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Over And Over 〜或る男の悲しくも儚い異世界復讐譚〜  作者: 前田ヒロフミ


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第41話 あいつ

文字数:2562字

『聖女よ、聖女カリンよ』 


「………」


『聖女カリン・リーズよ!』


「今、いいところなのに! ……レインと……レインとチュッチュして愛し合ってるところなの! 何なの? 一年ぶりに夢の中に現れるなんてさ。託宣なら絶対お断りだからね!」


『レイン・アッシュのところに行くのだ。聖女の務めを果たせ』


「レインに何かあったの?」


『…………』


「答えなさいよ! 無視? ふーん、それならそれでいいよ。あなたのお墨付きがあるなら、わたしは喜んでレインのところに行く…………本当に行っていいの? ねぇ、行っていいの? レインに会いたい」


『早く行くのだ! 聖女カリンよ!』


♢♢♢


〘ガバッ!〙


 わたしはベッドから跳ね起きると、すぐさま愛しの人の名を呟く。


「レイン……」


 一年ぶりに夢の中に現れたあいつ


「何があったのか、ちゃんと教えなさいよね。本当に使えない奴だな」


〘チュン、チュン、チュン〙


 言葉足らずのあいつに腹を立てていたわたしの耳に、小鳥のさえずりが聞こえてきた。


 窓の外に目をやると、朝っぱらから木の枝の上で小鳥が二羽、愛をささやき合っている。


 わたしとレインもあんな風になれたらいいなと思い、愛らしい二羽の小鳥をしばらく眺めていた。


「おっと、こうしちゃいられないよね」


 わたしは洗面台に一目散に走り出す。


 早く出掛ける準備をして、レインのところに行かなければならない。


「レインに会える、会えるんだ♪」


 身支度を整えながら、レインのことを想って心が踊るわたし。


 ……そうだ、喜んでばかりもいられないよ。レインに何かあったのは、間違いないんだ。


「待ってて、レイン。何があったのか知らないけど、大丈夫だからね。あなたを守れるのは、この世でわたしだけ、わたしだけなんだ!」  


 鏡の前に立ち、自分自身にそう言い聞かせると、わたしは白いローブをひるがえし部屋を飛び出すのだった。


♢♢♢


「やぁ、おはよう。今日はいつにも増して綺麗だね、愛しのカリン。まるで女神様みたいだ」 


「はぁ」


 思わずため息が出てしまった。


 いるかな、いるよなと思っていたけど、本当にいるとため息以外の何も出ない。


 街路樹にその体を預け、腕を組んでキザっぽく立っているのが見えた時、泣きたくなった。


「本部に行く前に、僕と朝食でもと思ってね。どうだい? 愛しのカリン」


「無理! わたしは今から聖女の務めを果たしにいく」


「なんだと?」


 その言葉を聞いたヴィクトの澄ました顔が、憤怒の形相になった。


「おい、待て! どういうことだ? ――」


 一人喚き散らしているヴィクトを放置して、わたしはゆっくりと歩き出した。


「あの男のところか? そうだろ? カリン、待て! 待てよ! カリン!! ――」


 今から行くよ、待っててね。


「レインのところへ!」 


 わたしは〈転移魔法〉を発動させた。


 愛しの人レインのところへ向かうために。


♢♢♢


〘フッ〙


 愛しのカリンが転移魔法を発動し、あいつのところに向かうべく僕の前から消え去る。


「カリン……」


 僕は君を愛している。


 しかし、君の気持ちはあいつにある。


 ……許せないよな。君をたぶらかすあいつがさ。


「フフフ」


 殺してやる! 絶対に殺してやるからな!


「黒髪ー!」


〘ズバッ! ズバッ! ズバッ!〙


 聖堂騎士の証しである()()を顕現して、辺り一帯の街路樹をすべて叩き斬ってやった。


「この大剣でお前も叩き斬ってやる!」


 僕は愛しのカリンがいない対魔王軍本部にきびすを返す。


 あいつの死に様を思い浮かべながら。


♢♢♢


〘パッ!〙 


「よし!」


 少しズレてしまったけれど、レインのところに到着できた。聖女のわたしが、彼のためだけに顕現した刀だからね。〈転移魔法〉で捕捉するなど朝飯前なのだ。


 その証拠に、目の前には教会騎士団の馬車があるし、ゲイルとガスがなぜか道のど真ん中でお尻を押さえてうずくまっている。


「朝から何してんの?」


 今のわたしには、正直どうでもいい二人なんだけど、とりあえず声を掛けてみた。


「「カリン様!?」」


 いつもくだらない掛け合いをして喧嘩ばかりのくせに、本当は相性ばっちりで仲良しなのは教会騎士団の中で周知の事実だ。


 そんなゲイルとガスの二人は、苦悶の表情で脂汗をダラダラと垂れ流していたが、生きるか死ぬかの感じではない。


 そう判断したわたしは、本題を切り出す。


「レインは? ねぇ、レインはどこ? 馬車の中? 早く答えなさいよ! 薄らバカども!」  


 わたしのすさまじい剣幕に気圧けおされたからか、二人は体をビクッとさせた後、すぐ話し出す。


「エミリー様と馬車の中で二人っきりっす」


「このクソ野郎のアンポンタンが! てめぇは誤解を招く言い方をするなよー! 二人っきりなのは確かだけどよ!」


「は?」


「「ひぃ~」」


 どうして二人は悲鳴を上げたのだろう。


 わたしの顔を見て悲鳴を上げたのかな?


 失礼しちゃうわ。わたしは至って普通の顔をしているはずだから……。


 馬車を一瞥いちべつすると、何やらとても甘い雰囲気を醸し出している。


 ま、まさか……ウソだよね……レインが……わたしのレインが……あのクソ女と? ……。


〘ズン! ズン! ズン! ズン!〙


 生まれてこの方、こんなに激しい音を出して歩いたことがあっただろうか? 


 いや、ないね!


 馬車に向かって、まっしぐらに歩いていくわたし。


「「カリン様ー! お待ちを!」」


「うっさい! 黙れ!」


 薄らバカどもが最悪な展開を想像したのか、必死にわたしを呼び止める。


 しかし、もう遅いのだ。


 わたしは馬車の扉の前に立つ。


〘ギシッ!〙


「!?」


 今のは間違いなくベッドが軋む音だよね? 


 レインとクソ女が、あ、あ、愛し合ってるの?


 ……ふざけんじゃないわよ。

 

 あいつは、こんな音を聞かせるため、こんなモノを見せるため、一年ぶりに夢の中に現れたの?


 何が『聖女の務めを果たせ』よ。


 レインのところに来たのはいいけど、最悪な状況じゃないの。


 もうイヤ! レインのバカ!


 わたしは馬車の扉をおもいっきり開け放つ。


〘バン!!!〙


「!!」


 その現場を目にし、一瞬で今の状況を把握することができた。


 ああ、神よ。


 一年ぶりに夢の中に現れてくれて、ありがとう。


 本当にありがとうね。


 ピクリとも動いていないレインにまたがって座るクソ女が、こともあろうにわたしの愛しの人に接吻しようとしていたのだ。


 ふふふ、今のわたしはどんな顔してる?


 そうだね、きっととてつもなく怒っている顔のはずだよ。


 当たり前だ!


 わたしは、殺意を込めてクソ女に言い放つ。


「何してるのよ!」


 ――聖女と聖騎士の戦いが、今ここに幕を開ける。



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