幕間 バッドエンド
文字数:1128字
とある死者の魂が彷徨っている。
あの世とこの世の狭間で。
彷徨う魂は、この世に未練があったのだ。
――あいつら二人を殺して、復讐したい。
ただそれだけ。
本当にそれだけ。
復讐が成し遂げられさえすれば、地獄の底に堕ちても構わない。
だから、あの世には逝きたくないのだ。
たとえ極楽が待っていようとも。
『お前のその願いを叶えてやろうか?』
彷徨う魂に優しく語りかける声。
男の声なのか、女の声なのか。
彷徨う魂には判別がつきかねる。
『地獄の底までとは。そこまで覚悟がある奴も珍しい。もう一度問う、お前の復讐の願いを叶えてやろうか?』
「―――――――――――――――――」
『おっと、余としたことが声を出せぬ魂相手に失礼したな。ふふふ、もう思うがまま自由に声が出せるぞ、彷徨う魂よ』
「本当に復讐の願いを叶えてくれるのか」
『もちろん条件はある』
「条件はすべて受け入れる」
即答だった。
彷徨う魂には、声の主の姿がまったく見えていない。
笑っていたのだ。
声の主は、満面の笑みで。
『さすが余が見込んだだけのことはある彷徨う魂だ。嘘偽りなき本心だと分かるぞ。お前に決めた! 条件は―――』
♢♢♢
――真っ暗だった。
ここはいったいどこなのだろうか?
彷徨う魂には分からない。
しかし、つい先程までいたあの世とこの世の狭間の冷たい空間とは違い、とても温かく安心できるところだと感じていた。
「ここは?」
『とある女の子宮の中にお前はいる』
「子宮? ……そうだったのか」
『彷徨う魂よ、お前を異世界に転生させた』
「異世界か。それでその異世界とやらに奴等はいるんだろうな?」
『いる。玉木奏も倉木鷹也も異世界に転生しているからな』
ここで彷徨う魂は、あることに疑問を持つ。
「奴等は異世界に召喚ではなく転生した?」
『二人は死んだのだ。それはもう笑えるくらい無様な死に方だったぞ。余は腹を抱えて大笑いしてしまった。彷徨う魂よ、二人がどんな風に死んだのか知りたいなら教えてやる』
「興味がない。オレの手で奴等を殺せなかったのが残念だ」
『残念がることはない。お前達三人にとって、異世界が新たなステージとなる。彷徨う魂よ、お前には復讐のステージとなるだろう』
「ありがとう、感謝する。それじゃ条件通りだ。オレのこの世の記憶をすべて消してくれ」
『分かった……お前には必ずや美しきバディができるだろう。その者と共に地獄のような世界を救うのだ。頼むぞ、レイン・アッシュ。いや森沢亮次よ』
――彷徨う魂は、新たに生を受けた。
玉木奏と倉木鷹也。
この二人を殺し復讐を完遂しようとも、彷徨う魂には決して明るい未来が訪れることはない。
森沢亮次に待つものは、死あるのみ。
ハッピーエンドなんてものはない。
――バッドエンド。
一人の男の復讐譚はバッドエンドで終わる。