第23話 黄金色
文字数:2761字
「ありがとう、レイン。私はもう大丈夫だよ」
「そうか。エミリー・ファインズは強い女性だもんな」
エミリーの顔を見て確信する。
先程まで恐怖で体を震わせ、青い顔をしていた女性はどこにもいない。
今、目の前にいるエミリーは強く気高く美しく、自信に満ち溢れた顔をしている。
それはまさしく魔王軍という闇で覆われた大陸に光を照らす存在、聖騎士だったからだ。
「ま、魔物? ど、どういうことっすか? 大丈夫なんすか? えっ? 本当っすか?」
俺とエミリーの会話を聞いていたガスさんが真っ青な顔で慌てふためく。
「このクソ野郎のスカポンタンが! てめぇは黙ってろ! レイン殿、魔物とはどういうことですか?」
さすがは隊長だなと感心する。
ここで隊長と副隊長の差が歴然と現れた感じだ。
状況が分からず、ただあたふたするガスさんに対し、状況は分からないが今の状況を冷静に確認しようとするゲイルさん。
「時間がないので、手短に説明します。駐屯地の騎士は全員死亡、魔物達に殺されました。そいつらがもうすぐここに来ます。俺とエミリーで敵を駆逐します。二人は馬車で来た道を戻ってください。後ほど、秋桜が群生していたところで合流しましょう」
俺は、早口だが大事な要点を押さえて状況説明をしたつもりだ。
きっとゲイルさんなら、すぐ理解してくれるだろうと思っている。
「ちょ、ちょっと待ってくださいっす。危ないっすよ。みんなで――」
〘バシッ!〙
ゲイルさんが黙れと言わんばかりにガスさんの頭を引っ叩いた。
「分かりました。レイン殿、そしてエミリー様に神のご加護があらんことを。ほら早くしろ、行くぞ、ガス」
エミリーはゲイルさんとガスさんの真正面に向き合うと、微笑みながら言った。
「昨日、私が言ったことを証明しますね。後で合流しましょう。さ、早く行ってください」
魔物達を迎え撃つべく、馬車から飛び降りた俺とエミリー。
〘〘ヒヒーン!〙〙
二頭の馬が鳴き声を上げ、二人を乗せた馬車は走り去っていく。
「ゲイルさんを見直しちゃった」
そう言った後にあどけなく笑うエミリーに、俺は同意する。
「ほんとそれな、隊長は伊達じゃない」
「そうだね」
「「あっはははは」」
俺達が笑い合っていると、前方から魔物達がやって来るのが見えた。
「「!!」」
「来たよ、レイン」
「ああ」
魔物の数は53。
ここで奴等を駆逐できれば、ゲイルさんとガスさんを守ることができる。
「エミリー、必ず魔物達を駆逐するぞ!」
「うん!」
♢♢♢
俺のサムライスキル。
前回の戦いで分かったことがある。
弱点と言っても過言ではない。
まず、上空の敵に対して攻撃手段がないのだ。
敵が俺を攻撃するため、下に降りてくれば刀で斬れるが、上空に滞空しているならお手上げ状態だ。
次に、多数の敵に対して同時攻撃できる能力がない。
敵を一匹ずつ刀で斬り、駆逐していくしかないのだ。
サムライスキルにとって、最悪なのは上空に多数の敵が滞空している場合かもしれない。
だから、今回はまだいいほうなんだ。
多数とはいえ、魔物達はすべて地上にいる。
……エミリーの聖騎士スキルの力、個人的に凄い興味がある。
♢♢♢
〘ドドドドドドドドドドドド〙
砂煙を激しく巻き上げながら、駐屯地の騎士達を一人残らず亡き者にした53匹の魔物が、俺とエミリーを殺すためにやって来た。
「レイン、猿だ、猿だよ。すごい大きいね」
「あぁ、猿だな、猿の魔物だよ。来るぞ、警戒しろよ、エミリー」
(確かにデカいな。背丈はエミリーくらいか)
【キー! ウキー! ウッキー!】とそれぞれ猿の魔物達は威嚇するように鳴き声を出し、俺とエミリーの周囲をウロウロ行ったり来たり動き回っている。
(何だ? どうして襲ってこない? いたぶるつもりなのか? 舐めやがって……えっ!?)
俺は刀に手をかけ、いつでも抜刀できる構えで臨戦態勢だ。
しかし、横にいるエミリーを見ると剣にも触れず、猿の魔物達を凝視しているだけだった。
「おい、エミリー、剣を抜け! いつ攻撃してくるか分からないんだぞ!」
「……うん」
俺の言葉に生返事を返すエミリーだったが、何かに視線をぶつけていることに気づいた。
バカデカい体躯の猿の魔物が、群れの後方で眼光鋭く俺達を睨みつけている。
(あいつがこの群れの親玉だな)
「あいつがこの群れの親分って感じだね」
俺の心の声とエミリーの声が重なり、驚いていた時にそれは起こる。
――殺す。
間違いなくエミリーの声。
それも冷たく殺意のこもった声だ。
〘ズバンッ!〙
その言葉を発したと同時に、7匹の猿の魔物が一瞬のうちに真っ二つに切断された。
猿の魔物達は何が起こったのか理解できず、呆然として一歩も動かなくなり、俺はエミリーが繰り出した剣の斬撃に息を飲む。
「うん、いい感じ♪」
今の言葉は、さっきの言葉とは反対に明るく楽しげな声だった。
「!!」
俺は視線を走らせ彼女を見た瞬間、一驚してしまう。
十字に重ね合わせた二本の剣を構えながら、薄気味悪く笑っているエミリーがいた。
「レインは見てて。あいつらは私が殺るから」
「えっ!? お、おい、エミリー……」
仲間が殺されたことをやっと認識したのか、猿の魔物達は飛び跳ね、怒りを露わにするとエミリーに向かって一斉に飛びかかっていく。
【【ウキーッ!】】
「バカだなぁ。飛んだら空中で避けられないでしょ? お猿さんは。じゃ、さよなら」
今度は何も見逃さないと決め、エミリーの剣から繰り出される斬撃を注意深く見た。
自分の目が信じられなかった。
聖剣と神剣から、三日月形の斬撃を凄まじい速さで繰り出していたのだ。
〘シュッ! シュッ! シュッ!〙
二本の剣を縦、横、斜めと何の規則性もなく適当に振り回しているだけなのに、猿の魔物達がどんどん斬り裂かれ死んでいく。
「よし! 最後は親分さんだけだね」
手下が無惨に斬り殺され、その肉片の山々に一匹だけ残った親玉。
勝てないと悟ったのか、エミリーに背を向けて逃げ出した。
「逃さない! 駐屯地の騎士、みんなの無念を思い知れ!」
「な、何だよ、それ……」
俺は聖騎士エミリーの姿に驚愕する。
エミリーの体に〈光の衣のオーラ〉が纏い、何かの力を分け与えられたのか聖剣と神剣が黄金色に光り輝く。
「私のとっておきをあげるね、親分さん♪」
――天翼。
まるで鳥が翼を広げるかの如く、聖剣と神剣を左右に広げて親玉を斬り裂くと、この世から跡形もなく消滅させてしまったのだ。
ふぅぅと息を吐き、二本の剣を鞘に納めるとエミリーは俺に向かって満面の笑みで言う。
「全部レインのおかげ、本当にありがとう」
「……あっ、ああ。聖騎士様、お見事でした」
♢♢♢
カリン。
無理だ、絶対に無理だよ。
誰もエミリーを殺すことはできない。
逆に殺されるのがオチだ。
それくらい聖騎士スキルは強い。
強すぎるよ。
祈ろう。
俺とカリンで。
エミリーが人の道を外さないことを。
俺は信じたい。
エミリーは希望の光であると。




