第20話 監視隊
文字数:2581字
「打ち合わせは、明日だよね」
こんなに冷たく言葉を言い放ったのは、いつ以来だろう。
昨日のレインの素敵な笑顔にヤラれ、一目散に部屋に戻ると、わたしは彼を想い自慰をして何度もイキまくる。
清々しい気持ちのいい朝を迎え、レインを誘って朝食でもと思い、ウキウキ気分で出掛ける準備をしていたところに騎士団団長室にお越しくださいとの使者が来る。
何か大変なことがあったのかと来てみれば、今から打ち合わせをすると言ったヴィクト。
で、今に至るというわけだ。
わたしは、ふんぞり返って椅子に腰掛ける男の前に立っている。
「一日でも早く動けば、こちらが有利になると思ってね。うん? 僕は間違ってるかい?」
いつもの鼻につく言い回しに腹が立つけど、ヴィクトの言葉には賛同せざるを得ない。
「住民避難の件ね。それで?」
「まぁ、そんな焦らずに。美味しい茶葉が手に入ってね。時間はあるんだ。ゆっくりお茶でもしながら話そう。愛しのカリン」
「お茶はいらない。話を先に進めて」
「はいはい、分かりましたよ。例の森林地帯に監視隊を送り込む。魔王軍先遣隊の動向を常に把握できていれば、住民避難をより安全に行うことができるからね」
「うん、とてもいい案だと思う」
「だろ? 監視隊となる騎士達には昨日の夜に通達済、今朝出発したよ」
「素早い対応ね、流石と言っておくわ。でも、いったい誰が森林地帯に向かったの? とても危険な任務になるわよ」
ヴィクトは窓の外を眺めながら、さりげなく監視隊となった騎士達の名をわたしに告げた。
「エミリー、ゲイル、ガス、そしてレインだ」
「は?」
♢♢♢
「レイン、お茶どうぞ」
「ありがとう、エミリー」
俺達は今、馬車の中で揺られている。
この馬車が向かう目的地は、魔王軍先遣隊が駐屯している森林地帯だ。
――どうしてこうなった。
話は昨晩に遡る。
エミリーは鎧の試着のため、鍛冶屋に行くと言っていた。
夕飯までには戻るとも言っていた。
だが、夕飯時を過ぎても戻ってこない。
「何かあったのかな?」
一見、18才の華奢な女性に見えるエミリーだけど、聖騎士スキル所持者なのだ。
仮に暴漢の類に遭っても返り討ちにするはずなので、そっち方面のことは心配してない。
だから、余計に何かあったのかと気になる。
「ははは、参ったな。今日で付き添いの役目が終わったとか、ひな鳥の巣立ちを見送る気持ちだとか言っておいてこれだもんな」
俺は、何もできない自分にイライラしながら廊下を行ったり来たり歩き回っていた。
イライラが頂点に達する寸前だったと思う。
「ただいま」
やっと帰って来やがったな、エミリーめ。
どこで何をしてたと問い詰めてやるつもりで急いで玄関に行くと、そこにはエミリーだけでなくゲイルさんとガスさんも立っていた。
エミリーは意を決した顔で、俺をまっすぐに見据えて言ったのだ。
「レイン、お願い、お願いします! 私達三人と一緒に森林地帯に行ってください!」
「は?」
♢♢♢
「話は分かったよ」
エミリーの話はこうだった。
鍛冶屋に行き、エミリーは自分用の鎧の試着を終えて帰ろうとしたところ、団長ヴィクトに呼び止められ、今回の任務の通達を受ける。
しかし、エミリー、ゲイルさん、ガスさんの三人は、カリンから報告を受けたと言えども、あの森林地帯の現状を把握しきれていない。
そこで、一度行ったことのある俺に白羽の矢が立ったというわけだ。
「団長がね、レインに付き添いをお願いするといいって言ったの。どう? ダメかな?」
どうして、この任務がエミリーなんだと疑問が残るけど、確かに魔王軍先遣隊の動向を把握していれば、住民避難を安全に行えると思う。
「レイン殿、付き添いをお願いしまっす!」
「このクソ野郎のスカポンタンが! てめぇ、そんな軽いノリでお願いするな! レイン殿に付き添って頂ければ百人力なのです。ぜひとも自分達に力を貸してください」
何でみんな泣きそうな顔してんだよ。
俺は、どこかに所属しているわけじゃないから自由に動ける。
それに今日、教皇様から三聖を支えてくれとお願いされたばかりだ。
「分かった、エミリー。一緒に行くよ」
♢♢♢
白いローブを着て、刀を腰に差して思う。
(この出で立ちも二日ぶりか……)
まさか、またしてもあの森林地帯に行くことになるなんて思いもしなかった。
まだ、たったの二日しか経ってない。
そして、二日前と違って聖女様はいない。
不安がないと言えば嘘になるけど、それでも自分にできることを精一杯やる。
今回の監視隊の役割は大きいはずだ。
てか、いつまで支度に手間取ってるんだ?
「エミリー、まだか? ゲイルさんとガスさんが外で待ってるんだぞ!」
「今、行くよー」
教会騎士団の鎧って、着るのが面倒なのか?
「お待たせ、レイン。ふふふ、どうかな?」
「おー!!!」
俺は、思わず感嘆の声を上げてしまう。
なぜならば、聖剣と神剣を帯剣し、白銀の鎧に真紅のマントを纏っていた聖騎士エミリーを見たからに他ならない。
「えへへ、聖騎士エミリー只今参上!」
「どこをどう見ても聖騎士様だな」
その言葉はお世辞ではない。
正真正銘、本音だった。
美しき聖騎士エミリー・ファインズが、俺の目の前にいたのだから。
「よし、行くぞ。聖騎士様」
「うん」
すっきりと晴れた気持ちのいい朝。
監視隊の俺達四人は、魔王軍先遣隊が駐屯する森林地帯に向けて出発したのだった。
♢♢♢
「レインが監視隊?」
体の震えが止まらない。
この時、わたしは聖女ではなく一人の女になってしまう。
レインとあの女が馬車で仲良く旅をするの?
これから森林地帯で何日も一緒に過ごすの?
そんなの想像しただけで発狂しそうになる。
わたしは団長室を勢いよく飛び出した。
後ろからヴィクトの声が聞こえたような気がしたけど、振り向く気にもならない。
騎士団詰所の敷地に出ると、愛しの人のもとに向かうため〈転移魔法〉をまさに発動しようとした時、ある人の顔が頭に思い浮かんだ。
それは酒場の時のレインだった。
聖女カリン・リーズに敬意を表してくれた時のレイン・アッシュだ。
――魔王軍を駆逐して人々を守る。
そうだ。
わたしは聖女で、人々を守る責務がある。
聖女としての責務と一人の女としての想い。
責務と想いの狭間で苦悶する。
抜けるような蒼空の下、ひとり寂しく佇む。
いつか、どちらか選択しなければならない日が来るだろう。
――運命の日。
わたし、カリン・リーズはどちらを選択するのか。
神のみぞ知る。




