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Over And Over 〜或る男の悲しくも儚い異世界復讐譚〜  作者: 前田ヒロフミ


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第16話 三者三様

文字数:2308字

〘ドサッ〙


 大聖堂の自分の部屋に戻ると、俺はすぐさまベッドに倒れ込んだ。


「疲れた」


 心身ともに疲れたとは、まさにこういうことなんだなと実感する。


「……あれは何だったんだろう」


 別れ際のカリンのあれ。


「うーん、分からん」


 疲れているせいか、頭が上手く回らない。


「……でも、良かった。カリンを助けることができて本当に良かった」


 しかし、素直に喜べない自分がいる。


 それは謎があるからだ。


 俺とカリンは熊の魔物を探知できなかった。


 最初からあの場にいたのなら、スキルが探知できたはずなのだ。


 だけど、俺には()()()


 見えたんだ。


 熊の魔物がどこからともなくあの場に現れた瞬間が。


 もし見えていなかったら……。


 考えただけでゾッとしてしまう。


 カリンは間違いなく死んでいたのだから。


 それにだ、俺達を執拗なまでに追跡していた魔物達はどうして攻撃せず引き返したのか、意味が分からない。


 カリンのあれ、探知できなかった熊の魔物、そして引き返していった魔物達と謎だらけだ。


 はぁ、今日はもう何も考えたくないな。


 ……明日からでいいや。


 疲れてるしさ、ははは。


 今は、ただ泥のように眠りたい。


 …………。


 明日……会合だっけ……初めて……会う……人……も…………いるから…………挨拶………しないと……な……。


 俺は深い眠りにつく。


 今日のことは明日から考えようと決めて。


 ――全体会合。


 ある男が俺に殺意を抱いていた。

 

 敵は魔王軍だけではない。


 人もまた敵となるのだ。


 俺の終わりなき戦いの幕が上がる。


♢♢♢


 色気よりも食い気!


 これが、カリン・リーズのモットーだ。


 別に冗談でも何でもなく本当のこと。


 あの幼少期の辛かった過去が、きっと現在のわたしを形成していると思う。


 色気で空腹は満たされないって感じで。


 わたしは自分で言うのも変かもしれないが、かなりモテる。


 いや、超モテる。


 白銀の美しく長い髪、そして透き通るような白い肌。


 豊満な胸とプリプリしたお尻に引き締まった腰回りの妖艶な肢体。


 スッと鼻筋が通った形の良い鼻、ツヤのあるプルッとした唇。


 潤んだアーモンド型の瞳は魅惑の翡翠色。


 まさに、この世のものとは思えない美しさ。


 これがカリン・リーズに声をかけてくる男達の口説き文句の数々。


 色気に興味がないわたしは、男からの誘いをすべて断る。


 これから先の人生、男はもちろん色気などにうつつを抜かすことはないだろうなと本気で思っていた。


 そんなわたしが、ある人を想って自慰をしている。


 自分でも信じられない。


 それはもう理屈云々(うんぬん)ではなく女の本能だ。


 今日は、新しいわたしを発見した日になる。


 …………。

 

 あんな接吻をする予定はなかった。


 けれど、ごくごく自然に今日のお礼と言ってレインの頬に接吻した。


 そのあと身体が燃え上がるように熱くなり、顔は真っ赤に火照ほてる。


 わたしは恥ずかしさのあまり、急いでその場から走り去った。


 自分の部屋に戻っても、考えるのは愛しの人レインのことだけ。


 今度はレインの唇に接吻したい、舌を絡めて濃厚な接吻をしたい。


 そんなことを考えていたら、わたしの大事なところが熱く疼き始める。


「嘘!? ……えっ……」


 恐る恐る指で触ってみると、声にならない声を漏らしてしまう。


「……したいよ……したい」


 ――自慰したい。


 そう思うわたしがいた。


 自慰行為の経験なんてない。


 ないけど、この指がどこをどのように触ればいいのか分かっているようで、身体のあらゆる敏感な()()()を愛撫する。


 初めての自慰なのに愛しの人との情事を想像して激しくイッてしまったわたしは、淫らな声を部屋中に響かせた。


「ハァ、ハァ、ハァ。すごい気持ち良かった」


 乱れたベッドの上で横になりながら、恍惚の余韻に浸る。


 ふと我に返り、焦燥感にさいなまれるわたし。


「カリンはお礼に接吻する女なんだと思われたかな? 軽い女だと思われたかな? 違うよ! あなただから接吻したの! 明日からどんな顔でレインと会えばいいの?」


 明日、世界の、この大陸の命運を握る大事な全体会合がある。


 会合でレインと会うんだ……どうしよう……でも、早くあなたに会いたいよ……。


「あぁ、レイン」

 

 わたしは我慢できず、蜜で濡れている花びらにゆっくり指を這わせると、再び自慰にふける。


 この日、カリン・リーズは女の悦びをひとつ知るのだった。


「レイン、大好き、レイン」


♢♢♢


 偶然なのか、それとも必然なのか。


 私には分からない。


 でも、見たのだ。


 見てしまったのだ。


 レインと聖女が大聖堂の中庭に立っていた。


 お揃いの白いローブを身に纏い、ペアルックのような装いの二人。


 それだけでも腹立たしいのに、あろうことかカリンがレインの頬にキスをしたのだ。


 顔を真っ赤に染め上げた聖女は、その場から急いで走り去っていく。

 

 ……は?


 いったい何を見たのだろう。


 頭の理解が追いつかない。


 お昼時。


 大勢の人で賑わう食堂の窓から信じられない光景を目にする。


 その瞬間、全身の血の気が引いていく。


 体がブルブル震え出し、強烈な悪寒が走る。


 う、嘘……キスした?


 聖女がレインの頬にキスしたの?


 あははは。


 ……ふざけないで……ふざけないでよ。


 ふざけんな! カリン・リーズ!


 レインは何も悪くない。


 だって、不意にキスをされてしまった被害者だから。


 そう。


 すべての元凶はバカ女だ。


 絶対に許さない。


 ――殺してやる。


 ドス黒い殺意が芽生える。


 午後も教会騎士団の研修があるため、喧騒の食堂を静かに後にした。


「研修か。もうどうでもいいや」


 今、私の頭の中で考えることはたった一つ。


 それ以外は考えたくない。


 研修室に向かう足取りが踊っているようだ。


 しょうがないよね。


 なぜなら、とても楽しいからだ。


 考えるだけでワクワクが止まらない。


「ふふふ。どうやってバカ女を殺そうかな♪」


 この日、私は聖女を亡き者にすると決めた。



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