第50話 敵の正体
文字数:2115字
魔王が統べる魔王軍によって闇に覆われている大陸に光を照らす存在。
それが聖女、聖堂騎士、聖騎士の三聖なのだ。
その三聖のうちの二聖として名を連ねる聖騎士エミリー・ファインズと聖女カリン・リーズが、お互いの何が気に食わないのか罵り合う。
教会騎士団第一隊隊長ゲイル・ハミルトンと副隊長ガス・エンビアは、聖騎士と聖女の口論を目の当たりにしてオロオロするばかり。
俺、レイン・アッシュはエミリーとカリンの言い争いを止めるわけでもなく、ひたすら自己嫌悪に陥っていたのだった。
♢♢♢
――悔しい。
どうして俺のサムライスキルは聖騎士スキルや聖女スキル、三聖のような力がないんだよ。
エミリーとカリンは、1000を超える魔物を余裕で駆逐できると言った。
1000だぞ、1000 !
もし俺にその力があるならば、単身で敵の軍勢の前に立ちはだかり、一匹残らず魔物を駆逐してやるのに。
何でサムライスキルには、三聖のような圧倒的な力がないんだよ。
そして、圧倒的な力ある者が俺の目の前で意味不明な言い争いをしている。
お前達は三聖だろう?
世界の、大陸の、大勢の人の光になる存在なんだろ?
――ムカつく。
マジでムカつく。
強者の余裕か?
ふざけんじゃねぇよ!
俺にも欲しい。
三聖のような圧倒的な力が、いや三聖をも凌駕しうる圧倒的な力が欲しい。
誰かの力に頼ることなく、己の力のみですべての魔を駆逐できる力が欲しい。
なぜ、俺には俺が欲する力がないのか。
心底自分が情けなくてしょうがない。
♢♢♢
「レイン殿? レイン殿!」
「……えっ? あっ、ゲイルさん、何か?」
「何かではありません! エミリー様とカリン様の喧嘩を止めてください!」
「そうっす! レイン殿、お願いしまっす!」
「は、はい、そうですね……」
ゲイルさんとガスさんは、見るに見かねてアホ女達の喧嘩の仲裁を俺に懇願してきた。
「はぁ」
俺はエミリーとカリンの子守じゃないんだけどな。
「はい、任せてください」
「「お願いします(っす)」」
まぁ、喧嘩の質も最初の殺し合いに比べるとだんだん緩やかになってきてるが、今のままじゃ共闘など不可能だろう。
エミリー、カリン。
俺は、1508匹の魔物を駆逐する力はない。
でも、聖騎士様と聖女様にはその力があるんだ。
何が原因で仲違いに終止符が打てないのか分からないけれど、俺が無理やりにでも終止符を打ってやる。
迫り来る敵の軍勢を必ず駆逐してもらう。
それが神より与えられし二人の使命なのだから。
「私が――」
「わたしが――」
相変わらず、エミリーとカリンはどちらがやるかでモメているのが言葉の節々から伝わってくる。
「おい」
俺は二人に近づき、そして割って入るようにして言葉を吐き捨てる。
「「レイン?」」
エミリーとカリンが俺の顔を見てハッとする。
しかし、二人が何か言葉を発する前に、俺は聖騎士の黒の祭服の胸ぐらを右手で、聖女の白いローブの胸ぐらを左手で掴み力任せにグイッと引き寄せた。
「「レイン殿!」」
その様子を見て驚く二人の騎士は、俺の行いを止めるべく声を掛けてくる。
「ゲイルさん、ガスさんは黙っててください。ここは俺に任せて。お願いします」
俺の有無も言わせぬ言葉に、ゲイルさんとガスさんは黙り込んだ。
「「うぅ」」
胸ぐらを強く締め上げられ、苦しそうに呻き声を出す二人の女。
「エミリー、カリン。これから来る敵の総数は1508匹だ。分かるか? 1508匹なんだぞ。俺の言っている意味が分かるか?」
〘バッ!〙
俺は二人を押し出すようにして胸ぐらを掴んでいた手を放す。
「「レ、レイン?」」
エミリーとカリンは喉元を手で抑えながら、俺の名を呼んだが次の言葉を耳にした時、顔面蒼白になる。
それはゲイルさんとガスさんも同じだった。
「これから襲い来る奴等は、俺達が知る魔王軍先遣隊の魔物達じゃない」
「「!!!」」
やっと俺の言った言葉の意味が分かったようだ。
特にエミリーは。
「カリン、俺達は四日前に小高い丘から魔王軍先遣隊を確認したよな? その時の魔物の数はいくつだ?」
「……613匹」
少し震えた声でカリンは俺の質問の答えを言った。
「そうだ。カリンにはまだ言ってなかったが、俺達は草原地帯で魔物と交戦したし、森林地帯に入ってからも交戦していた。俺とエミリーは少なくても400匹以上の魔物を駆逐している」
「……えっ? か、数が合わない……もしかして本隊の魔物達が?」
冷静になった聖女カリン・リーズは、この中の誰よりも頭が切れる人物なのだ。
「十中八九そうだろう。敵は、魔王は俺達の予想を遥かに超える速さで本隊を動かし東部侵攻を開始したんだ」
「そ、そんな……まだ住民避難を開始できてない。このままじゃ、たくさんの人が魔物達に殺され食われてしまう。何とかしなきゃ、わたしが何とかしなきゃダメだ。ダメだよぉ……ううう」
聖女カリンは地面に膝をつき、両手で顔を覆って嗚咽を漏らす。
「エミリー、お前も状況を把握できたな?」
「……うん」
敵の正体を知って項垂れるエミリーとカリン、そしてゲイルさんとガスさん。
だが、俺は違う。
口角を上げ、笑みを浮かべていた。
重苦しい雰囲気を打破するように、この場にいる全員に向かって明るい声で言葉にする。
「大丈夫だろ? 俺達の勝ちは揺るがないよ」




