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Over And Over 〜或る男の悲しくも儚い異世界復讐譚〜  作者: 前田ヒロフミ


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第22話 希望の光

文字数:2809字

 何やら外が騒がしい。


 騒がしさの原因。


 それは間違いなく俺が知っている二人の騎士だと断言できる。


「はぁ。まったく朝から何を騒いでるんだよ」


 ため息と共に思わず愚痴ってしまった。


 次の目的地である騎士団駐屯地に向かうため、宿屋を出発する朝に騒ぎは勘弁してくれよなと思いつつ、俺は馬車があるところに向かって足早に歩いていく。


 案の定、やっぱりゲイルさんとガスさんが馬車の前で騒いでいた。


 でも、何か様子が変だ。


 二人はいつものバカみたいな掛け合いではなく口論をしている? 


 だからいつもと違い、エミリーは笑顔ではなく困った顔をしているのか?


「俺っす、俺がやるっす。隊長は引っ込んでてくださいっす」


「このクソ野郎のアンポンタンが! これは隊長である俺の役目だ。副隊長の役目じゃねえ」 


 取っ組み合いの喧嘩を始める勢いで顔を突き合わせ、二人が口論しているのを初めて見たので、これは流石に只事じゃないなと思った。

 

「どうしたんですか? いったい何を揉めてるんですか? エミリー、どういうことだよ」


 今回の事の顛末を知るためにエミリーから詳しく話を聞くことにしたのだが、二人の口論の原因を知った俺は開いた口が塞がらなかった。


 そして、開口一番こう言ってしまう。

 

「くだらない」


「くだらなくなんかないっすよ! レイン殿、これは立派な騎士の役目っす!」


「このクソ野郎のノータリンが! レイン殿、これは立派な隊長の役目になります!」


 ゲイルさんとガスさんは何を勘違いしたのか、揃いも揃って俺のところに駆け寄ると、鼻息を荒くして食ってかかってくる始末。


 俺は今回の騒ぎの原因を作った奴、聖騎士様に冷たい視線をそっと投げかけてやった。


 昨晩を思い出す。


♢♢♢


 俺が言った役割分担という言葉。   


 その言葉を受けて、エミリーはゲイルさんとガスさんに優しく語りかける。


「魔物と戦うだけが、戦いじゃないと思うの。ゲイルさんやガスさん、騎士団の皆さんにしかできない戦いってあると思います。私とレインが魔物を駆逐する戦いをします。ゲイルさんとガスさん、騎士団の皆さんを守るため、大陸の人々を守るため、私は戦います。だから、もし私に困難が降りかかり、立ち上がれなくなってしまったら、ゲイルさんとガスさんは私に手を差し伸べてください。きっとそれが二人にしかできない戦いだと私は思うから」


「「エミリー様!」」


「そうっすね、役割分担いいじゃないっすか。俺は俺のできることをするっす。エミリー様の役に立てる男に俺はなるっすよ」


「このクソ野郎のスカポンタンが! てめぇ、マジで殺したくなったぞ。エミリー様のため、人々のため、自分は自分にしかできない戦いをします」


「ゲイルさん、ガスさん、ありがとう! 自分ができる戦い、自分にしかできない戦いをしましょう。みんなで魔王軍に勝ちましょう」


「「はい、エミリー様!」」


♢♢♢


「…………」


 どうして、あの話から馬車に乗るエミリーにどちらが手を貸すかであんな大騒ぎになるんだよ。


 エミリーもエミリーでさ〈私はいいこと言ったよね〉みたいなドヤ顔してたし。


 朝からこんなくだらない茶番劇を見せられて、本音が口から出てしまった俺が悪いのかよ。


 これ以上時間を無駄にしたくなかった俺は、今回の騒ぎの元凶に言ってやった。


「エミリー、馬車に乗るのに人の手助けなんて必要ないだろ。さっさと乗りなさい! あのな、時は金なりなんだぞ」


「うん、確かにそうだね! ゲイルさん、ガスさん! 早く出発しましょう!」


「「はい、エミリー様!」」


 そんなこんながあったけれど、俺達四人は宿屋を無事に出発し、次の目的地である騎士団駐屯地に向かったのだった。


♢♢♢


 俺は専門用語は分からない。


 たぶん、補給路と言えばいいのだろうか。


 教会総本山と駐屯地を結ぶ交通路だ。


 現在、馬車が走っている補給路はとても綺麗に整備されていて、二頭の馬も木作りの車輪も何の障害もないからか、スイスイと進んでいく印象がある。


 今のペースで進んでいくなら、予定よりも早く騎士団駐屯地に着くかもしれない。


 道すがら、この近辺のことを騎士団の二人に質問してみた。


 ゲイルさんとガスさんの話によると、宿屋と駐屯地の間には人が住む集落はなく草原地帯があるだけと説明があった。


 草原地帯、その先が森林地帯、そのまた先が王宮のある中央と言われる場所。


 ――中央。


 文字通り、大陸の中央にあって貴族や王族、王様の住む王宮があった。


 大富豪を相手に商売する商人も多くいた。


 中央にだけ存在するダンジョン、そこにある財宝を手にして一獲千金を夢見る冒険者という職業の人達が多く集っていた。


 大勢の人が集まり、そして栄華を極めていた。


 まさに大陸の心臓とも言える場所が中央だった。


 今はすべて過去形になってしまうのだ。


 現状、中央は魔王軍本隊が駐屯し、東部侵攻のために進軍してきた先遣隊が森林地帯に分駐している。


 明日、先遣隊がいる森林地帯に到着する。


 緊張と不安、様々な感情が入り乱れている。


 だけど、それとは別の感情が俺の中にあり、先程から妙な胸騒ぎを感じるのだ。


 ふとエミリーに視線を移すと、体を小刻みに震わせている。


(エミリー、お前もか。この感情……そう、この感情は危機感に違いない)


 ほんの少しだけ陽が陰り始め、夕刻も近いなと思った時、信じられないことが起こる。


「!?」



 ――何で? どうしてだよ? ありえない!


 

 サムライスキルが危険を察知した。


 これは紛れもなく魔物達がいる反応、指し示す場所は騎士団駐屯地。


「ガスさん! 馬車を止めてください!」


 俺の尋常ならざる声に驚いたガスさんが「えっ、ここで」と生返事を返した。


「止めろと言ってるだろ!」


 再び怒鳴るようにしてそう言うと、ガスさんは慌てて馬たちの手綱を引き、馬車を止めたのだった。


 ガスさんはもちろん、ゲイルさんも目上の人に対し、俺がそんな乱暴な言葉使いをする人間でないことは知っているので、何か異常事態が起こったのだとピンと来たようだ。


「レイン殿、どうされたのですか?」


 ゲイルさんの質問は聞こえないフリをして、俺はエミリーに声をかける。


「エミリー、分かるな? これが魔物の反応だぞ。俺達が駆逐すべき奴等なんだ」


 下を向き、自分の体を抱いてブルブル震えていたエミリーが恐怖で青くなった顔を上げ、こう言ったのだ。


「む、無理……私、怖い……こんなのと戦うなんて……無理だよ、レイン」


 53匹の魔物が俺達の存在に気づいたのか、蠢き出したのがスキルの反応で分かる。


 震えるエミリーを抱き寄せて、俺は教皇様の言葉を改めて聖騎士に伝えるのだった。


「お前は聖騎士、この大陸に光を照らす者だ」


 ――エミリーは、希望の光になれ!


♢♢♢


 レインに抱き寄せられた私。


 教皇様のお言葉。


 レイン、あなたから言われると何倍も何十倍も何百倍も私の心に響いてくる。


 うん。そうだよね、レイン。


 私は、聖騎士エミリー・ファインズ。


 闇に覆われた大陸に光を照らす者。


 魔王軍の魔物達は、私が討つんだ。

 

 ――私の初陣が、今始まる。



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