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第1話 聖騎士

文字数:2096字

 私の名前は、エミリー・ファインズ。


 大陸最南端にある小さな村でファインズ家の一人娘として生を受け、果物栽培を生業としている両親のもと、たくさんの愛情を注がれ育てられた。


 村の人達は最南端の温暖な気候のせいなのか、陽気な性格の人ばかり。


 私は、そんな村の人達が大好きだった。


 その中でもひとりだけ、大好きな人がいる。同い年の17才、そして私と同じ稀有な黒髪黒目を持つ青年。


 彼の名は、レイン・アッシュ。


 レインと結婚して幸せな家庭を築き、大好きな彼の子を生み育て、家族みんなで仲良く平和に暮らしていきたい。


 それが私の大切な将来の夢。


 でも、今の世の世界は恐怖に包まれている。


 魔王がべる魔王軍によって、世界に数ある大陸が次々と蹂躙されていたからだ。


〈世界の人々はバカじゃない〉

〈何の対策もせずに、指を咥えて魔王軍の侵攻を待っているわけではありません〉

〈この大陸に魔王軍が侵攻してきた時に備え、それなりの準備をしています〉

〈だから、皆さんは心配しないでください〉


 村の学校の先生が、歴史の授業でそう教えてくれた。


 私は思った。


 魔王や魔王軍なんてこの世からいなくなればいいのに。


 世界の人々を苦しめる悪い奴等だ。


 悪い奴等は、みんな死んじゃえばいいんだ。


♢♢♢


 ――そして。


 ある晴れた暑い日の午後にそれは来た。


 突然の凶報だった。


〈魔王軍、大陸最北端に現る〉


 悪夢のような凶報は、またたく間に大陸全土に広がることとなる。


 もちろん、私の住んでいる村にもだ。


 ――この日は、しくも私の18才の誕生日だった。


 魔王軍侵攻の凶報から数日、特に何か生活が激変したかというと何も変わっていない。


 最北端と村がある最南端は、かなりの距離があり、私を含め村の人達みんなが心のどこかで他人事だと思ってしまっていたのだ。


 大陸の中央には王宮があって、誉れ高き最強の王宮騎士団が2万人駐屯していると聞く。


 それに勇者様が率いる勇者パーティーだっているのだ。


 きっと大丈夫。うん、大丈夫だ。


 魔王軍なんて王宮騎士団と勇者パーティーが蹴散らしてくれるはずだから。


♢♢♢


 季節は実りの秋を迎えようとしていた。


 村は以前と変わらず平穏そのもの。


 私ことエミリー・ファインズは、17才から家業の果物栽培に従事している。学校に通っていた時はお手伝い程度だったけれども、成人を迎えた今となってはファインズ果物園の跡取りとして、日々修行中って感じで頑張っている。


 両親は私に「お婿むこさん、よろしく頼むな♪」と毎度毎度冗談まじりに言ってくる。


 私は両親に毎度毎度何も言い返せず、ただ顔を真っ赤にしてうつむき黙ってしまう。


 お婿さん候補なんて、私の中ではレインしか思い浮かばない。


 大好き、レイン。


 愛しき人を想い、赤面している私を見て、両親は笑顔になっているのだった。


 レインと結婚して、四人で一緒に働くことができたら最高だよねと、私はニヤニヤしながらその光景を想像し、ウキウキ気分で果物を収穫していた時、後ろから私達を呼ぶ声が聞こえてくる。


「ファインズさん、エミリー」


 聞き慣れた声の方に顔を向けると、声の主はやはり村長さん。


 いつも朗らかに笑っている村長さんだけど、初めて見る神妙な顔つきに何かあったんだなと察することができる。


「ファインズさん! 大至急エミリーを連れて教会に行ってくれ!」


「何事ですか? 村長」


 父も村長さんの様子が普通じゃないと思ったのか、事の次第の説明を求めて聞き返した。


「頼むから早く教会に行ってくれ!」


 村長さんの怒気を孕んだ命令口調に従わざるを得なく、私達は何ひとつ分からないまま教会に向かうのだった。


♢♢♢


 週に一度は、礼拝のために訪れる教会。


 普段から通い慣れた教会のはずなんだけど、いつにも増して荘厳な感じがするのは気のせいだろうか。


 村長さんに促されるように扉を開き、教会の中に入ると白銀の鎧を身に着けた騎士が10人ほど、祭壇の前で整列していた。


(……教会騎士団だ)


 黄金の鎧は王宮騎士団と言われ、王宮を守護するためにあり、そして白銀の鎧は教会騎士団と言われ、教会総本山を守護するためにある。


〈二大騎士団を知らぬ者に生きる価値なし〉


 そのような言葉があるくらい大陸では有名な騎士団なのだ。


 ふと壁際を見ると、この教会の神父様が凄い緊張した面持ちで立っている。汗が吹き出して止まらないのか、手拭いでせっせと顔を拭いていた。


 村長さんは、両親の手を掴むと強引に神父様のいる壁際に連れていってしまった。


 私も両親も今の状況がまったく理解できずに戸惑っていると、一目見れば序列が高いと判断できる高貴な祭服を身に纏った人が、祭壇中央で凛として立っていた。


 私と目が合うとにっこり笑いかけてくれて、とても親しみやすい笑顔に、私も自然と笑顔になってしまう。


 その高貴な人は、スッと一歩だけ前に出ると私に向かって静かな口調で話し出す。


「私は教皇です。あなたは〈神の信託〉により選ばれし聖騎士となりて魔王が率いる魔王軍と戦ってもらいます。聖女、聖堂騎士、聖騎士の三聖は闇に光を照らす存在。聖騎士エミリー・ファインズに神のご加護があらんことを」


 きっとこの時からだと断言できる。


 私の人生の歯車が狂い始めた瞬間だった。



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