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Over And Over 〜或る男の悲しくも儚い異世界復讐譚〜  作者: 前田ヒロフミ


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第24話 決断

文字数:2815字

「追いついた!」


「うん!」


 ゲイルさんとガスさんを乗せた馬車が、合流地点を目指して俺達の目の前を走っている。


 俺とエミリーは身体強化〈疾走〉で一瞬のうちに馬車を抜き去り、二人の前に立つ。


「ゲイルさーん! ガスさーん!」


 ぶんぶん手を振りながら、弾けるような笑顔で呼びかけるエミリー。


〘ギギギギギギギギ〙


 木製の車輪がきしみ音を鳴らし、馬車は急停止した。


「えっ!? ど、どういうことっすか? 何でエミリー様とレイン殿がここにいるんすか? えー? どうしてっすか?」


「このクソ野郎のアンポンタンが! 黙れ! 今、ここにお二人がいらっしゃるということは、問題解決と受け止めてよろしいのですか?」


 目をパチクリとさせているガスさん、そして俺とエミリーが無事なことに安堵の表情をしているゲイルさんの二人に言葉をかける。


「はい、問題解決です。まぁ、問題を解決したのはエミリーの、いや聖騎士様のおかげです。まさに独壇場でした」


 俺の言葉を聞くやいなや、二人は頭をぐるんっと回してエミリーに視線を向けた。


 きっと歓喜の表れなのだろう。


 その体をフルフルと震わせている。


「「凄い! エミリー様!」」


 気持ち悪いくらい同時にそう言うと、お次は感涙にむせんでいた。


「わ、私がしたことなんて凄くないよ。レインが励ましてくれたおかげ……そ、それに……そばに……いてくれたから私は頑張れたの。えへへ、これからもずっと私のそばにいてね」


「おかげ……」の後は、エミリーの声が異様に小さく何を言っているのか分からなかったが、俺達四人は話し合いの末、この場所で初めての野営をすることになったのだった。


♢♢♢


 能ある鷹は爪を隠す。


 とはよく言ったものだなと改めて思う。


 馬車に積んであった野営一式を手際よく扱い、夕飯の準備をするガスさん。


「ここは俺の独壇場っすよ」


 訳の分からない話し方をしなければ、二枚目の格好の良い人の特技、それが料理だった。


 簡易な調理器具だろうとお構いなしで、次々と美味しい食事を俺達に提供していく。


「どうっすか? 美味いっすか? 料理は自信あるんすよー!」


「本当に美味しいです」


「私もこんな上手にお料理できる人になって、好きな人に美味しいって言ってもらいたいな」


「このク◯野郎……あっ、食事中に失礼した。フン! てめぇの料理が天下一品なのは騎士団で有名だからな。別に驚かんわ! 美味いよ! そう言えばいいんだろ! ク◯が! あっ……失礼しました……」


 俺達三人のそれぞれの感想を聞き、ご満悦の表情のガスさんが言った一言によって、現実に引き戻された気がした。


 決して忘れていたわけでもなく、話を避けていたわけでもなかったけど、どう話を切り出すべきか悩んでいたから。


 ――俺達、これからどうするんっすか?


 ガスさんを含め、みんなの視線がその答えを俺に求めていた。


 正直、俺に答えを求められても困る。


 自分はあくまで付き添いであって、何の権限もない者だからだ。


 ただ、今の状況は間違いなく異常事態。


 四人の中の誰かが、これからどうするのかを決めなければならない。


 それを決める人物が俺でいいのか、誰か教えて欲しいと思ってしまう自分がいる。


 ――異常事態。


 こんなの俺だけじゃなく、エミリーやゲイルさん、ガスさんも思っていることだ。


 カリンは事前会合において、森林地帯に魔王軍先遣隊約600匹が駐屯していると報告した。


 その報告に嘘偽りがないことは、俺もカリンと一緒に現場を目撃しているので、真実以外の何物でもないと断言できる。


 それが今はどうだ。


 魔物達が森林地帯を抜け、草原地帯にあった駐屯地を襲って騎士達を皆殺しにした。


 今の最悪な状況を異常事態と言わずして何と言うのか。


 監視隊は、魔王軍先遣隊の監視が任務だ。


 でも状況が一変した今、監視任務を放棄して一刻も早く大聖堂に戻り、この異常事態を報告するのがいいはず。


 しかし、魔物達が草原地帯に侵攻を開始したならば、住民避難完了までの防波堤が必要だ。


 誰が防波堤の役割をする?


 魔物を駆逐できるのは、スキル所持者だけ。


 カリンと団長ヴィクトは、大聖堂で住民避難の陣頭指揮をしなくてはならない人達だ。


 ……ははは、何だよ。


 俺は答えを出しているじゃないか。


 自分の言ったことを忘れるなよ、レイン。


〈役割分担するのがいいと思っています〉


 ゲイルさんとガスさんには、この異常事態を大聖堂に報告する役割を担ってもらう。


 防波堤の役割を担うのは、俺とエミリーだ。


 ――俺は決断する。


「ゲイルさんとガスさんは、大聖堂に急ぎ戻り異常事態の報告を。森林地帯に行くのは、俺とエミリーだけです」


 俺の言葉の意味を理解して、暗い表情をするゲイルさんとガスさん。


「やっぱり、そうなるっすよね」


「こ、このクソ野郎……レイン殿、敢えて説明を求めてもよろしいか?」


 俺は黙って頷くと、自分の考えを伝えた。


 しばしの沈黙の後、ゲイルさんがせきを切ったように話し出す。


「レイン殿、エミリー様にお願いがあります。ぜひ、お供させて頂きたい。スキル所持者でないと魔物達を駆逐できないのは百も承知。大聖堂にこの異常事態を報告しても、すぐに事が変わると自分には到底思えません……これは建前ですかな……本音の自分はお二人と離れたくないからです! 役割分担と言うなら、自分がお供して何か役立つことがあるはずです。どうかお願いいたします! 馬車を引いている二頭の馬は黒兎馬と言います。名馬中の名馬と名高く〈千里の馬〉とも言われております。この馬を駆れば大聖堂は目と鼻の先と言っても問題ないでしょう。状況は、刻々と変化するものです。最終段階を見極め、それから大聖堂に報告するのもまた戦略戦術と自分は思います。おい! クソガス! てめぇはどうするんだよ? 言っとくがな、大聖堂に行くなら歩いていけ。馬車を引くのに馬が二頭いるんでな」


「は? 何を言ってるんすか! 俺が大聖堂に行くといつ言いましたかって感じっす。お二人に随伴の申し出をするつもりでいたっす。御者も美味しい飯を提供できるのも俺だけっすよ。隊長は糞の役にも立たないっすけどね」


「このクソ野郎のイカレポンチが! てめぇを殺してやるー!」


「やってみろっす、ハゲ隊長!」


 二人が口論を始めてしまったので、止めようとしたら時すでに遅しで取っ組み合いの喧嘩になってしまった。


「エセ野郎が!」「ハゲ野郎!」


〘ドカッ! バキッ! ドゴッ!〙


♢♢♢


「あー、分かりました! 俺達四人で森林地帯に行きましょう。 みんなの得意分野で役割分担します。それで決まり! もう喧嘩しないで」


 ゲイルさんとガスさんの気持ちを汲んだのもあるけど、エミリーが涙目になりながら「私が絶対に二人を守るから」と懇願されてしまい、首を縦に振るしかなかった。


 妙な腐れ縁ができてしまったなと思う反面、心強い仲間ができたと思った。


 決断したからには、四人で森林地帯に行く。


 この先、何が待ち受けようとも。


 だが、森林地帯に先遣隊はいない。


 そこにいたのは、別のモノだった。


 後日、俺達はそれを知ることになる。



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