第43話 殺し合い
文字数:2993字
―レイン・アッシュ、起きろ―
〔……森沢亮次か〕
―そうだ―
〔ここは?〕
―お前の意識の中だよ―
〔意識の中? ……そうか。で、俺はいったいどうなってるんだ?〕
―オレが暴走したせいで、お前は昏睡状態にある……悪いな、迷惑をかけてしまって―
〔謝るなって。お前のおかげでメメルを倒せたようなものだからな〕
―…………―
〔何だよ? 他に何かあるのか?〕
―玉木奏を殺し損ねた! あいつの強制シャットダウンさえなかったら、クソ女を殺れたのに―
〔エミリーを殺そうとしたのか?〕
―ああ。だが、本来の玉木奏じゃないからか聖約違反で止められたんだよ―
〔聖約? ……おい、森沢亮次! すべて話せ! 俺とお前、そしてエミリーと玉木奏のことを!❳
―それは……―
『ルール違反だぞ! 森沢亮次よ!』
〔今の声は誰だよ?〕
―この世界の神だ。今はまだ詳しい話はできないが、いずれすべてを話すよ。それまでお前は自分の為すべきことを為せ。魔王軍を駆逐し、弱き人を一人でも多く救え。そうすればオレとお前の道は必ず繋がるのだから―
〔おい、ちゃんと説明しろ!〕
―レイン、それよりも早く目を覚ませ。大変なことになってるぞ。フフフ、モテる男は辛いな。じゃ、オレはまたしばらく眠るよ―
〔大変なことって何だよ? おい、答えろよ! 答えろ、森沢亮次!〕
「森沢亮次ー!」
……ここは? ……馬車の中か? ……。
[ズキン]
また、この頭痛かよ。
……あれ? 俺は今、誰かと話をしていたような気がするけど……気のせいか?
「ん? ……何だ? あの亀裂は……」
馬車の天井に亀裂が二本、重なり合うように入っているのが見えた。
「あんなのなかったはずだよな……」
俺は、深い眠りから覚醒する。
でも、目の前の信じられぬ光景を見て、覚醒したことを激しく後悔するのだった。
「あいつら~、何やってんだよ!!」
♢♢♢
「ど、ど、ど、ど、どういうことっすか!? 隊長! な、な、何でエミリー様とカリン様がた、た、戦ってるんすか!?」
「し、し、し、知るかよ! お、お、俺が知るわけないだろうがー! えー!? 何でー?」
「薄らバカども! すぐにここから離れなさい! まだ死にたくないでしょ? 早く!」
「「はいー!」」
「……聖女様は余裕ですね。今の私を目の当たりにしてゲイルさんとガスさんの心配ですか?」
「わたしは聖女だよ♪ 聖騎士様みたいに血も涙もない冷血女とは違うからね♪」
「!!」
バカ女め! 私だって心配してたよ。
一瞬でお前を殺して終わるつもりだったから、二人に声を掛けなかったの!
私は、ゲイルさんとガスさんを守るようにと愛しき人レインと約束してるんだからね。
バカ女は、レインと何か約束事ある?
ないでしょ! 私とレインは同じ黒の者。
レインは運命の人なの! お前なんかに絶対渡さないからね!
あの世に送ってやる! バカ女!
「戦いは、いつも先手必勝でしたっけ? その通りですね」
出し惜しみはしない。
聖騎士スキルの全能力を駆使して聖女を殺してやる。
――神速!
私は固有スキル〈神速〉を発動して、聖女に斬りかかる。
おそらくレインの〈疾風迅雷〉と似たようなスキルだと思う。
〘フッ〙 「っ! そこ、右! 光弾!」
〘バンッ!〙 「どこに撃ってるんですか?」
勝利を確信した私は、ニンマリと笑った後、バカ女の左横に姿を現す。
〘バッ!〙 「!? 左? くっ、残像か!」
「正解ですよ♪ 聖女様」
聖騎士スキルの〈神速〉とサムライスキルの〈疾風迅雷〉には、決定的に違うところがあるのだ。
私の〈神速〉は、そのあまりの速さゆえに残像を生み出す。
「舐めるな! 光鏡壁!」
「ご自慢の光鏡壁もろとも聖女様を斬り刻んで差し上げます」
〈天翼〉、〈天颯雷〉に次ぐ、聖騎士スキル究極の斬撃を食らわせてあげる。
「風神と雷神よ! その力を示せ!」
私が纏っている〈光の衣のオーラ〉、その神の力を聖剣と神剣にすべて与え給うた。
〘キラッ!〙
崇高な輝きを放つ聖剣と神剣。
(本当に綺麗だな……よし!)
「我が聖剣と神剣に斬れぬものなし!」
私は二本の剣を頭上に振り上げ、そして黄金色に輝く双剣で斬りつけるのだった。
――天嵐斬!
〘ザンッ!!〙
〘パリン〙
「っっっ! そ、そんな光鏡壁を……」
私が放った天嵐斬によって、聖女のご自慢の光鏡壁は木っ端微塵になる。
あり得ない現実に驚きを隠せずにいるバカ女だったけど、私は驚きと同時に怒りが湧いた。
(何よ……光鏡壁だけ? ちっ! 聖女カリンは無傷じゃん)
それでもすぐに気持ちを切り替えた私。
だって、バカ女が地面に膝をついてガックリしてるんだもん。
まさに orz の姿そのものなのだ。
(あ~、最高に気持ちいい! 最高で~す♪)
私は必死に笑いを堪えながら、静かな口調でバカ女に言ってやった。
「私の勝ちですね、聖女様。申し上げた通り、あなたを殺し、謹んで葬送させていただきますね」
(勝ったよ、レイン! 待っててね、すぐ馬車に戻るから。そして今度こそ、あなたにキスをするんだ。私のファーストキスを捧げるんだ)
バカ女こと、聖女カリン・リーズをこの世から抹殺すべく、聖剣と神剣を再び振り上げた。
「さようなら、聖女様♪ 天嵐斬!」
私は満面の笑みを浮かべながら、二本の剣を振り下ろす。
〘ガッキーンッ!!〙
「えっ!? きゃぁぁぁああああああ」
悲しいかな。
この悲鳴はバカ女じゃなくて、私のだ。
〘ズサァーッ!〙
天嵐斬の斬撃と共に何かに弾き飛ばされた私は、地面を滑りながらもかろうじて迎撃体勢に持ち直すことができた。
「いったい何が? ……!!! まさか光鏡壁!?」
私が天嵐斬で木っ端微塵にしたはずなのに、聖女を優しく包み込む白銀色に光り輝く光鏡壁が目に飛び込んできた。
それだけじゃない、それだけじゃないんだ。
聖女を見た私は、悔しくて唇をぐっと噛んでしまう。
何よ? 何よ、あれ? 何なのよ?
ふざけんじゃないわよ! バカ女!
私の目の前には、〈天女の羽衣のオーラ〉を纏う聖女カリン・リーズが溢れんばかりの笑みを浮かべて立っていたのだった。
「わたし、演技の才能あるのかな? ふふふ、女優もありかもね♪」
♢♢♢
驚いた。
同じ三聖だから、もしかしてと思ったけど、クソ女が〈光の衣のオーラ〉を纏った時は驚いた。
そして、何よりも驚いたのは未完とはいえ、光鏡壁を木っ端微塵に砕かれたこと。
――天嵐斬。
さすがは聖騎士が放つ斬撃。
決してクソ女を、聖騎士スキルを舐めていたわけじゃないけれど、結果的に舐めていたからあんな結末になったと思う。
あまりにも悔しかったわたしは、負けた的な小芝居を打ち、クソ女を散々勝ち誇らせてからギャフンと言わせてやろうとした。
ふふふ、それは見事に成功したな。
………。
エミリー・ファインズは、わたしを殺そうと牙を剥いてくる。
わたしは? わたしはどう?
クソ女を殺そうとしてる?
してないね。
ぶっ飛ばすなんて甘っちょろい考えでいたから、光鏡壁を砕かれたんだ。
カリン・リーズ、クソ女を殺すんだよ!
そうしないとわたしが殺されることになる。
わたしとエミリー・ファインズの戦い。
それは、女の戦いと同時に生死を賭けた戦いでもある。
絶対に負けられないし、負けたくない。
クソ女が惜しみなく聖騎士スキルを駆使してくるならば、わたしも聖女スキルを惜しみなく駆使してやる。
その第一歩が〈天女の羽衣のオーラ〉を纏ったわたし、完全体の聖女カリン・リーズなのだ。
さぁ、クソ女さん。
殺し合いましょうか。
聖女のわたしは、今から殺人鬼になるんだ。
エミリー・ファインズを亡き者にするために。




