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Over And Over 〜或る男の悲しくも儚い異世界復讐譚〜  作者: 前田ヒロフミ


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第31話 一騎当千

文字数:3194字

〘チッ、チッ、チッ、キュル、キュル〙


「カリン、魔物は何種までいるんだよ!」


 本命中の本命の魔物達が、俺を取り囲んでいる状況の中でキレ気味に叫んだ。


 サムライスキルの反応では、魔物が空中に42匹いる。


 いや、正確に言うならば四方八方にそびえ立つ木々にぶら下がっている42匹の魔物だ。


「コウモリの魔物かよ」


 魔物化しても体躯の大きさは、自然界にいるコウモリとさほど変わらない。


 だがしかし。


 コウモリの持つ特性、こいつらが放つ超音波は洒落にならないくらい凄い。


 目の前にある大木まで駆け、そして右横にある小木にステップを踏んで切り返し素早く移動してみる。


 けれど、奴等は敵を捉えて離さない。


「ちっ! ダメか」


 42匹すべての超音波が俺の動きだけでなく、位置さえも完全に掌握していた。


「早く、早く何とかしないと……」


 あんな高い所にぶら下がる魔物達に対して、サムライスキルは何もできない。


 聖騎士スキルなら斬撃を飛ばして奴等を討てるだろうけど、俺はお手上げだ。


「来いよ! 何してんだよ! 攻めて来い!」


 お前らが攻撃してくれば、俺は迎撃できる。


 でも、あちらが何もしてこないなら、こちらは何もできないんだ。

 

〘キュル、キュル、キュル、チッ、チッ〙


 コウモリの魔物達は取り囲むだけで攻めるつもりがないのだろうか。


 俺を小馬鹿にするような鳴き声を出し続けている。


(一刻も早く、エミリー達のところに戻らないといけないのに……)


 俺には焦る理由があった。


 251匹の魔物がエミリー達のところに向かっているからだ。


「クソ! エミリー、ゲイルさん、ガスさん。待っててくれ、すぐそっちに戻るから」


♢♢♢


〘ズバッ!〙


「よし、このオークで最後だ」


 ここに来るまで、ダンジョン三種の魔物達を最低でも100匹は斬り捨てた。


「ふぅ、やっと目処がついたな。あとは前方に反応がある()()を駆逐できれば、エミリー達のところに魔物が向かうことはないぞ」


〘ヒュン〙


 刀についてしまった魔物達の血を払うため、鋭く血振りをした後、静かに納刀した。


「曙は、まだ先かな」


 闇夜を照らす陽の光が差し込む気配はまだない。


 俺の周囲は暗闇のまま。


 それでなくても森林地帯の木々の中にいるのだから、陽の光を拝めるのはしばらく無理だなと思った。


(まぁ、〈暗視〉で日中と変わらず見えるけど、やっぱり陽の光が照らした明るさが一番だ)

 

「……さてと、それじゃ行きますか!」


 本命中の本命。


 42匹の魔物がいる場所に向かうべく身体強化〈疾走〉を発動させた俺は、木々の間を駆け抜けていった。


♢♢♢


 魔物達の縄張りに入ったのが分かる。


「っ!」


 殺気とは違う、俺の体に刺さるような()()を感じ、刀に手をかける。


 俺は体を深く沈ませると、居合斬りの構えでいつでも抜刀できるように身構えた。


(いる。本命の魔物達がここにいる)


 サムライスキルの反応によると空中に42匹を示すが、実際は違った。


〘チッ、チッ、チッ、チッ、キュル、キュル〙


 魔物の鳴き声がするほうに視線を向けると、そこには木にぶら下がるコウモリの魔物達。


(体に刺さるような()()の正体は、コウモリの魔物達が発する超音波か)


〘チンッ!〙


 俺が、鯉口を切った瞬間だった。


〘ビー!〙


 コウモリの魔物達の超音波が四方八方から一斉に発せられ、俺の体を捉えた。


「くっ!」


 それはまさしく体中に針を刺されたみたいな感覚である。


〘キュル、キュル、チッ、チッ、キュル〙


「こいつら!」


 人を小馬鹿にするコウモリの魔物達の鳴き声にイラッとして、俺が声を出した時だ。


 サムライスキルが魔物の反応を探知する。


「えっ? 嘘だろ?」


 ここにいるコウモリの魔物とは違う、新たな魔物の反応があるのだ。


「どうして、何でだよ」


 今までスキルの反応に疑いを持ったことなど一度もなかったが、流石に今回ばかりは疑ってしまった。


「251!?  そんなバカなことがあるかよ。嘘だと言ってくれ。いくらエミリーが強くてもゲイルさんとガスさんを守りながら戦うなんて無理だ」


 この時の俺は、まだ思い出せずにいた。


 エミリーが笑いながら教えてくれた言葉を。


♢♢♢


〘チッ、チッ、チッ、チッ、キュル、キュル〙


 相変わらずコウモリの魔物達の鳴き声の合唱は止まらない。


「ふざけやがって! お前らの歌合戦なんて、興味ないんだよ」


 こんなところでいつまでも油を売ってる場合じゃないんだ。


 どうすればいい? 何をすればいい?


 エミリーみたいなスキルがあれば、今の状況を打開できるのに。


 ……エミリーみたいなスキル?


 あ、思い出した。


〈私の聖騎士スキルは――――――〉

 

「あはは。そうか、そうだよな」


 何をバカみたいに心配していたのだろう。


 ごめんな、お前からしたら余計なお世話って感じだよな。


 エミリーが笑いながら教えてくれた言葉。


 ――私の聖騎士スキルは、一騎当千だぞ!  


 聖騎士様、ゲイルさんとガスさんを頼むな。


「よし!」


 そうと決まれば、俺は自分のやるべきことをやるだけだ。


 ここにいる奴等を駆逐する。


「斬り捨ててやる! コウモリ野郎ども!」


♢♢♢


「ゲイルさん、ガスさんは馬車の後ろに隠れてください! ここは私に任せて!」


「「はい、エミリー様!」」


 あの二人、普段はいがみ合ってるけど、相性ばっちりだよね……えへへ、私とレインもね。


「おっと、浮かれちゃダメ! レインとの約束を守るんだ」


 私は、迫り来る魔物達を聖騎士スキルで探知してみる。


 ……えーっと魔物の数は、251匹か。


 うん、全然問題ナッシング! 


 それと魔物達のレベルは……


 ワロタ! 草生える! 草! 


「レベルの低い魔物だらけで、数だけ多いって感じじゃん」


 だけど、油断は禁物だよ。


 余裕こいて魔物一匹でもすり抜けられたら、ゲイルさんとガスさんは間違いなく死ぬ。


 そんなことになったら、大変だもんね。


 愛しき人レインと交わした約束を破る最低な女になっちゃう。


 だから、251匹すべて瞬殺する。


 これがベストな選択。


 ――私の聖騎士スキルは、一騎当千なのだ。


「瞬殺タイム、スタートだよ♪」


♢♢♢


 ついつい私一人だと、あっちの世界の言葉を使っちゃうよなぁ。


 ま、それもご愛嬌で4649(よろしく)かな。


 私の聖騎士スキルが、何故なにゆえに一騎当千なのか証明するね、レイン。


「それじゃ、るよ」


 私は目を閉じ、愛剣である聖剣と神剣を十字にすると神の力をたまわるために祈る。


 神よ

 聖剣に宿りし風の神よ

 そして

 神剣に宿りし雷の神よ

 我、聖騎士エミリー・ファインズ

 魔を討つ者なり

 風は刃となりて

 雷は矢となりて

 悪しき魔を討つべし

 

 固有スキル発動のため、祈りを唱え終えた私は、神の力を賜わった証しをこの身に纏う。


 ――光の衣のオーラだ。


 聖剣と神剣は、光の衣のオーラから神の力を分け与えられ、神々しく黄金色こがねいろに光り輝いた。


〔ピッ、ピピピピピピピピピピピピピピ……〕


 犬の魔物56、狼の魔物50

 猿の魔物63、熊の魔物25

 鷲の魔物31、鷹の魔物26

 

「251匹の魔物、ロックオンだよ♪」


 十字架の如く重なり合った二本の剣を天高く掲げ、私はく。


「滅せよ! 悪しき魔物達!」


 ――天颯雷てんそうらい


 聖剣から風の刃の風刃が

 神剣から雷の矢の雷矢が

 魔物251匹をほふるべく

 光速で放たれる


〘ドンッ!〙


 この瞬間、魔物達は完全消滅。


「魔物251匹の駆逐終わりっと。ふふふ、瞬殺だよ」


 私は、にんまりと笑うのだった。


♢♢♢


「「エミリー様! 凄い!!」」


 事の成り行きを一部始終見て感動した二人の騎士が、もの凄い勢いで私のところに駆け寄って来た。


「お二人が無事で何よりです」


「「エミリー様、感謝感激です!」」


「ははは、はい……」


 魔物は駆逐したけど、気分はあまり(すぐ)れない。


「どこにいるのよ」


 私の愛しき人は、未だ戻らず。


「レイン、無事だよね? 元気だよね? 早く帰ってきて。私は二人を守ったよ。あなたとの約束を守ったよ。私のこと、よくやったなってたくさん褒めてよ」


 気がつくと、東の空から陽の光がうっすらと差し込み始めていた。


 闇夜が終わりを迎え、もうすぐ東雲が来る。


「レイン、あなたと一緒に朝日を見たいよ」 



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