第46話 ラスボス
文字数:2129字
「レイン、玉子サンド美味しい?」
「レイン、傷は痛くない?」
「ああ、美味しいよ、エミリー。もう大丈夫、痛くないよ、カリン」
馬車の野営一式に備え置いてあった木造りの簡易テーブルで遅めの朝食を食べていた俺に、エミリーとカリンが我先にと声を掛けてくる。
「私がレインと話してるので、バ……聖女様は邪魔しないでください!」
「今、わたしがレインと話してるの! ク……聖騎士様は邪魔しないでよ!」
「……」
「あっち行ってください、聖女様!」
「あっち行ってよ、聖騎士様!」
「……」
「何よ! バカ女!」
「何よ! クソ女!」
二人の女が勢いよくイスから立ち上がり、顔を突き合わせて火花を散らす。
「……またおっ始めるつもりか?」
「「!! …………」」
俺がエミリーとカリンに睨みを利かせながら冷たく言葉を投げかけると、二人はハッとして黙り込む。
(はぁ、まったく何なんだよ……もうマジで心身ともにほとほと疲れた)
俺の今の状況を説明したいと思う。
話は、小一時間ほど遡る必要がある。
♢♢♢
「エミリー! カリン! お前らとは縁切りだ!!」
「「!!! ………レイン~」」
「ファインズさん、リーズさん。気安く俺の名を呼ばないでください。それでは、お元気で。 さようなら!」
「「!? …………レイン~」」
俺は、二人に一瞥もくれず足早に歩き去る。
本気で縁切りするつもりだった。そのくらいエミリーとカリンが許せなかった。
(もう勝手にしろ! 俺は知らん!)
二人を置き去りにして颯爽と歩いていると、ふと教皇様の声が頭の中に響いた。
[レイン・アッシュよ]
……でも、待てよ。俺は教皇様と約束したんだよな。
――レイン・アッシュよ。
〈聖女の託宣〉により選ばれし者
この大陸に光を照らす三聖を
その力で支えてあげてください
あなたに神のご加護があらんことを
――はい。命ある限り。
あーもー、クソッ! しょうがないな。
どんな理由で殺し合いを始めたのか分からないが、エミリーとカリンにも言い分はあるだろう。
その理由くらいは聞いてやるべきだと思った。
そして、殺し合いを始めた理由がなんだろうと男の俺が折れなければならない。
たとえ、女の方に100%非があってもだ。
そう、いつ何時も男は女を許して折れるべき。それが物事万事上手くいくコツらしい。
人生の先輩でもある親父と兄貴は、苦虫を噛み潰した顔をしながら口を揃えて俺に言っていた。
俺としては納得し難い気持ちもあるけど、これからのことを考えるときっと間違いではないはず。
エミリー・ファインズは聖騎士として、カリン・リーズは聖女として、魔王軍を討つためになくてはならない三聖のうちの二聖なのだから。
「はぁ〜」
足早に歩く足を止め、そしてため息をひとつしてから振り返る。
エミリーとカリンは、俺の一挙手一投足を見ていたんだと思う。
振り返った俺を見て、驚きと嬉しさが相まって複雑な顔をしていた。
「どうして、エミリーとカリンはあんなことやってたんだよ?」
俺は、穏やかな口調でそう言うつもりだった。
だが、実際に言った言葉はまったく違う。
「エミリー! カリン! そこからすぐ離れろ!」
「「えっ?」」
現状が把握できていない聖騎士と聖女は、俺の言葉の意味を理解できずにいる。
「バカ野郎、死にたいのか!」
〘フッ〙
俺は〈疾風迅雷〉を発動し、エミリーとカリンの二人を両脇に抱き抱えると同時に〈空間転移〉を発動する。
〘ギュン!〙
〘バッ!〙
これから現れる敵と相対するため、ゲイルさんとガスさんがいる馬車から距離を取ったところで〈空間転移〉を解除した。
「「レ、レイン?」」
何が何だか分からず呆気に取られている二人に向かって、俺は語気を強め言い放つ。
「来るぞ!」
「「!!」」
〘ドォォォォォォォォォン!〙
今まさしくエミリーとカリンがいた場所に、敵が姿を現す。
その圧倒的巨体が大地に着地すると、激しい地響きが当たり一面に轟く。
同じだ。あの熊の魔物の時と同じだった。
何の前触れもなく空間が歪み、いきなり敵が姿を現すのだ。
スキルでは探知が不可能。
俺のサムライスキルはもちろんのこと、三聖である聖騎士スキルと聖女スキルさえも探知ができない。
だけど、前回と同じく見えた。
なぜ、俺には見えるのか理由は分からない。
分からないが、一つ分かったこともある。
こんなことができるのは、おそらく一人だけだ。
――魔王。
お前がやったことだろ?
〘グルルル……ガァァァァアアアアアア!〙
交易路にそびえ立つ数多の巨木を遥かに凌ぐ大きさの銀色に光り輝く巨体の敵が、咆哮しただけで空気がビリビリと振動する。
長い首を少しだけ下げ、己の狩るべき獲物をギロリと睨みつけていた。
(……俺がお前の狩るべき獲物なんだな)
「ド、ドラゴン!?」
驚愕した表情でそう呟いた聖女カリン。
「ドラゴン?」
初めて耳にする名に、俺はカリンの顔を見据えて聞き返すと流石は聖女様って感じだ。
すぐ察したのか、俺とエミリーに目の前の怪物の説明をしてくれた。
「あいつはドラゴンだよ。ダンジョン、S級ダンジョンのラスボス」
S級ダンジョンのラスボスか……。
……さて、困ったことになった。
どうする?
「!!」
そうだ、閃いたぞ。
フフフ、この窮地を脱する方法を思いついた。
今から俺が一芝居打って、エミリーとカリンの二人に活躍してもらおうかな。




