第44話 漆黒のオーラ
文字数:3767字
〘キン! キン! キン!〙
聖女が放つ攻撃魔法を、聖剣と神剣を振り抜きガードする。
「まだまだこれからよ! 氷槍、貫け!」
〘ビューン!〙
「聖女様、それはこちらも同じです!」
〘キン!〙
私と同じく完全体となった聖女。
そのカリンが水、氷、火、土、光の五属性魔法を無詠唱によって繰り出し、圧倒的速さで攻撃してくる。
魔法に詳しくない私にだって分かる。
元々あった才なのか、それとも聖女スキルの恩恵なのか、はたまた両方なのか、そこら辺はちょっと分からないけれど、間違いなくバカ女はこの世界で一番の魔法の使い手なんだ。
だけど、私は聖女と戦っていく中であることに気づいた。
カリン・リーズの聖女スキルは防御特化型だと。
たとえ完全体になろうとそれは変わらない。
確かに完全体となった聖女が放つ攻撃魔法は凄い。
でも、今の私も完全体の聖騎士なのだ。
余裕とまでは言わないが、二本の剣で斬り捌くことはできている。
光鏡壁のような目を見張る攻撃魔法など一つもないのだから。
きっとカリンはジリ貧状態のはず。
決定的な攻撃魔法がなく、今のままでは私を仕留められないと判断していると思う。
……まぁ、それは私も同じなのかな。
幾度となく天嵐斬を放ったけど、どうしても光鏡壁に跳ね返されてしまう。
完全体の聖女が織り成す白銀の光鏡壁は、まさに鉄壁だった。
聖騎士スキル究極の斬撃、天嵐斬を超越する斬撃なんてない。
あの鉄壁の防御を打ち破る術がない現状に、私は苛立つ。
「風刃! 雷刃! 聖騎士を斬り裂け!」
〘シュ! シュ!〙
聖女が手に持つ聖杖の魔法石よって、白銀の風刃と雷刃が放たれた。
「!! 舐めるなー! 聖剣は風の神、そして神剣は雷の神を宿してるのよ! この私に風刃と雷刃が、風魔法と雷魔法が通用するわけないでしょ!」
〘カキン! カキン!〙
私はそう叫びながら、聖剣で風刃を、神剣で雷刃を力任せに叩き斬る。
聖騎士の誇りを傷つけられた思いだった。
(おちょくるのも大概にしろ)
ありったけの殺意を込め、聖女カリンを睨みつけるがすぐにそれは私の思い違いだと理解することになる。
「!? ……」
「ふー、ふー、ふー、ふー」
白銀の聖杖を前方に突き出し、肩で息をする聖女。
カリンの顔は、私をおちょくるような感じではなく真剣そのものだった。
――必死。
そう、カリンは必死なのだ。
ぶっ飛ばすなんて戯れ言を言っていたのに、今は私と同じく強烈な殺気を放っている。
私、エミリー・ファインズを殺すために。
ふふふ、ごめんね。
聖女様もこの現状を何とか打開したくて必死なんだよね。
……正直、私達のスキルは完全体となっても甲乙付け難いのかな。同じ三聖だし、当たり前って言えば当たり前なのかもしれない。
でもね、私の聖騎士スキルは一騎当千、最強スキルなんだよね。
それを今から証明して差し上げます。
天嵐斬を超える究極の斬撃はもうないけれども、必殺の固有スキルならまだあるよ。
……このスキルを人に繰り出すべきじゃないことは、よく分かっている。
魔王軍、魔の奴等に対してのみ使うべき固有スキルだ。けれど、あなたを殺すために敢えて使う。
そうしないと聖女に勝てない。
――聖女カリン・リーズ。
あなたも持ってるんでしょ?
同じ三聖だもん、分かるよ。
お互い必殺の固有スキルを繰り出して、私達の戦いに決着をつけようよ。
とはいえ、それでも勝つのは私だけどね♪
〘パッ!〙
私は聖剣の持ち手を変え、剣先を下にすると神剣を重ね合わせ、逆十字にして構える。
そして、バカ女に最後の言葉を投げかけた。
「私は、禁忌を犯します。聖女様にその覚悟がお有りですか?」
「もちろんあるよ。あるに決まってるでしょ」
(だよね、そうじゃないと張り合いがないよ)
〘ブワッ!!〙
黄金色のオーラと白銀色のオーラが、一段と激しく私達の身体から迸る。
〘バキッ! バキッ! バキッ!〙
森林地帯の交易路。
天地を揺るがすほどの二つのオーラが激突した影響で、周囲の数多の巨木が音を立てて薙ぎ倒されていく。
「エミリー様~! カリン様~! お二人とももうお止めください~! 後生ですから~!」
「そうっすよ~! マジでダメっすよ~!」
遠く離れた場所からゲイルさんとガスさんの声が聞こえてきた。私達のただならぬ様子に、二人は堪らず声をかけてきたのだろう。
(……ゲイルさん、ガスさん、ごめんなさい。それは無理です。私は、聖女カリン・リーズを殺します。だって、この女は邪魔な存在でしかない……ムカつく女だよね、お前は! レインはね、レインは、レイン・アッシュは私だけのものなの!)
私は、愛しき人のために禁忌を犯す。
「食らえ、カリン・リーズ!」
聖騎士エミリー・ファインズが、最強にして最凶のスキルを放つのだ。
――轟嵐!
♢♢♢
「ちっ!」
わたしは、思わず舌打ちしてしまう。
(手詰まり感が半端ないな……)
完全体の聖女となって、速度や強度が格段に上がり、破壊力抜群の攻撃魔法を放てるようになったけど、相手は同じ三聖にして完全体である聖騎士。
「ふふふ」
少し自虐的に笑ってしまったわたし。
……防御特化型の悲しい性だよね。
こんなにあらゆる攻撃魔法を繰り出しても、クソ女に決定打を与えることができない。
聖騎士スキルは、攻防一体型でとても均衡の取れたスキル。加えてあの聖剣と神剣と来れば一騎当千、最強スキルと言われるのも納得って感じ。
ヴィクトの聖堂騎士スキルが攻撃特化型で、わたしの聖女スキルが防御特化型。エミリーの聖騎士スキルは、わたし達の二つのスキルからいいとこ取りしたようなものだ。
そりゃ、お強いに決まってるよね。でもさ、クソ女もわたしと戦って理解したでしょ?
この完全なる光鏡壁。
レイン以外は誰にも砕くことができないの。
つまり、あなたもわたし同様に手詰まり感が半端ないことになっているはず。
わたし達の現状は、お互いに甲乙付け難く千日手の様相を呈している。
しかし、わたしは一つの覚悟を心に定めている。
いざとなれば、必殺の固有スキルを繰り出し聖騎士エミリーを殺す。きっと同じ三聖である聖騎士スキルにも必殺の固有スキルはある。
あなたにわたしのような覚悟はある?
禁忌を犯す覚悟が。
もし覚悟があるならば、その時にわたし達の戦いは終わりを迎えるだろうね。
もちろん、勝つのはわたしだ!
……レインはクソ女に渡さないよ。レインはわたしのものだ!
――そして、その時はやってきた。
突然だった。
エミリーが二本の剣を逆十字にして構える。
(……逆十字はよろしくないよ)
そんなことを考えていたわたしに向かって、上から目線で言葉を投げかけてくるクソ女。
「私は、禁忌を犯します。聖女様にその覚悟がお有りですか?」
わたしは白銀の聖杖を真横に持ち替えながらエミリーに返答する。
「もちろんあるよ。あるに決まってるでしょ」
(お前だけが覚悟あるみたいな言い方だよね。まったく本当にムカつく女だな)
〘ブワッ!!〙
その直後、わたし達二人の身体からオーラが激しく迸った。
〘バキッ! バキッ! バキッ!〙
〈神の信託〉により選ばれし三聖のうちの二聖が、雌雄を決するべくオーラを全開にしているせいで、交易路の両端にそびえ立つ巨木が次々と薙ぎ倒されていく。
「エミリー様~! カリン様~! お二人とももうお止めください~! 後生ですから~!」
「そうっすよ~! マジでダメっすよ~!」
ゲイルとガスの聞き慣れた声が、わたしの耳に聞こえてきて、思わずハッとしてしまう。
(もう何やってんのよ! もっと遠くに離れてなさいよ、死にたいの? そんなだからわたしに薄らバカなんて言われるの! この薄らバカども! ……万が一、ゲイルとガスを巻き添えにしてしまったらごめんなさい。今のわたしは手加減できる状況じゃないの)
レイン、今からエミリーを殺るよ。
真っ黒でヤバい奴だからじゃない。
あなたをエミリーに渡したくないから殺る。
わたしは、愛しの人のために禁忌を犯す。
「食らえ、エミリー・ファインズ!」
聖女カリン・リーズが、最高かつ至高の絶死スキルを放つのだ。
――神光!
♢♢♢
――轟嵐!
――神光!
エミリー・ファインズとカリン・リーズが、まさしく戦いに決着をつけるため、禁忌スキルを発動する瞬間だった。
聖騎士スキルと聖女スキルが、危険を察知して二人に警告する。
「「!!」」
なぜ、エミリーもカリンもスキルからの警告を無視して、すぐ禁忌スキルを発動しなかったのか?
否。
発動しなかったのではなく、発動することができなかったのである。
その理由は至極簡単なこと。
自分の目の前にいる敵よりも、さらに凶悪な敵が迫っていたからだった。
二人の女は、敵の攻撃に備えて身構える。
だが、己の命を刈り取られるかもしれぬ恐怖に身震いしている。
スキルの警告はこの場から逃げろだったが、逃げたくても足がすくんで逃げられず、二人に残されていた選択肢は消え去り、戦闘一択だけになってしまったのだ。
おどろおどろしい漆黒のオーラを身に纏い、エミリーとカリンに迫り来る敵。
「「ひぃ」」
三聖の二人の女が、声を揃え同時に悲鳴を上げる。
エミリーとカリンの前に立つ敵は、聖騎士と聖女が今まで見たことがないほど激怒しているのが一目瞭然だった。
漆黒のオーラを纏った男は、怒気を孕んだ声で静かに言う。
「お前ら、何してんだよ」
二人の女の想い人であるレイン・アッシュが、怒髪衝天の形相で立ちはだかる。
「もう一度だけ言う。お前ら、何してんだよ」




