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Over And Over 〜或る男の悲しくも儚い異世界復讐譚〜  作者: 前田ヒロフミ


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第21話 役割分担

文字数:2568字

「レイン、どうしたの? 顔が笑ってるよ」


「えっ? いや、ちょっと思い出し笑い」


 馬車の窓から見える長閑のどかな風景とは対照的に目まぐるしい日々を一笑いっしょうしたのが、どうやら顔に出てしまっていたようだ。


「ふーん。そうだ、お菓子あるよ。食べる?」


「ああ、もらうよ」


 〈笑ってる〉か……。


 そう言われても微妙な気持ちになる。


 なぜなら、楽しくて笑ったわけじゃない。


 けれど、エミリーは違うよな?


 こんなエミリーは久しぶりだなと思うくらい朝からニコニコして、ご機嫌なのが目に見えて分かる。


 ご機嫌なエミリーを見てると、俺の心が自然となごんでいく。


♢♢♢


 俺達が乗っている教会騎士団所有の馬車は、優れた馬格の馬二頭に引かれ、あの森林地帯へ向かって道を進んでいた。


「凄い立派な馬車だね。村から教会総本山まで乗った馬車もかなり立派だったけど」


 フカフカの座席を手で触り、柔らかい感触にご満悦のエミリーが声を弾ませる。


「確かに凄いよな」


 これには俺も同感せざるを得ない。


「何を隠そう長期遠征用の馬車っすからね! 野営一式も完全常備っすよ。教会騎士団にある馬車の中でもピカピカのピカイチっす」


 俺達の話を肯定するかのように、馬車の御者であるガスさんがいつもの軽い感じで言った。


「このクソ野郎のスカポンタンが! ()()()()()()イチって、俺に喧嘩売ってんのかよ! 団長が監視隊にと貸し出してくれたんです」


「ははは、そうだったんですか。だってよ、聖騎士エミリーさん」


 ()()()()しく反応したゲイルさんの薄い髪に自然と目を向けてしまった俺とエミリーは、何とも言えない気持ちになる。


♢♢♢


 森林地帯到着までの行程は、三日の予定だ。


 一日目は宿屋で、二日目は教会騎士団駐屯地で宿を取り、遅くとも三日目の昼には森林地帯に到着するだろう。


 そして、東部に侵攻するため、魔王軍先遣隊が駐屯していた小高い丘を目指すことになる。


 今、613匹の魔物はどうしているのか。


 ――何かが起こる。


 俺は、揺れる馬車の中で嫌な胸騒ぎを感じていたのだった。


♢♢♢


「教会騎士団は、三隊ありますっすよ。各隊に約3,000人で合計10,000人っすね」


「このクソ野郎のアンポンタンが! てめぇ、マジで殺すぞ! 俺がレイン殿から質問されたのに、何で先に答えるんだよ!」


「……はぁ」


 昨日、エミリーに同情を禁じ得ないと思った俺をぶん殴ってやりたい気持ちだ。


 朝から今の今まで、ゲイルさんとガスさんはずっとこんな調子なのだ。


 エミリーは、二人のやりとりが楽しいらしくケラケラと笑っている。


 村から総本山までの旅の時とは比にならないくらい、うるさい二人にげんなりしてしまう。


「勘弁してくれ」


 俺達四人は予定通り一日目の宿屋に到着し、夕飯を食べているところだ。


「じゃ、ゲイルさんだけに聞きます。住民避難を誘導する隊は、いつから動くのですか?」


 もちろん、この質問をした理由はある。


 大聖堂から宿屋の間だけでも、かなりの人が住んでいる集落がいくつもあった。


 しかしながら、その人達がどこかに避難する気配をまったくもって感じなかったのだ。


 昨日の今日でどうこうできないのは分かっているつもりだけど、それでも早いに越したことはないはず。


 俺が性急すぎるだけだと思うが、森林地帯の魔王軍先遣隊を目にしているから、余計にそう思うのかもしれない。


(カリン、カリンはどう思ってる? 君も俺と同じように感じるはずだよな)


 ご指名とあらばと言わんばかりに満足げな顔を全開にしてゲイルさんが言う。


「それはですね。自分の隊、すなわち第一隊がまもなく動きます。元々、中央方面は自分の隊の管轄区域です。明日、宿を取る予定の駐屯地も第一隊の駐屯地の一つです」


「……そうですか。それなら良かったです」


 まもなくっていつですかと聞き返そうとした自分がいたので、少し神経質になりすぎてるぞと俺は自戒した。


 突然、ガスさんが挙手をする。


 彼が答えにくい質問をしてきた。


 とても答えにくい質問を。


「レイン殿、正直に教えてほしいっす」


「何をですか?」


 言葉使いはふざけている感じに聞こえるが、ガスさんの顔を見たら至って真剣だと分かる。


「俺達、教会騎士団は魔物と戦えるっすか?」


 ――無理だ。


 それが俺の答えだった。


 この答えを正直に言うべきか悩んでしまう。


 俺の答えを固唾を呑んで待っている騎士団のガスさん、そしてゲイルさん。


 エミリーは、俺がどう答えるのか不安そうな顔をしている。


 どうする? どう言えばいい? 何て言えば納得してもらえる?


 俺は悩んだ末、正直に答えることにした。


「無理です」


 その場が静まり返る。


 きっと前向きな答えを期待していたと思う。


 二人の表情が物語っていたからだ。


 でも、俺は敢えて正直に言った。


 変に期待を持たせ、その気にさせ、魔物達と戦って死んでほしくなかったからだ。


「やっぱり、そうっすか。ま、そうっすよね」


「すみません。バカ正直に言ってしまって」


「レイン殿が謝る必要などありません。正直に言ってくれたおかげで、こちらとしては諦めもつきます」 


「みんなに聞いてもらいたい話があります」

 

 森林地帯で俺とカリンに起こった出来事を、一部始終詳しく説明した。


 特に、これから魔物達との戦いの日々を送るエミリーに聞いて欲しくて。


 昨日の事前会合で、カリンは俺達に起こった出来事について一切話さなかった。


 なぜ話をしなかったのか。


 カリンに何か考えがあるのかもしれない。


 それはいずれ機会があったら聞いてみようと思う。 


「――というわけです。スキル持ちであっても油断ならない相手でした。騎士団の人がいくら日々鍛錬を積んでいたとしても、奴等にしたら赤子も同然のはずなんです」


「「「……」」」


 俺の話を聞いて黙り込んでしまったエミリーとゲイルさん、ガスさん。


「これはあくまで俺の私見ですが、騎士団員は避難誘導などの非戦闘行為を、スキル所持者は魔王軍の魔物達と戦う戦闘行為をする。つまり役割分担するのがいいと思っています」 


 ――役割分担。


 そう、これが最善の策だと思う。


 そのためのスキル所持者なのだ。


 力なき者を守るため、力ある者が持てる力を存分に使う。


 役割分担という言葉に驚きを隠せないでいる二人の騎士。


 俺は聖騎士様の顔を見据えて言う。


「聖騎士スキルとサムライスキルで魔物達を一匹残らず駆逐する。エミリーと俺が魔王軍を討つんだ」 


 エミリーは力強くうなずいた。


 それがとても嬉しかった。



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