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Over And Over 〜或る男の悲しくも儚い異世界復讐譚〜  作者: 前田ヒロフミ


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53/99

幕間 暗躍

文字数:2016字

〘バーン!〙


 大聖堂のとある一室の扉が、白銀の鎧を身に纏う男の手によって()け放たれた。


「こんな朝っぱらから何の用だ?」


 不機嫌そうに言葉を発した男の気持ちなど、まったく意に介するつもりはないのだろう。


 教会騎士団団長ヴィクト・タウは、この一室の主の元に向かって一直線に歩を進める。


 激昂した表情の男がノックもせずに入室した一室とは、大聖堂五階にある教会総本山ナンバー2の男の執務室。


 ヴィクトのただならぬ顔を見た男は、自分のそばに仕える聖職者に目配せをし、執務室からの退室を促す。若き聖職者は男に一礼すると、静かに退室していった。


 今現在、執務室にいるのは枢機卿とヴィクトの二人だけである。


「……今朝、カリンが黒髪のところに行った。もう我慢できない! 計画変更だ! あいつを今すぐ殺す!」


「それはダメだ。レイン・アッシュは魔王軍を全滅させるまで生かしておく。あいつは聖騎士と聖女の手綱(たづな)を握る役目がある」


「ふん、魔王軍など聖堂騎士の僕が全滅させてやるよ! それなら問題ないだろ? うん? 僕は間違ってるかい?」


 枢機卿は首を左右に振り、駄々をこねる子供に言い聞かせるようにヴィクトを(さと)した。


「目先のことより大局を見ろ。いくらお前でも魔王軍相手に一人で勝てるわけがない。三聖の力あってこそ魔王を葬り、そして魔王軍を全滅させることができるのだ。それにだ……教皇を死に追いやるには時間が必要だとあれほど説明しただろう」


「じゃあ、あいつと教皇の二人を僕が殺せば、すべて丸く収まるじゃないか? そうだろう? ()()()()()


「はぁ……」


 枢機卿エドモンド・ガルシアは、たまらず深いため息をつく。人というのは、嫉妬に駆られるとこうも見事に見境がなくなってしまうのかと実感するのだった。


(気持ちは分からなくはない。私も教皇に嫉妬しているのだからな。教皇選挙で勝利さえしていれば、この私が教皇であの男が枢機卿のはずだったのに……クソ!)


 枢機卿は苦い過去を思い出し、しかめっつらをするが、前途洋々たる未来の自分を思い浮かべ晴れやかな笑顔になる。


 まずは自分の計画を無視し、暴走しかねないヴィクトをいさめるのが先決とばかりにある事を話し始めた。


「ヴィクトよ、一つだけ聞く。お前はカリンに嫌われたいのか?」


「そんなわけないだろ……枢機卿、僕はあまり気が長いほうじゃない。もったいぶらずに早く要点を話してくれ」


「ふふふ、そうだったな。先日、私のところにカリンが訪ねてきて――」


〘ドン!〙


「愛しのカリンが? 何で? どうしてだ? 早く話せ!」


 ヴィクトは長机に両手を叩きつけ、その身を乗り出した。


「だから、今から話す。お前は少し落ち着け。カリンは、教皇の身を案じて私のところに来たのだ。聖騎士エミリー・ファインズが黒く危険な存在だとな」


「あの女が!?」


「そうだ。その話を聞いた時、心が踊ったよ。お前で教皇を死に至らしめるつもりだったが、とんだ伏兵が現れた。よく聞け、ヴィクトよ。カリンは知っているのだぞ。〈神の信託〉により選ばれし三聖が人の道を外れた時、教皇が死ぬことを」


「そ、そんな、カリンがそのことを知っていたなんて……教皇が死んだら僕は愛しのカリンに嫌われるどころか恨まれてしまうじゃないか! ん? 待てよ? そうか、そうなのか! 教皇を殺す役目は、僕じゃなくてあの女になったのだな!」


 枢機卿の話をすべて理解したのか、ヴィクトは小躍こおどりして喜ぶ。己が人の道を外し、教皇を亡き者にしたあとの後顧の憂いを、何一つ心配する必要がなくなったからだ。


「ふふふ、理解したな。そうだ、すべて時が解決してくれる。三聖が魔王軍を全滅させて、聖騎士のせいで教皇が死ぬ。そのあとに晴れて私は教皇となり、ヴィクトはレイン・アッシュを殺し、カリンを手中に収めればいい」


「しかし、あいつは今すぐ殺したい。カリンの気持ちはレイン・アッシュにある。僕はそれが悔しくてたまらない」


 ヴィクトが悔しさの余り、(こぶし)を握り締めるとポタポタと指の間から血が滴り落ちていった。


 その様子を黙って見ていた枢機卿は言う。


「ヴィクトよ、今は我慢の時だ。聖騎士と聖女の手綱を握れるのはあの男だけ。私のスキルがそう告げている。魔がこの世から消え去れば、レイン・アッシュは用無しだ」


「……信じていいんだな?」


「信じなさい。信じる者は救われる」


「分かった」


 ヴィクト・タウは不満ながらも枢機卿の言葉を信じ、執務室から立ち去っていく。


「ふぅ」


 誰もいなくなった執務室で、枢機卿はひとり安堵のため息をついた。


「バカは単純で本当に助かる。利用するものは何だって利用するのが私の主義。ヴィクトよ、お前は単なる捨て駒にすぎない。聖女カリンは()()エドモンド・ガルシアが頂く。すべて私のおもむくままだ。ふふふ、あっははははははは!」


 暗躍の首謀者、そして枢機卿である男。


 エドモンド・ガルシアの笑い声が、執務室に響き渡った。


 だが、枢機卿に前途洋々たる未来などない。


 一人の男の刀によってつゆと消えるのだから。



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