第15話 二つ名
文字数:2152字
――っ! 敵が来る!
上空に2、そして地上に2。
サムライスキルが示した反応だ。
聖女スキルも同じ反応のはず。
カリンは何かを分析しているのか、独り言をブツブツ言っている。
だが、最良の分析結果を得たらしく丘を離れて森に行くと俺に告げてきた。
俺は戦闘経験、その類の経験が一切ない。
カリンが戦略戦術を考えた上で、決めたことなら従うだけだ。
俺達は森に向かって走り出す。
「これが身体強化〈疾走〉なんだな」
特に違和感なく使えていると思う。
基本スキルの身体強化は、スキル所持者ならば誰でも使えるみたいだ。
「……あの森か」
カリンが目指す森が前方に見えてきた。
先程までいた丘から森まで、かなりの距離があると思うけど、時間的にあっという間の感じがする。
当たり前と言えば当たり前か。
俺達は、まさに風を切るが如く走っているのだから。
それにしても……。
「敵を殺すまで諦めるつもりはないようだな」
俺とカリンを狙う魔物達は追跡をやめない。
カリンはどんな作戦を考えているのだろう?
森の中に入るのは、上空にいる魔物の目から逃れるためだよな?
機を伺い上空の魔物に反撃する……かな?
その時、地上の魔物はどうするんだ?
カリンなら上空と地上の魔物を同時攻撃して駆逐することができるのか?
……カリンに申し訳ないよな。
これじゃあ、おんぶに抱っこだよ。
それでも、俺だって何かできるはずだ。
できることをやるんだ!
自分に気合いを入れ、カリンに追随して走っているといよいよ反撃を開始するのか、白銀の聖杖をその手に顕現させた聖女が森の中に飛び込んでいこうとした時だ。
「ま、魔物!?」
俺には見えた。
だけど、カリンは魔物が見えてない?
何の躊躇もなく森の中に飛び込んでいく。
「ダメだ、カリン! 森に入るな!」
まるで俺の言葉を嘲笑うかのように、魔物はカリンを殺すため、鋭い爪を振り下ろした。
「殺らせない! 俺がカリンを守るんだ!」
[ドクンッ!]
サムライスキルの固有スキルが、新たに覚醒する。
――疾風迅雷。
すばやく、はげしく、敵を討つ。
カリンの背丈の倍はあるであろう熊の魔物を駆逐すべく、抜刀三連斬撃を繰り出した。
一の太刀でカリンを襲う魔物の右腕、返す刀の二の太刀で左腕、最後はとどめの三の太刀で首を瞬時に斬り落とす。
〘ズバッ! ズバッ! ズバッ!〙
刀によって斬り裂かれ、絶命した熊の魔物の体から大量の血しぶきが上がる。
〘ブシュー!〙
俺は魔物の返り血を浴びたので、白いローブが赤く染ってしまった。
しばらくしてからだと思う。
この俺に二つ名が付いた。
魔王軍との戦闘の度に魔物の返り血を浴び、白いローブを赤く染めている男。
――血染めのレインと。
♢♢♢
「えっ?」
熊の魔物だ。
どうして聖女スキルが反応しなかったのか、それは分からない。
わたしは魔物の鋭い爪が目前まで迫り、もうどうにもならない状況だと悟る。
死を覚悟して目を閉じた時、サッと一陣の風が吹いたような錯覚に陥る。
しかし、それはわたしの錯覚ではなく実際に起こったことだとすぐに理解する。
わたしは魔物に殺されず、生きていた。
ゆっくり目を開けると、白いローブを返り血で赤く染めたレインが、地面に横たわる魔物のそばに立っていたのだ。
「カリン、大丈夫か? ケガしてないよな?」
(してるわけないよ。あなたがわたしを助けてくれたから……)
わたしの両肩をグッと掴み、激しく揺さぶるもんだから、脳震盪を起こしそうだよ。
「ありがとう、レイン。本当に助かった」
少し無愛想な感じでお礼を言ったわたし。
今はこれが精一杯。
タガを外した瞬間、レインに抱きつき泣いてしまうと分かっているから。
だから、今はこれが精一杯なの。
「そうか、良かったよ」
そんな笑顔でわたしを見つめないでほしい。
今の状況なんてどうでもよくなってくる。
(カリン・リーズ、しっかりしろ!)
わたしは自分にムチを入れた。
「レイン、気を引き締めて! まだ安心できる状況じゃないからね!」
「あっ、そうだな。分かってるよ」
けれど、わたしの言葉は空振りで終わることになる。
聖女スキルもサムライスキルも追手の魔物達の反応を示さなくなったからだ。
こうして、レインとのお出かけは何とか無事に終わり、わたしは大聖堂に向けて〈転移魔法〉を発動させたのだった。
♢♢♢
大聖堂に着き、安堵するわたし達。
時間はまだ昼過ぎくらいだと思うけれども、かなり濃密な時間を過ごした感じだった。
今日とは別の意味で、明日も大変な日になるはずだ。
明日は全体会合がある。
教皇様、枢機卿、教会騎士団団長、各隊隊長及び副隊長、わたし。
今回から参加することになるレイン、それとあの女、聖騎士エミリー・ファインズが一堂に会する。
「明日、会合があるからね。忘れないでよ」
「分かった。じゃ、今日はお疲れ様」
「待って、レイン。そんな血が染みたままじゃ、ダメだよ」
帰ろうとするレインを引き止めたわたしは、ある魔法を施す。
〘フワァ〙
「はい、終了」
「えっ、何これ? 真っ白に戻ったぞ」
「洗浄魔法だよ。魔物の血が染みたままのローブなんていやでしょ。それとこれは今日のお礼」
〘チュ〙
わたしはレインの肩に手をかけ、つま先立ちをすると愛しの人の頬に接吻する。
そして、その場から逃げるように走り去るのだった。
♢♢♢
この日の夜。
わたしは、部屋中に嬌声を響かせる。
初めての自慰行為によって。




