第47話 ドラゴン狩り
文字数:2078字
聖女曰く、S級ダンジョンのラスボスであるドラゴンが俺達、いや正確には俺を殺すべく炎を吐く。
〘ゴォアアアアアアアアア!〙
俺は聖騎士様と聖女様をグッと強く抱き寄せ、そして優しく語りかける。
「俺にしっかり掴まってろよ」
「「えっ!」」
エミリーとカリンが照れた感じで声を上げた。
〘ギュン!〙
〈空間転移〉を発動し、真っ赤に燃え盛るドラゴンの炎を飛び越える。
(あんな豪炎をまともに食らったら命がいくつあっても足りないな)
〘バッ!〙
なるほど、流石S級ダンジョンのラスボスと称されるだけのことはある。
ドラゴンの真後ろに躍り出た俺達に向かって、尻尾による攻撃を仕掛けてきた。
〘バシッ!〙
(死角のはずなのに背中に目でもあるのかよ)
俺は〈疾風迅雷〉を発動、素早くバックステップしてドラゴンの攻撃を躱す。
さてと。
これから一芝居を打ってエミリーとカリンにドラゴンを駆逐してもらうわけだが、それにはちゃんとした理由がある。
困ったことに俺は、丸腰なのだ。
エミリーとカリンの殺し合いを止めるため、怒り心頭で馬車から飛び降りたので、刀を腰に差すのを失念してしまった。
今の俺は情けないことに攻撃力がゼロな状態。
「我が刀よ! 来い!」なんて叫んでも刀が俺のところに飛んで来るはずもないしな。
試しに心の中で叫んでみたが、もちろん刀は馬車の中にあるままだ。
よって、聖騎士様と聖女様にラスボスを討ってもらうしかない。
幸いなことに敵のヘイトは俺だけに向いている。
ドラゴンが躍起になって俺を追いかけてくるならば、それを利用させてもらう。
この戦闘は長引かせてはダメだ。
いくらゲイルさんとガスさんから距離を取っているとはいえ、万が一のことだってあり得るかもしれない。
だから、エミリーとカリンにドラゴンを瞬殺させるのが吉。
あの必殺スキルをドラゴンに繰り出させる。
聖騎士と聖女が互いを亡き者にするため、繰り出そうとした必殺スキルをね。
〘ドドドドドド!〙
その巨体をぐるりと反転させるとドラゴンは両翼をバサッと広げ、銀色の鱗を刃の如く無数に放ってきた。
「おっと危ね」
〘ギュン!〙
〘バッ!〙
銀色の鱗の攻撃を〈空間転移〉で飛び越え、またしてもドラゴンの真後ろに躍り出た俺達。
〘ガアアアアアアアアアアアアアアア!〙
お怒りモードなのか、ラスボスが長い首を天に向けて咆哮する。
頃合いだな。
そう思った俺は、エミリーとカリンを抱き寄せていた手に力を入れて二人に言った。
「凄いな、二人とも。やっぱり流石の三聖様だよ」
「「えっ?」」
二人の女は、鳩が豆鉄砲を食らったような顔で俺を見ながら言葉を発する。
(さぁ、一芝居打つぞ)
「あれ? 何でそんなに驚いてるんだよ? だって今の状況を想定してエミリーとカリンは模擬戦してたんだよな?」
「「あ、あの――」」
何か言葉を紡ごうとした二人の声をぶった斬り、俺は淡々と笑顔で話を続ける。
「ごめんな。俺はてっきりエミリーとカリンが殺し合いをしてると思ったからさ、感情的になって二人を咎めたんだけど、それは俺の間違いだったと今の状況になって分かったんだよな。ははは」
「「…………」」
エミリーとカリンは黙り込んでいたけれど、体は正直なのかブルブル震えているのが俺の手に伝わってきた。
「縁切りだ! なんて口走って悪かったよ。エミリーとカリンに謝罪する。本当にごめん、ごめんなさい」
「「……う、うん」」
か細い声で返事をして頷く二人の肩に、俺は先程よりも力を込めてグイッと抱き寄せた。
「謝罪を受け入れてくれてありがとう。じゃあ、俺からひとつ言うことがある。聞いてくれるかな?」
黙って頷く聖騎士様と聖女様。
「もう二度とあんなことするなよ、絶対にだ。二人とも分かったな?」
俺は無表情、そして無機質な声でエミリーとカリンに言ったのだった。
(今回だけ、俺が折れるのは今回だけだぞ)
二人の女はその言葉を聞いた瞬間、ビクッと体が跳ね上がった後に返事をする。
「「……はい」」
「分かってくれて嬉しいよ。これから皆で仲良く魔王軍を駆逐してやろうぜ」
俺は声を弾ませ、満面の笑みを浮かべて二人の肩をバンバン叩きながら言葉にした。
「「……うん」」
「エミリー」
「何、レイン?」
「カリン」
「ん? 何、レイン?」
「後で二人にたくさん話したいことがあるんだ。でも、その前にラスボスを駆逐しなきゃならないが、見ての通り俺は丸腰。攻撃力ゼロだからさ、エミリーとカリンにドラゴンを瞬殺してもらいたい。やってくれる?」
俺は柔らかな眼差しを二人に向け、少し甘えた感じで問いかけた。
「「!!」」
エミリーとカリンは、ぱぁっと表情が明るくなると我先にと話し始める。
「レイン! 私、私ね、レインのために朝食を作ったよ! レインの大好物の玉子料理だよ! 絶対美味しいから食べてね!」
「レイン! その痛そうな顔の傷をわたしの回復魔法で治してあげるね! それと洗浄魔法でローブの汚れを綺麗さっぱり落としてあげるから!」
「そうか、ありがとう。だけど、その前にドラゴンを駆逐してくれよな。模擬戦で繰り出そうとした必殺スキルで瞬殺を頼むよ」
「「うん!」」
「よし! それじゃ、今からドラゴン狩りだ!」