第42話 聖騎士vs.聖女
文字数:2782字
「何してるのよ!」
「ふん! その言葉をそっくりそのままお返ししますよ!」
私は勢いよく鼻を鳴らし半笑いしながら、おちょくるように言ってやった。
「は? どういう意味よ?」
「住民避難の職務を放棄して、こんなところにいる聖女様に言ったんですけど、何か?」
「わたしは職務放棄なんかしてないし、聖女の務めを果たしにここに来たの! それより早くレインから離れなさいよ!」
「やだよ、離れない」
私はレインに抱きつき、バカ女に向かってべーっと舌を出してやった。
〘ビシッ!〙
カリンの怒りは凄まじく、その身体から放つ白銀色のオーラによって馬車の天井に亀裂が走っていく。
(ふふふ、怒ってる怒ってる)
バカ女こと、聖女カリン・リーズの般若顔が真っ赤に染まる。
今にも攻撃を仕掛けてきそうな勢いだ。
でもね、私の怒りはそんなものじゃないよ。バカ女は許されざる行為をしたよね? 私は、この目ではっきりと見たんだから。
お前は、レインの頬にキスをした。
私の愛しき人レインにキスをしたんだ!
ヴィクト・タウを利用して、カリン・リーズを亡き者にしてやろうと考えていたけど、もういいや。
聖女は、私がこの手で葬ってやる。
バカ女を殺してやる。
カリンが放つ白銀色のオーラに対抗するかの如く、私は黄金色のオーラを放つ。
〘ビシッ!〙
馬車の天井に二本の亀裂が重なり合った。
私もカリンも思うことは一つ。
――決着をつける時だね。
黄金色のオーラと白銀色のオーラが激しく衝突すると馬車の中は轟音に満ちた。
〘ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ――〙
私達のオーラで馬車が爆発するかもしれないけれど、お互い引くことはない。一瞬でも引く素振りを見せたら最後、死に直結するのが明白だからだ。
それに、私とバカ女には引くに引けない理由がある。
カリンの今の気持ちを聞かなくても分かる。
私の今の気持ちを言わなくても分かるよね?
――レイン・アッシュは、私のものだ!
♢♢♢
気を失い、簡易ベッドに横たわる愛しの人。
あぁ、レイン。
どうして、なんで、そんなに傷だらけの顔をしているの?
いったい何があったの?
それは誰の血なの?
あなたの白いローブが、まるで赤いローブになってしまっている。
三日ぶりにやっと会えたのに、レインの瞳はわたしを見つめてくれない。
ねぇ、わたしを見てよ。黒く澄んだあなたの優しい瞳でわたしを見てよ。
胸が張り裂けそうな深く悲しい思いを堪え、わたしは前を向くのだ。
……待っててね、レイン。
このクソ女をぶっ飛ばしたら、すぐ回復魔法で傷を治してあげる。
それから洗浄魔法で汚れを落として、綺麗な白いローブにしてあげるからね。
このままオーラを衝突させていても、埒が明かないと思ったわたしは、クソ女を馬車の外にひっぱり出すことにした。
「聖騎士様一名、ご案内で~す!」
さっきのお返しと言わんばかりに、わたしは半笑いしながら、おちょくるように言ってやるのだった。
「……!? これって……まさか」
(さすがは聖騎士スキルと言わざるを得ない。でも、今さら気づいても遅いよね)
「ぶっ飛べ!」
〘ブンッ!〙
わたしがそう言った瞬間、聖騎士エミリーは馬車の中から消失する。
〘バッ!〙 「よくも!」
瞬刻のうちに、馬車の外に飛ばされたことを憤るクソ女。
「だから言ったでしょ? ご案内と」
「転移魔法の応用……」
「正解だよ、聖騎士様」
聖女スキルの〈転移魔法〉を応用すれば、人ひとりくらい自分の思うまま飛ばすことができる。
「聖女様、私に二度も同じ魔法は通用しませんよ」
〘スラッ〙
聖騎士エミリーは聖剣と神剣を鞘から抜き、二本の剣を左右に広げて構えた。
「聖騎士様をレインから引き離せたので、もう使う必要がないよ」
〘ヒュッ!〙
クソ女に睨みを利かせながら、白銀の聖杖を顕現させる。
「ふぅ」
深呼吸をひとつ、そしてわたしは叫んだ。
「聖騎士様をぶっ飛ばしてやる!」
♢♢♢
…………許さない。
許さない許さない許さない許さない許さない
許さない許さない許さない許さない許さない
もう絶対に許さないからね! バカ女!!
「私をぶっ飛ばす? 無理ですよ。逆に聖女様を斬り刻んで差し上げます。この私がね!」
「戦いは、いつも先手必勝だよね」
〘ピカッ! ピカッ!〙
「っ!」
バカ女が手に持つ聖杖の魔法石が、眩い光を放った刹那、美しく光り輝く光矢が二本、私の目と鼻の先にあった。
(ふ~ん。さすがは聖女スキルって感じかな。魔物なんかと速さが段違いだよね。だけどさ、そんなもん? そんなもんなら聖騎士スキルの敵じゃないよ)
〘キンッ! キンッ!〙
聖剣で光矢二本を軽やかに叩き落とし、私はすかさず左手に持つ剣を振り抜く。
〘シュッ!〙
神剣が放つ三日月形の斬撃は、聖女を難なく捉えた。
(ふふふ。さようなら、サヨナラ、バイバイ、グッバイ。バカ女、ざまぁ♪)
――光鏡壁。
〘キーン!〙
「えっ!?」
神剣から放たれた斬撃が、私を斬り裂くべく跳ね返ってきたのだ。
「くっ、何なの!? 神剣! あなたの不始末はあなたで責任取ってよね!」
〘ガキンッ!〙
私は神剣を縦一文字に振り下ろし、三日月形の斬撃を叩き斬った。
「ふー、ふー、ふー。いったい何なのよ、これ……」
この一連の出来事に困惑する私に、バカ女が神妙な声で語りかける。
「やっぱり凄いね、聖騎士スキル。今ので勝負が決まっても不思議じゃないのに。一騎当千、最強スキルの呼び声は伊達じゃないのかな」
「そうです、そうですよ。ちゃんと分かってるじゃないですか。聖騎士スキルこそ最強です」
私は気を取り直し、聖剣と神剣を重ね合わせ十字にすると、聖騎士の本来の構えで再び聖女と対峙する。
その時だった。
聖女カリン・リーズは、透明感のある声で説教を説くように言う。
――誰もわたしに触れることはできない――
「!!」
私はその言葉の意味をすぐに理解した。
聖女スキルの〈光鏡壁〉のことだと。
剣などの物理攻撃や攻撃魔法の類を、すべて跳ね返してしまう。
「聖騎士様は察しがいいね。〈光鏡壁〉はすべての攻撃を跳ね返す。誰もわたしの身体に傷すら付けられない。だけど、この世に一人だけいるんだよね。聖女に傷はおろか殺すこともできる人がね。でも、残念でした。その一人はあなたじゃないから。フフン♪」
バカ女のマヌケ顔を見ていれば、その一人が誰なのか分かるよ。
私の愛しき人レイン・アッシュだ。
あー、ムカつく! バカ女め!!
殺ってやる! 私が必ず殺ってやる!
目に物見せてやる!
〘フワッ〙
「!?」
バカ女が驚愕の表情を浮かべ、私を凝視している。
ふふふ。
お初にお目にかかります、聖女様。
今、お前の目の前にいる〈光の衣のオーラ〉を纏う私こそが、完全体の聖騎士エミリー・ファインズだよ。
「あなたのことをあの世に送れるのは、この世に二人です。フフン♪」
「!!」
私が今からカリン・リーズをあの世に送るのだから。
「聖女様を殺し、謹んで葬送させていただきます」
――聖騎士と聖女の戦いは、これからが本番だ。




