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Over And Over 〜或る男の悲しくも儚い異世界復讐譚〜  作者: 前田ヒロフミ


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第45話 縁切り

文字数:3464字

 氣は満ちたよ。


 ふふふ、バカ女の命は今日ここで尽きる。


 私の禁忌スキル、轟嵐をお見舞いしてやる。


 風の神を宿す聖剣と雷の神を宿す神剣。


 風神と雷神が一つとなりて、神の嵐をこの世に顕現させる。


 その神の嵐は、この世の生きとし生けるものをすべて消滅させる力を持つ。


 聖女の禁忌スキルが何であれ、結果は何も変わらないよ。


 バカ女が放つ禁忌スキルごとカリン・リーズをこの世から消滅させてやる。


 神の嵐さん♪ 準備はいいよね? OK?


 じゃ、ムカつく聖女様をぶっ殺してきてね♪


「食らえ、カリン・リーズ! 轟嵐!」


 私が、バカ女を殺すべく禁忌スキルをまさに発動しようとした時だった。


〔キーン!! キーン!! キーン!!〕


 頭の中でけたたましく鳴り響く警告音。


 聖騎士スキルが敵を探知して、私に警告するのだ。


〔ハヤクコノバカラニゲロ〕


(えっ、逃げろ!? どういう……!!!)


 ……無理……無理だよ…………足がすくんで動けない……こ、怖い……怖いよ……死ぬの? ……私は殺されるの? ……。


 聖騎士スキルの警告なんて無意味だった。


 だって、漆黒のオーラを纏う敵を見た瞬間、死を覚悟してしまった。


 ……いや、いやだ。


 死にたくない。


 私は何とか気持ちを奮い立たせて、迫り来る敵に相対あいたいするけれども、さっきから体の震えが止まらないし、ちょっとでも気を緩めたら失禁しちゃいそうだよ。


 それは隣りにいるカリンも同じだと思う。


 私達二人は、この新たな敵の出現によって禁忌スキルを発動したくてもできなかった。


 それほどの敵が、私達に迫っていたのだ。


〘ブォ!!〙


 おどろおどろしい漆黒のオーラが、私を覆うように広がっていく。


「ひぃ」


 私は、恥も外聞もなく悲鳴を上げる。


 そして、漆黒のオーラを身に纏う敵の正体を知り、少しだけ失禁してしまった。


 私の前に立つレインが怒り心頭なのか、顔を真っ赤にしてこれまで見たことがないほど怒りを露わにしていたのだ。


「お前ら、何してんだよ」


 愛しき人の怒気を孕んだ声が、私の体に突き刺さる。


「…………」


「もう一度だけ言う。お前ら、何してんだよ」


 レインの問いかけに黙り込む私。


 そんなの正直に言えるわけがないよ。


 バカ女と殺し合いをしてましたなんて。


♢♢♢


 よし! 氣は満ちたよ!


 ふふふ、今日がクソ女の命日になる。


 聖女の禁忌スキルを今から食らわせてあげる。


 この世の悪しき魔をすべて浄化する神の光、神光をね。


 クソ女は聖騎士だけど、魔でもあるよね?


 お前は真っ黒でヤバい奴だよ。いずれ人々に(あだ)をなす存在になるのは火を見るより明らか。


 そう、わたしの中でクソ女は既に魔なのだ。


 聖女の禁忌スキルは、必ず魔を浄化する。


 魔の者でもあるエミリー・ファインズには、まさに必殺のスキルとなる。


 ……ねぇ、どうしてそんなに真っ黒なの?


 何かしら悪行を重ねに重ねたから、そこまで真っ黒になってるの? まぁ、それはどうでもいいか。


 今この時、あなたはこの世から浄化され消滅するのだから。


 それじゃ、さようなら、聖騎士様♪


「食らえ、エミリー・ファインズ! 神光!」


 聖杖の魔法石が禁忌スキルを発動する刹那、頭の中で仰々(ぎょうぎょう)しく鳴り響く警告音。


〔キーン!! キーン!! キーン!!〕


 聖女スキルが新たな敵を探知して、わたしに警告する。


(くっ、何? 大げさに騒ぎすぎだよ。今からクソ女を……)


〔ハヤクコノバカラニゲロ〕


(は? 逃げろって……!!!)


 わたしは、この世で一番愚か者だと思った。


 スキルの警告をちゃんと聞き入れていたら、この場から逃げられたかもしれないのに。


 いや、きっとそれでもダメだっただろう。


 漆黒のオーラを纏う敵を見た瞬間、わたしは足がすくんで動けなくなってしまったのだ。


 ……ははは……終わった…………死ぬ……絶対に……死ぬ……これ……。


 諦めが肝心とは、よく言ったものだ


 わたしは自分の命を諦めたのだから。


 それでも人間は不思議なもので、最期の最期まで足掻あがきたくなるのもまた本能。


 死にたくない、まだ死にたくない。


 迫り来る敵と相対(あいたい)して、気丈に振る舞ってはいるが体は恐怖でブルブル震えていた。


 クソ女が禁忌スキルを発動させようとした時でさえ、わたしは怖くも何ともなかったのに、今は怖くてしょうがない。


 それは隣りにいるエミリーも同じだと思う。


(もうダメ、やっぱり無理……)


 禁忌スキルを発動できなくなるほどの凶悪な敵が、目の前まで迫ってきた。


〘ブォ!!〙


 おどろおどろしい漆黒のオーラが、わたしを包み込むように広がっていく。


「ひぃ」


 わたしは、年甲斐もなく悲鳴を上げる。


 そして、漆黒のオーラを身に纏う敵の正体を知り、ほんの少しだけ漏らしてしまう。


 わたしの前に立つレインが烈火の如く燃えたぎり、今まで見たことがないくらい顔を真っ赤にして怒りを露わにしていた。


「お前ら、何してんだよ」


 愛しの人の怒気を孕んだ声が、わたしの体を貫いていく。


「…………」

 

「もう一度だけ言う。お前ら、何してんだよ」


 レインの問いかけに黙り込むわたし。


 そんなのバカ正直に言えるわけがない。


 クソ女と命のやり取りをしてましたなんて。


♢♢♢


 馬車の窓から身を乗り出し、外の様子を見た俺は愕然とする。


 は? えっ? 何で? 嘘だろ?


 目の前で起こっている現実が信じられずに、ただ困惑するばかりだった。


 エミリーとカリンが、戦っているのだ。


 喧嘩の域など遥かに通り越していて、それはまさに殺し合いといっても過言ではない。


 聖騎士と聖女が相手を殺すため、躍起になっている姿を見た時、腸が煮えくり返るような思いだった。


「あいつら~、何やってんだよ!!」


 この大陸は魔王が()べる魔王軍に蹂躙され、闇に覆われている。


 そんな闇に光を照らす存在が、三聖なのだ。


 教皇様もそう言ってたよな?


 なのに、どうして聖騎士と聖女が殺し合いをしてるんだ?


 おかしいだろ!


 どういう理由で殺し合いになったのかなんて知らないが、俺は絶対許さないぞ。


 エミリーもカリンも見ただろ?


 幼い子供達が泣き叫びながら魔物に食われていく凄惨な光景を。


 力なき弱者の人々が、圧倒的強者によって蹂躙されていく光景を。


 お前らの敵は誰だよ? 敵を間違えるなよ。


 聖騎士と聖女の敵は、魔王軍だろう?


「エミリー! カリン! お前らの敵は魔王軍だろうが!!」


 俺はそう叫ぶと馬車の窓から飛び降り、二人に向かって歩いていく。


 すると、真横からゲイルさんとガスさんが声をかけてきた。


「レ、レイン殿!? レイン殿! エミリー様とカリン様の戦いを止めてください! お願いします!」


「そうっす! お願いしますっす! レイン殿なら二人の戦いを止められますっすから!」


 それは二人の切実な思いだった。


 ゲイルさんとガスさんも、必死にエミリーとカリンの殺し合いを止めたに違いない。


 俺は二人の思いを受け止め、力強く(うなず)いた。


〘ブワッ!!〙


 黄金色こがねいろのオーラと白銀色しろがねいろのオーラが、二人の体から激しくほとばしるのが見えた。


 エミリーとカリンの意を決した表情、そして二つのオーラが物語っていた。


 ――決着をつけようと――


 いったい何が楽しいのだろうか、エミリーとカリンは意気揚々としている。


 その二人の姿に、俺は静かにキレていく。


(お前ら、殺し合いがそんなに楽しいのかよ? それなら俺と殺し合いでもするか? いいぜ、やってやるよ)


〘ボワッ!!〙


 まるで負の感情をありのまま顕現したようなおどろおどろしい漆黒のオーラが、俺の体から迸っていった。


 ――轟嵐! 「!!」

 ――神光! 「!!」


「「!? ……」」


 エミリーとカリンは、この俺を認識したのかどうか分からないが漆黒のオーラを認識してからというもの、二人は時が止まったみたいにピクリとも動かなくなってしまった。


(ちっ、そんな簡単に殺し合いをやめるなら、最初から殺し合いなんてするな)


〘ブォ!!〙


「「ひぃ」」


 再び負の感情が顕現したのか漆黒のオーラが怒涛の如く迸ると、二人の女が同時に悲鳴を上げる。 


 俺はエミリーとカリンの前に立ちはだかり、怒りの感情を一切隠さず二人をとがめた。

 

「お前ら、何してんだよ」


「「…………」」


 ばつが悪そうに身を縮めて黙り込む二人。


「もう一度だけ言う。お前ら、何してんだよ」


「「…………」」


 そうかよ、意地でも話す気がないのなら俺にも考えがある。


「エミリー! カリン! お前らとは縁切りだ!!」


「「!!!」」


 俺は、驚きの表情をする二人に背を向けて足早にこの場を後にした。


「「レイン~」」


 猫なで声で俺の名を呼ぶエミリーとカリンに、他人行儀な言葉使いで言ってやった。


「ファインズさん、リーズさん。気安く俺の名を呼ばないでください。それでは、お元気で。さようなら!」


「「レイン~」」


 怒りに震える俺は、二人の女に一瞥(いちべつ)もくれず歩き去るのだった。



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