第17話 殺気
文字数:2693字
教皇の間の前室に案内された俺とエミリー。
〘ガチャ〙
執事が会釈をしながら、前室の扉を開けた。
〈どうぞ、お入りください〉と言葉にせずとも品のある立ち振る舞いで、そう言っているのが分かる。
「「ありがとうございます」」
俺達はお礼を言い、前室に足を踏み入れる。
初めての場所、初めての会合、何から何まで初めてのことだらけ。
不安そうな表情をしているエミリー。
「行こう、エミリー」
「うん」
何も臆することはない。
俺達は招かれざる客ではないのだから。
部屋の中央には大きな円卓があり、既に何人かが席に座っている。
顔馴染みの人達もいた。
その二人を目にした瞬間、エミリーの表情が綻ぶ。
「「エミリー様、レイン殿」」
二人の騎士はすぐさま席を立ち、俺達のもとに駆け寄ってきた。
「ゲイルさん、ガスさん」
嬉しそうに二人の名前を呼ぶエミリーの声を聞き、ほっとする自分がいた。
今の彼女にとって、これ以上ない心強い仲間の二人だ。
黒の祭服を着ているエミリーは、教会騎士団所属の騎士であることを意味する。
ゲイルさんとガスさんは、これから同じ釜の飯を食う仲間となるのだ。
……もう、いいかな。
俺の付き添いの役目が、今ここで終わる。
♢♢♢
「びっくりしました。ゲイルさんとガスさんが隊長と副隊長だったなんて。言ってくだされば良かったのに」
「そうだよ。私なんて本当にこの二人は騎士団なのって半信半疑だったんだから」
「言いたかったのは山々だったっすよ。でも、団長から内密にとお達しがあったっす」
「このクソ野郎のイカレポンチが! 内密とか変な言い方をするな! 特に言う必要もないと団長から言われていたので」
相変わらずの二人だな。
これから毎日、ゲイルさんとガスさんのバカな掛け合いを聞かされるエミリーに同情を禁じ得ないよ。
「エミリー様、他の隊の隊長と副隊長を紹介させてください。皆、聖騎士様とぜひ懇意になりたいと言っております。クソガス! てめぇもボケっとしてないでお願い申し上げろ!」
「分かってるっすよ! エミリー様、よろしくお願いしますっす!」
エミリーは〈行っていいか〉とお伺いの顔をするので、俺は黙って頷いた。
先程からこちらをずっと見ている四人の男が隊長と副隊長なのだろう。
ゲイルさんとガスさんは、まるでエミリーをエスコートするように他の隊長達がいるところまで歩いていくと、みんなで輪となって歓談を始めるのだった。
かくいう俺は、一人寂しく取り残される。
ぼっちは自分だけかなと思いながら、周囲を見渡してみると……。
いたよ。
もう一人ぼっちの奴が。
〈わたしに話しかけるな〉オーラ全開の聖女様が円卓に一人で座っている。
前室に入ってからというもの、何度も視線がぶつかったけど、決まってカリンは俺から顔を背けるのだ。
あんな露骨に顔を背けられる理由に心当たりはないが、カリンにあることを相談するために声をかける。
「カリン、昨日のことだけど――」
「!!!」
俺が言葉を投げかけた刹那、カリンの表情が強張り、光の速さで前室を飛び出していった。
「な、何だよ。昨日の魔物達の謎を相談しようと思ったのに」
♢♢♢
いつもより遅めの時間に目を覚ます。
「あっ……寝ちゃったんだ……わたし……」
ベッドの上のわたしは、あられもない姿。
いったい何回したのだろうか?
まったく覚えていないけれど、たくさんしたのは確かだ。
「最後は全裸になって……」
昨日のことを思い出すと、恥ずかしい気持ちになる。
それでも、後悔や罪悪感など一切なく満足感でいっぱいだった。
「レイン」
自然と愛しの人の名が口からこぼれる。
「……あっ!」
愛しの人レインで思い出した。
今日、全体会合がある。
全体会合は午後からだけど、事前会合は午前からあるのだ。
「遅刻しちゃうよ」
わたしは急いで出掛ける準備をする。
だけど、身支度は丁寧に整える。
「レインに会うんだもん。手なんか抜けない」
今日の髪型は、レインにはお初のにしよう。
髪を後ろに高めで結ぶ。わたしのお気に入りの髪型だ。人によっては馬の尻尾みたいだねと言う人がいる。
「うん、いいね♪ 完璧じゃなーい♪」
鏡で最終確認を済ませ、出来栄えに満足したわたしは会合場所へ向かうために部屋を後にするのだった。
♢♢♢
事前会合と全体会合には、何度か顔を出したことがある。
これまで傍観者を決め込んでいた。
しかし、今回の会合はそうはいかない。
昨日、この目で確認したのだ。
とても残念だったけど、わたしの予想通りの展開になっていた。
したがって、これから開かれる二つの会合は大陸の命運を決める大事な集いになるが、正直全体会合より事前会合の方が重要。
教皇様と枢機卿を除く事前会合において素案を決め、全体会合で教皇様の許可を得るのが通例だ。
だから、何としても事前会合でわたしの素案を通さなきゃね。
問題はあいつだよな。
はぁ、会いたくないなー。
♢♢♢
〘ガチャ〙
前室の扉が開き、男女二人が入室してきた。
レインだ!
彼から目が離せないよ。
わたしがじっと見つめていたので、愛しの人と何度も視線がぶつかってしまった。
そのたびにわたしは素早く顔を背ける。
……あぁ。
昨日のレインは凄かったな。
本物のレインはどうなの?
もっと凄いの? ねぇ、どうなの?
教えてよ、レイン。
愛しの人を目の前にして、卑猥な想像ばかりしていたからか、わたしの大事なところが熱く疼き出してしまう。
ダ、ダメだよ……こんなところで……。
熱く疼くアソコを鎮めるため、いかつい顔の枢機卿を頭に思い浮かべていた時だった。
「!!」
強烈な殺気がわたしに向かって放たれた。
「ふーん、時と場所はお構いなしって感じ?」
レインと一緒に前室に入ってきた女。
聖騎士エミリー・ファインズが冷酷な眼差しでわたしを睨みつけ、殺気を放っていたのだ。
この女がわたしに殺気を放つ理由。
それは……。
――レインは、私のものだ!
♢♢♢
つい今し方、わたしに向かって強烈な殺気を放っていた女は、現在隊長達とご歓談中。
そんな時、ぼっちになったレインがわたしに話しかけてきた。
「カリン、昨日のことだけど――」
「!!!」
昨日? 昨日のこと? 接吻? 自慰?
いやぁぁぁぁあああ! 恥ずかしい!
穴があったら入りたい!
でも、わたしが入る穴など周りにあろうはずがない。
一刻も早く愛しの人の前から消え去るべく、光の速さで前室を飛び出すのだった。
♢♢♢
「ひゃー、心臓止まるかと思ったよ」
わたしは前室の入口前の椅子に腰を下ろす。
「心臓ドキドキしてヤバいな、ははは」
――何がヤバいんだい?
その声にハッとする。
わたしの眼前に煌びやかに光り輝く白銀の鎧を身に着けた男が立っていた。
教会騎士団団長にして聖堂騎士スキル所持者である男。
ヴィクト・タウだ。




