第37話 祝福
文字数:3278字
決着をつけるべく、俺とメメルは相対する。
――疾風迅雷。
魔法の詠唱が云々よりも、隙だらけの相手を見逃すほどお人好しじゃない俺は、メメルの命を狩るために先制攻撃を仕掛けた。
瞬刻で自分の斬撃の間合いまで距離を詰め、抜刀して斬りつける。
この時、一瞬だけメメルと目が合ったような気がした。
(まさか俺が見えているのか? いや、それはない。誰も俺を見ることができないんだ)
〘ズバッ!〙
地面に転がる頭部、首からは赤い血しぶきが上がると胴体は〘ドスンッ!〙という音とともに倒れた。
(こんな呆気なく終わるわけがないよな……)
刀を鞘に納めながら、そんな事を思った矢先だった。
【痛いじゃないの! もっと優しく斬れないのかしら?】
首を斬り落とされても、絶命しないメメルが憎まれ口を利く。
細い目をカッと見開き、俺を睨みつける生首が地面に横たわっていたのだ。
――不死身。
もしかしたら、そうなのかもしれないと思う自分がいたけど、実際にこの目で二回も見れば疑いようがない。
【うっふふふふ。流石に二回目ともなりますとすぐ生き返るのですわね。あら? 君はあまり驚いていないご様子。わたくしが不死身の肉体を持つと予想でもしていたのかしら? 本当に食えないガキですこと】
「……っ!」
メメルの言葉に耳を傾けている間、いつしか首なしの胴体は起き上がっていた。
これからの流れは、生首を拾ってくっつけるって感じか?
そんなことさせるかよ。
「斬る! 蘇れないように斬り刻んでやる!」
首なし胴体に狙いを絞り〈剣技〉を発動して駆ける。
【御礼申し上げますわ! そして、後悔なさい! わたくしにこれほどの詠唱時間を与えたことを!】
生首の女は喜色満面の笑みを浮かべながら、勝ち誇るように言った。
【さぁ、おいでなさい! わたくしのかわいいゴーレムちゃん達!】
〘ボコン、ボコン、ボコン、ボコン――〙
メメルの声に反応し、地面から巨体の人形みたいな奴等が浮き上がってくる。
「チッ!」
魔物とは違う土の人形達に行く手を阻まれ、思わず舌打ちをしてしまう。
サムライスキルが示す奴等の数は、8だ。
俺の背丈より三割増の高さがある土色のゴツゴツした体、歪な形をした顔面には口も鼻もなく長方形の目が二つあるだけだった。
生物というよりも無生物のような奴等である。
こいつらの正体が何であれ、俺は斬るだけ。
そうしなければ、俺の刃がメメル・フロストに届かないのだから。
【バーカ! もう二度と君はわたくしに近づくことができませんわ。ここは森林地帯、土壌が豊かですわよ。ゴーレムちゃんの源がたくさんありますの。さぁ、バンバン生まれちゃってくださいまし! おっほほほほ!】
〘ボコンボコンボコンボコンボコンボコン〙
黒こげ女の魔法によって、ものすごい勢いでその姿を現すゴーレム達。
【君が疲れ果て、イクまでゴーレムちゃん達がお相手してくださるわよ。本当に羨ましい限りですこと。うふふ、派手に逝きなさい! 名も知らぬ色男くん♪ それでは、わたくし、少しの間お暇させて頂きますわ。おほほ、ごきげんようですわ】
首なし胴体がメメルの生首を抱え、どこかに消え去っていった。
60体以上のゴーレム達に取り囲まれても、俺の狙いはただ一人なのだ。
「次に会った時が、お前の最期だ!」
――オレを舐めるなよ、メメル――
♢♢♢
【わたくしの体! 何をしているのですの! 今のうちに早く首をくっつけなさい!】
チッ! クソったれでございますわよ。
信じられませんの、あり得ませんわ。
わたくしはバフの重ね掛けを自らに施していたのですのよ。
それも50ですわよ、50。
不死身の肉体じゃなければ爆発ものですわ。
それなのに、あの男の姿を一瞬だけ見るのがやっとでしたの。
本当に末恐ろしいスキルですわ。
今度は、念には念を入れて重ね掛け200でいきますわよ。
魔王様の眷属のわたくしなら、バフの上限はないはずですもの。
勝つのは、このメメル・フロストですのよ。
それに万が一、万万万万万万万万万万万万万万が一の話、もし負けることがあったとしても勝負に勝って試合に負けるですわ。
魔王様より賜りし上級魔法〈サイレント〉は通常の魔法と違い、術者が死んでも解けませんのよ。
君はお分かりかしら? 君は何も知らない。
――無知は罪。
名も知らぬ色男くんは、この虚空の空間から一生出られないのですわよ。
ここで野垂れ死ぬことが決まっておりますの。
でも、ご安心くださいませ。
必ずぶち殺して差し上げますので、どうか悪しからず。
わたくしが直接手を下すまでもなく、66体の無敵のゴーレムちゃん達が名も知らぬ男をぶち殺して終わりかもしれませんね。
〘ガキン! コキン、コキコキコキ〙
うふふ、綺麗に首がくっつきましたわ。
まったく、このまっ黒こげなわたくしも眷属の能力で美しく再生してくれればよろしいですのに。
親愛なる魔王様は、イケズなお方ですわね。
それでも心からお慕い申し上げておりますわ、鷹也様。
さてと、名も知らぬ男はどうなっていることやら。
もし死んでいたなら、腹を抱えて大笑いしてあげますわよ。
喜び勇み、駆け足で死地に戻るのでしたわ。
その地がわたくしこと、メメル・フロストの終焉の地になるとも知らずに。
♢♢♢
〘ドゴーン! ドオォォン! ドッゴーン!〙
【へ!? な、何事ですの!? どういうことですの!? これはいったい何ですの!?】
木っ端微塵に砕かれたゴーレム達の亡骸が、辺り一面に飛び散っているのです。
【そ、そんな信じられませんわよ! 嘘よ!】
そこは、わたくしにとって地獄絵図そのものでした。
〘スパッ! スパスパスパスパスパ――〙
ゴーレム達を容赦なく斬り刻む剣の斬撃音が虚空の空間に鳴り響く。
〘スパッ! ………………〙
剣の斬撃音が聞こえなくなりました。
無敵だったはずの66体いたゴーレムが、あっという間に斬り刻まれたということです。
わたくしの視線の先には、もう見慣れた顔の男が立っていました。
紅く妖しく光る剣を持って。
♢♢♢
〘ズバッ! ズバズバズバズバズバ――〙
「くっ、こいつら!」
66体のゴーレムの包囲網から脱するべく、刀を振るう。
しかし、こいつらは死なない。
唐竹で縦一文字に、薙で横一文字に斬りつけようが、地面を這いつくばって主の言いつけを忠実に守るため、俺に向かってくる。
魔物化した自然界の動物達とは、一線を画す存在。
ゴーレムには命の概念がないのだ。
「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ……クソ、斬っても斬ってもこれじゃキリがない」
サムライスキルが示す奴等の数は、66のまま。
ゴーレムが死なないのもあるが、土を養分にして己の体を再生しているからだ。
「この野郎!」
〘ズバッ!〙
それでも俺は刀を振るう。
今の自分にできることはそれしかないのだ。
もうあんな惨劇は二度と繰り返させない。
年端もいかぬ子供達が悲鳴を上げながら、魔物に喰われていく。
だけど、それだけじゃない。
力なき弱者が圧倒的強者によって蹂躙される。
魔王軍が今の世を破壊しているんだ。
こいつらに対する俺の感情は一つだ。
それは怒りだけ。
――駆逐してやる。
俺には力がある。
この力はいったい何のためにあるのか?
そんなことは決まっているだろ。
サムライスキルを存分に駆使して力なき人々を守り、魔王軍を駆逐するためにある。
そうだ、そのためなら何だってする。
――たとえ、この命を燃やし尽くそうとも――
「俺は、魔王軍を一匹残らず駆逐するんだ!」
―レイン・アッシュよ。お前の覚悟、確かに受け取ったぞ……糧に……糧にしろ……お前の命を糧にするんだ……そうすれば、聖女が顕現した刀は本当の力を開放する。この世界の神と聖女、そしてオレとの〈聖約〉がある。さぁ、祝福してもらうぞ、レイン。お前の命を糧にして魔を滅殺するんだ! ……ごめんな、オレがお前で本当にごめん―
謝るな、森沢亮次。
魔王軍を駆逐できるなら、俺の命なんていくらでも糧にするよ。
カリン、ありがとう。
君が顕現してくれた刀で魔を滅殺できるよ。
俺は、今から神と聖女の祝福を受けるのだ。
何も怖いことはない。
♢♢♢
――紅く妖しく光る刀。
椿よ、妖刀ツバキよ。
俺の命を糧にして、魔を滅殺するのだ。
「今、お前の本当の力を開放するぞ!」




