 今がその時だ! 今から決戦が始まるんだ!」


「……う、うん……そうだね……確かにそうだ」


 そうだよ、それでいい。


 地面に膝をつき、打ちひしがれる聖女様なんて見たくない。


 スッと立ち上がった聖女カリン・リーズは、あの酒場で目にした時以上の決意に満ちた表情だった。


「大丈夫だ、カリン。確かに魔王軍本隊の動きは予想外だったが、俺達がいる。監視隊の俺達が遊撃隊となり、住民避難が完了するまでこの森林地帯で防波堤になる」


「……防波堤? 監視隊が遊撃隊に?」


 聖女は監視隊の面々である俺達をまじまじと見ながら呟いた。


「カリンには後で詳細な報告をするが、俺達は既に意思統一ができている。ここで防波堤になることをな。ま、遊撃隊はちょっと格好つけて俺が今考えたって感じだ」


「……そうだったんだ」


「ああ、だからカリンは何も心配するな。住民避難が完了するまで俺達が魔王軍本隊の侵攻を食い止めるよ」


「うん、ありがとう、レイン。それとゲイルにもガスにも……聖騎士様にも心からお礼を」


 聖女カリン・リーズは、俺達に頭を下げて感謝の意を表す。


「頭を上げろ、カリン。俺達はまだ何も為し終えてないぞ。お礼の言葉は住民避難が無事完了した時に頂くことにするよ」


「うん、分かった。その時に改めてお礼を言うね」


 この場にいる全員が笑顔になった。


 ……約一名を除いて。


(カリンのお次はエミリーか……はぁ、もうマジで大変だよ)


 大変なんだけど、幼馴染として長年の付き合いがあるので、ある意味では楽。


 今、エミリーは100%お冠だ。


 その理由。それは……。


 本人は間違いなく否定すると思う。


 だが、エミリーはちやほやされるのが嫌いではない。


 いや、むしろ大好きだ。


 俺、ゲイルさん、ガスさんの意識がカリンにあるのは面白くない。


 よって、お冠状態にある。


 その証拠に顔を下に向け、小石をコツンコツンと足で蹴っている。


 この仕草は《私を見てよ》のサイン。


「エミリー、ちょっと話がある。こっちに」


「何?」


 もう声色が《私、超機嫌悪いです》と言わんばかりの幼馴染だが、そんなのは百も承知ですよの俺はカリン達から少し離れた場所でエミリーに問いかける。


「で、玉子サンドにレタスを挟んでくれた?」


「えっ?」


(フフフ、勝ったな)


 俺は心の中で勝利宣言をする。


 あからさまにエミリーの表情が明るくなった。


「だって、俺のために朝食を作ってくれたんだろ? 俺の大好物の玉子料理をさ。エミリーの手料理を食べるのが今から楽しみだよ」


「ほ、本当に? うん、もちろん玉子サンドにレタスを挟んだよ。あと目玉焼きとゆでたまご」


「そうか。俺、お腹減っちゃったから早く食べたいよ」


「それじゃ、今から食べる? 一緒に食べよ」


(いやいや、それはダメでしょ! 1508匹の魔物がここに来るんだから。てか、エミリーは魔物達の存在をフルシカトなのかよ)


 エミリーが足取り軽く馬車に向かって歩き始めたので、俺は笑顔の幼馴染を必死に呼び止める。


「ま、待て! 早く食べたいのは山々だけど、エミリーは必殺スキルで魔物達を駆逐するんだろ。俺はその後でいいから、なっ?」


「平気平気、全然平気だよ。その役目は聖女様にやってもらうから。だから、今から一緒に食べよ」


 先程まで、どちらが魔物達を駆逐するかで言い争っていたエミリーの変わり身の早さに唖然としてしまう。


 そんなことやったら、今度はカリンがヘソを曲げそうだ。今だって、こちらをじっと見つめて仏頂面してるのに。


 しょうがない。奥の手を発動する時だ。


 エミリーの自尊心をくすぐろう。


「俺はエミリー・ファインズの晴れ姿をこの目で見たいんだ。聖騎士と聖女、三聖の力で迫り来る敵の軍勢を葬り去る場面をな」


「……ふーん。なら、私一人でよくない?」


「よくない! 聖騎士と聖女の共闘が見たいんだよ! ゲイルさんとガスさんだって二人の活躍する姿を見たいはずだぞ!」


「ふむ……」


 腕を組んで何やら考え込むエミリー。


(早く決断しろ。敵の軍勢はもう目と鼻の先なんだぞ)


「……分かった、私と聖女様で瞬殺するね」


「よし! 頼むぞ、聖騎士様」


 こうして聖騎士と聖女が初めて共闘することになるのだった。


♢♢♢


 敵の軍勢の前に立ちはだかる聖騎士と聖女。


 必殺スキルを繰り出すため、エミリーが纏う〈光の衣のオーラ〉とカリンが纏う〈天女の羽衣のオーラ〉が、それぞれ黄金色と白銀色に輝きを放つ。


 魔物の数は、1508匹。


 交易路を怒涛の如く突き進んで来る魔物達。


 そして、空を覆うように空中を飛来する魔物の数々。


 そのあまりの数の多さに俺はたじろいでしまう。


(こんな大群の魔物、どう対処すればいいんだよ?)


 ゲイルさんとガスさんは腰を抜かし、その場にへたり込んでしまった。


 ――轟嵐!

 ――神光!


 聖騎士と聖女は敵を射程に捉えたのか、必殺スキルを1508匹の魔物に繰り出す。



 ただただ凄かった。


 

 聖騎士が逆十字に構えた聖剣と神剣から放たれた轟嵐は、黒く猛り狂う竜巻だ。


 暴風が魔物達を一瞬で斬り刻むと同時に雷撃が粉々の無数の肉片を一片も残さずに消し去っていった。


 もう一人の三聖。


 聖女が手にする白銀の聖杖の魔法石から放たれた神光は、まさに天に架かる虹だ。


 七色の光が魔物達を捉えた刹那、瞬く間に浄化されて跡形もなく消し去られていくのだ。


 轟嵐と神光が放たれれば、生きとし生けるものすべての生命は何一つ存在することができないだろう。


 魔王が送り込んだと思われる1508匹の魔物は、聖騎士と聖女に瞬殺されたのである。


 三聖。


 まさしく魔王軍によって闇に覆われたこの大陸に光を照らす者。


 神の力をまざまざと見せつけられた瞬間だった。



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