幕間 二人の騎士
文字数:1946字
闇夜の中、篝火の炎が燃え盛る。
〘パチッ、パチッ、パチパチ、パチッ〙
薪の爆ぜる優しい音を耳にして、とても心地いいなと感じている男が二人いた。
中年の男と20代半ばの男。
今、二人の男の脳裏に去来するもの。
それは……。
……今日、ここで死ぬかもしれない。
死ぬのが怖くないと言えば、嘘になる。
だが、不思議と穏やかな気持ちなのだ。
なぜだろう?
覚悟があるからだ。
♢♢♢
もうすぐ凶悪な魔物達が襲撃してくる。
何かお役に立てることはあるか?
二人の男は自問自答する。
そして、ある答えに辿り着く。
自分に魔物達を駆逐する力がないのなら、聖騎士様のために己の体を盾にし、敵の攻撃から御身を守護する。
たとえそれで命を散らそうとも、自分の人生に一片の悔いもない。
これが二人の男の覚悟なのである。
♢♢♢
二人の男。
教会騎士団第一隊隊長ゲイル・ハミルトンと副隊長ガス・エンビア。
ゲイルとガスは隊長と副隊長の肩書を持っているが、これは伊達ではない。
第一隊にいる騎士団員3,000人の中において、剣の腕前は一位と二位。
さらにもっと言えば、教会騎士団10,000人の中においても一位と二位の実力者だ。
つまり、スキル所持者の団長ヴィクトに次ぐ、剣の腕前の持ち主がゲイルとガスなのだ。
教会騎士団きっての実力者である二人の男をもってしても、魔王軍の魔物達には敵わないと一人の男に断言されてしまう。
レインの言葉の意味を、頭では理解していたつもりだった。
しかし、実際に魔物と対峙した時、その身で言葉の意味を理解する。
無理だ、絶対に無理だ。
騎士として剣の腕前が優れているかどうかの次元の話ではない。
ハヤブサの魔物を間近で見た時、恐怖で悲鳴を上げてしまう。
スキル持ちでない普通の人間が、あの魔物に勝てるはずがない。
それでも、ゲイルとガスはこの場から逃げるという愚かな選択はしない。
どうして、逃げる選択をしないのか?
二人は騎士だからだ。
誇り高き教会騎士団の騎士なのだ。
勝てない相手だから、さっさと尻尾を巻いて逃げるなど騎士の矜持が許さない。
騎士の矜持は、何より大事なものだ。
いや、それはもう的確な表現ではないのかもしれない。
現今の二人の騎士は、騎士の矜持より大事にしていることがある。
聖騎士エミリー・ファインズ。
〈魔物と戦うだけが、戦いじゃないと思うの。ゲイルさんやガスさん、騎士団の皆さんにしかできない戦いってあると思います。私とレインが魔物を駆逐する戦いをします。ゲイルさんとガスさん、騎士団の皆さんを守るため、大陸の人々を守るため、私は戦います。だから、もし私に困難が降りかかり、立ち上がれなくなってしまったら、ゲイルさんとガスさんは私に手を差し伸べてください。きっとそれが二人にしかできない戦いだと私は思うから〉
エミリーの暖かな言葉に、心が震えるゲイルとガスがいたのだった。
この人のために何でもする。
♢♢♢
〘ボッ〙
薪を焚べると、篝火の炎が勢いを増す。
荒々しく燃える炎に照らされた二人の騎士。
教会騎士団の白銀の鎧を身に着け、刺突剣を帯剣して篝火を背に立っていた。
「隊長、俺が聖騎士様の盾になって死ぬっす。マジのマジ、マジ✕3くらいでお願いっすから邪魔しないでくださいっす」
〘ビシッ!〙
刺突剣を鞘から素早く抜き、まだ見ぬ魔物に見立てたのだろう。
暗闇に向かって、一突きするガス。
「エミリー様の腕の中で死ぬのは俺だけっす」
キリリと引き締まるガス・エンビアの顔は、間違いなく二枚目だった。
「このクソ野郎の万年二位のエセ二枚目が! お前じゃ役不足なんだよ。エミリー様のため、盾になって死ぬのは百戦百勝常勝一位の俺がふさわしい」
〘ビシッ!〙
不敵な笑みを浮かべるゲイル・ハミルトンは少し長めの自分専用の刺突剣を鞘から抜くと、対面している男の顔を狙って一突きする。
鋭く尖る剣先が、微動だにしないガスの眉間ギリギリのところでピタッと止まる。
「ガス、耳の穴かっぽじってよく聞いとけ! 俺はエミリー様のため、この命を捧げるぞ!」
刺突剣をゆっくり鞘に納めながら、ゲイルは鋭い眼差しをガスに向けると、己の決意を言葉にする。
「それは俺も同じっすよ。エミリー様のため、この命を捧げるっす」
ガスも負けじと鋭い眼差しをゲイルに向け、己の決意を言葉にして言い返す。
激しく睨み合うゲイルとガス。
二人の間に沈黙が流れ、そしてお互いに声を殺して笑ったのだった。
誓約の日。
二人の騎士が、エミリーのために命を捧げると誓い合う。
聖騎士様のため、この命を捧げようぞ!
♢♢♢
悲劇は突然やって来るものだ。
聖騎士エミリー・ファインズのため、己の命を捧げると誓い合った二人の騎士。
――ゲイルとガス。
エミリーの裏切りによって、その命を無惨に散らすのである。
悲しき未来は、必ずやって来る。
確定している未来だからだ。




