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Over And Over 〜或る男の悲しくも儚い異世界復讐譚〜  作者: 前田ヒロフミ


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第18話 嫉妬

文字数:2424字

「何がヤバいんだい?」


「乙女の独り言を盗み聞きするなんて最低」


 五年前のあの日、わたしと共に教皇様の〈神の信託〉によって導かれた男。


 ヴィクト・タウ。


 わたしより2才年上の21才。


 16才で教会騎士団に入団。 


 元々剣の才能があったのか、聖堂騎士スキルの力を使わずとも、剣術のみでメキメキ頭角を現していく。


 副隊長、隊長、そして副団長とすさまじい早さで出世街道を駆け上がる。


 三年前に前団長が病気を理由に職を辞すと、それを機に副団長から団長に昇格した。


 そのたぐいまれなる剣術の腕前と聖堂騎士スキルを併せ持つヴィクトは、まさしく教会騎士団で最強の男だ。


「カリン、盗み聞きなんて人聞き悪いよ」


 そう言って爽やかに笑うヴィクト。


 男性の平均体型よりも小柄、栗色の髪を短く刈り上げ、水晶のような青色の瞳が特徴的。


 ヴィクトの甘いマスクと騎士団団長の肩書の良さも相まって、女性からかなり人気がある。


 外面そとづらが良いからモテるのはうなずける。


 だけど、この男は外面だけしか良いところがない。


 わたしはヴィクトの纏う色を知っている。  


 ――灰色。


 限りなく黒に近い灰色。


 何かしらきっかけがあれば、あっという間に灰色から黒に染まる危険な男。


 教皇様のことを考え、今までヴィクトだけを注視していればよかった。


 でも、これからはそうも言っていられない。


 エミリー・ファインズとヴィクト・タウ。


 危険な二人の動向を注視しなければならないからだ。


♢♢♢


「もうみんな集まってるわよ。なに余裕こいて最後に来てんの?」


「……そう。あいつもいるんだな」


 ヴィクトの視線は、前室の扉に向けられている。


 けれど、わたしは扉の向こう側にいる誰かを見据えていたように思えた。


「!!」


 突然、聖女スキルが危険を察知する。


 えっ!? ちょ、ちょっと、スキル発動?


「ヴィクト! 何してんのよ!」


 わたしは聖堂騎士スキルを発動したヴィクトを止めるため、扉の前に立ち塞がった。


「笑えない冗談やめてよね」


 スキルに対抗するにはスキルしかないので、聖女スキルを発動する。


「そっちがその気なら、わたしは容赦しない」


 わたしの言葉の意味を理解したのだろう。


 ヴィクトはスキルの発動を解除した。


「冗談だよ冗談。カリン、そんな怖い顔して睨まないでくれ。あっははは」


「冗談でこんなことをする男じゃないでしょ? 理由は何なの、ヴィクト」


 わたしは心のどこかでヴィクトを舐めていた。


 それは自分の(おご)りだったと思い知ることになる。


「うーん、確かに本気だったかも。殺すつもりだったからね」


「何を言ってるの? 誰を殺すのよ?」


「決まってるだろ。レイン・アッシュだよ」


 ……今、何て言ったの? えっ? わたしの聞き間違い? ヴィクトがレインを殺すって?


 目の前にいる男の言葉が理解できず、呆然としていたところ、ヴィクトは追い打ちをかけるように怒気を込めて言葉を続けた。


「君の接吻を受けられる男を殺してやりたいと思うのは当たり前だろ」


 わたしは金槌で頭を殴られた感覚に陥った。


 ヴィクトの言葉の意味を理解する。


 この男がそんなことを言った理由も心当たりがある。


 ――嫉妬。


 殺してやりたいくらいの嫉妬だ。


 つい先程、わたしは同じような感情から殺気を放つエミリー・ファインズを目にしたばかりだった。


 そして今、わたしに恋い焦がれて止まない男が嫉妬からレインを殺そうとしていた現実に愕然としてしまう。


「ヴィ、ヴィクトはあの場所の近くにいたの?」 


「いたよ。死ぬほど辛かったけどね」


「……」


「聖女カリンが、託宣した男と聞いただけでも腸が煮えくり返る思いなのに、頬とはいえ接吻される男。僕がそいつを殺してやりたいと思うのは至極当然じゃないか。そう思わないかい? 愛しのカリン」


「やめて、ヴィクト。これから大陸の行く末を賭けた戦いがあるんだよ。そのためにレインはなくてはならない戦力になる人。この状況下にあなたの私情なんか持ち込まないで」


「だから、あいつを殺すのやめただろ。何か文句でもあるのかい? うん? 言ってごらんよ」


 ヴィクトのこういうところが嫌い。


 いや、大嫌いだ。


 出会った頃から鼻につく男だったけれども、聖堂騎士スキル所持者になると輪をかけて酷くなった。


「文句なんてない。分かってくれて嬉しいよ。それじゃ早く前室に入りましょう。話し合うことがいっぱいあるでしょ」


 とりあえずレインに火の粉が降りかかるのを阻止できて良かったと思いながら、前室の扉に手をかける。


 その時だ。


 ヴィクトがわたしの横に立ち、体を少しだけくの字に曲げると喜色満面の顔で言った。


「僕の頬にも接吻してくれるかい? カリン」


 あまりに無神経なヴィクトの言葉にわたしは憤慨してしまう。


「ふざけないで! どうしてわたしがヴィクトに接吻しなきゃいけないのよ!」


「じゃあ、何でカリンはあの男に接吻したの? 僕に教えておくれよ」


「そ、それは……」


 ヴィクトにどのように答えるべきか、言葉に詰まる。


 どうしてレインに接吻したのか?


 そんなの決まってる。


 ――レインが好きだからだ。


 熊の魔物からわたしを助けてくれた。


 命を救ってくれた。


 そのお礼と言って衝動的に接吻してしまう。


 あの時のわたしは我慢できなかったのだ。


 ――レインが好き――


 わたしの気持ちをヴィクトに言うべき?


 レイン本人にさえ、この気持ちをまだ伝えていない。


 それなのに第三者であるヴィクトにわたしの気持ちを言葉にして言うの?


 そんなの絶対にいや!


「深い意味なんてないよ。わたしの想像以上にレイン・アッシュが活躍してくれた。だから、ご褒美で接吻してあげたって感じ」


「そうか! カリンの想像以上に活躍すれば、僕も接吻してもらえるんだね!」


「何でそういう流れになるのよ」


「だって、そういうことだろ? 違うかい?」


 一刻も早く不毛な押し問答を終わらせたい。


 わたしはそんな思いだけでヴィクト・タウに言ってしまったのだ。


 この無思慮むしりょな言葉のせいで愛しの人レインを死の淵に立たせることになるとも知らずに。


「分かった。いいわ、接吻してあげる」


「それは楽しみだな。約束だよ、カリン」



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