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第2話 覚醒

文字数:2362字

「…………」


 私が〈神の信託〉とか訳の分からない儀式で聖騎士に選ばれ、これから魔王軍と戦うことになったと言われても正直ピンと来ない。


 でも、両親は狂ったように泣き叫んでいる。


(聖騎士? 魔王軍と戦う? 誰が? 私? 私が聖騎士になって魔王軍と戦うの?)


 神父様や村長さんに慰められている父と母を見た時、私も事の重大さにやっと気付いて大粒の涙が溢れ出てきた。


(嘘でしょ? ……無理だよ……絶対無理!)


 私の意思などお構いなく色々な事がどんどん決まっていく。 


 大陸最東端にある教会総本山に行くこと。


 出発は一週間後とのこと。


(助けて……お願い、助けて……レイン……)


 私は不安でたまらなくなり、心の中で愛しき人に助けを求めるのだった。


♢♢♢


 すべての話が終わり、そして事が決まると教皇様から「これをあなたに」と古びた木箱を手渡される。


 ――聖剣と神剣。


 聖騎士の証しである二本の剣が、この木箱に納められていると言われた。


「さぁ、手にお取りなさい。聖騎士のあなたにしか扱えない剣です」


 教皇様のお話では、聖騎士スキル所持者のみが聖剣と神剣を扱えるらしい。


〘カパッ〙


 木箱の蓋を開けた私。


 そこには刀身からつばつかと何から何まで真っ黒な二本の剣が入っていた。


 それだけでなく備え置いてあるさやまで真っ黒なのだ。


 鈍く光り輝く黒き双剣。


 まるで双子のように長さも形もすべて同じ。


 他の人が見たならば、どちらが聖剣か神剣か見分けがつかないだろうなと思う。


 だけど、私は違う。


 何の迷いもなく二本の剣を手に取った。


〘カチャ、カチャ〙


 聖剣を右手に、それから神剣を左手に持つ。


 二本の剣を持った瞬間、私の中で眠っていた聖騎士スキルが覚醒していった。


(基本スキルは……うん、分かったよ……次は何? ……固有スキルか……なるほどね……これが聖騎士スキル……ふふふ、凄いじゃんエミリー・ファインズ♪)


〘カチン、カチン〙


 聖剣と神剣を鞘に納めた私は、教皇様に一礼してから満面の笑みを浮かべて言う。


「教皇様、このエミリー・ファインズ、聖騎士として必ずや魔王軍を討ち滅ぼします!」


「期待しております、聖騎士よ」


 教皇様は私の様変わりを予想していたのか、笑顔でそう言うと白銀の鎧の騎士達とともに教会を後にするのだった。


 今の私の様子を、ただ黙って見ていた両親や神父様、村長さんは驚きの表情をしている。


 まぁ、それはしょうがないよね。


 つい先程まで、不安な顔をして小さくなっていた私が消え去り、今は自信に満ち溢れているのだから。


 ――スキル。


 聖騎士のみなもと。この聖騎士スキルがあってこその聖騎士なのだ。


 ふふふ、凄いスキルが覚醒したよね。


 誰にも負けない。負けるはずがないもん。


 レイン、私は無敵の聖騎士になったよ。


♢♢♢


「フンフフーン♫」


 教会で両親達と別れ、お気に入りの川沿いの道を私は一人、鼻歌を歌って歩いていた。


 父と母は、今後のことを神父様、村長さんと話し合うため教会に残ったけれど、私は一人になりたい気持ちもあって、散歩しているというわけなのだ。


「フンフンフーン♫ ふふふ、私が聖騎士か」


 本当はいの一番に今日の出来事を愛しき人に伝えたいけど、聖騎士の件は口外禁止のお達しがあり、誰にも伝えることができない。


 仮に伝えることができたとしても、レインは村にいない。


 漁を生業としている両親のもと、次男として生を受けた愛しき人。


 この時期はお魚がたくさん獲れるので、五日ほど海に出っ放し。


 だから、レインやお父様のハリーさん、長男のギルさんの三人は船の上なのだ。


「五日もレインと会えないなんて死にそう」


 私はそう言い捨てると、小石をおもいっきり川に投げつけた。


「……あれ?」


 自然とそんな言葉が口から漏れる。


 次の瞬間、あり得ないくらい取り乱す自分がいたのだった。


 ちょっと待って? えっ? 嘘? 


 いったい何を浮かれていたのだろう。


 聖騎士? 魔王軍と戦う? 無敵?


 それが何よ? 


 魔王軍と戦っている間、レインと離れ離れになるってこと?


 イヤだ、絶対イヤだよ。そんなの私に死ねと言っているようなものだ。


[ズキン!]


♢♢♢


 突然だった。


 今までに経験したことがない激しい頭痛が、私を襲ってきた。


[ズキン!]


いたっ! 何これ……」


[ズキン! ズキン! ズキン! ズキン!]


「……ぐっ」


 あまりの痛さに耐えられず、頭を抱えながらその場にしゃがみ込んでしまうが、私のことを襲うのは痛みだけじゃなかった。


 怒涛の如く()()の記憶が流れ込んでくるから頭が破裂しそうになる。


 誰の記憶? ――私の記憶。

 玉木奏?  ――私の名前。

 森沢亮次? ――私の愛しき人で夫。

 倉木鷹也? ――思い出したくない……。


 身に覚えがないけど、身に覚えがある。


 めくるめく(よみがえ)る玉木奏の記憶の数々。


[バリンッ!]


 激しい頭痛が治まると同時に、私の頭の中で弾ける音が鳴り響いた。


 ――私は転生者。

 ――玉木奏の転生者だ。


「ははは……最悪だよ……」


 前世では玉木奏というクソ女、今の世の世界ではエミリー・ファインズの私が力なく呟く。


「うっ! ……おぇっ……おぇっ……」


 えずき出してしまった私は、急いで木の陰に隠れて嘔吐した。


「おぇぇぇ、おっ、おぇぇぇ」


 クソ女の記憶なんて思い出したくなかった。


 こんなことがあるの?


 私だけじゃなく、愛しき人レイン・アッシュまでも森沢亮次の転生者だなんて。


 玉木奏は何をした?


 森沢亮次を裏切っただけじゃない。夫殺しの共謀までしていたクソ女だ。


 もし、レインが森沢亮次の記憶を思い出して覚醒したならば、私は間違いなく殺される。


 事実、玉木奏の記憶の中で森沢亮次は何度も叫んでいた。



 ――殺してやる!



「うっ……うぅ……レイン……ごめん、本当にごめんなさい。亮次、本当にごめんなさい」


 陽も暮れ始めて辺りが暗くなる中、木の陰でひとり泣きながら懺悔の言葉を口にする。


 聖騎士スキルと玉木奏の記憶が覚醒した日。


 私の人生18年で、一番最悪な日になった。



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