幕間 導く者
文字数:1667字
『聖女よ、お前に託宣を任せたい』
「わたし? いやだ」
『聖女カリン・リーズよ、もう一度言う。お前に託宣を任せたい』
「しつこいな! いや!」
♢♢♢
わたしの名前は、カリン・リーズ。
巷では聖女カリンと呼ばれている。
今は教会総本山でそれなりの生活を送っているけど、幼少期は貧民街で過ごし……あの時のことは本当に思い出したくない。
でも、生き抜いていくための処世術の能力を身につけられたのは良かった。
そんな話より最近ウザい夢ばかり見せられて迷惑千万この上ない。
――託宣。
神が人に乗り移って、または夢に現れて意思を告げるのだ。
わたしの場合は〈夢に現れる〉だな。
教皇様は〈神の信託〉で、スキル所持者を世に導いている。
実は、わたしも教皇様に導かれた一人。
口では簡単に言えるけれど、それはとても責任が伴うことだ。
もし導かれた者が人の道を外したならば、その反動は必ず導く者に来る。
間違いなく導く者に死が訪れるだろう。
己の死を覚悟して、人を世に導く。
教皇様という人物だからこそ、できるのだ。
わたしには、絶対に無理だと思う。
……死ぬ覚悟がないのだから。
だけど、どうして神は教皇様に信託じゃなくて聖女に託宣?
まったくもって意味不明だよ。
……さて、そろそろ寝ようかな。
寝坊すると、枢機卿がうるさいからね。
あーあ。
てか、またウザい夢を見るんだろうな。
だいたいさ〜。
まったく姿も見せず声だけなんてありえなくない?
どんだけ~って感じ。
では、おやすみなさい。
♢♢♢
『聖女よ、お前に託宣を任せたい』
「あーもー、分かった、分かったよ。話だけは聞くよ。話だけはね」
♢♢♢
「う、うそだよね? そんなバカな話ってある? 無理だよ、無理。最悪な結末を迎える人に託宣しろって言うの? 絶対いや! わたしは、その男の人を死なせたくない!」
『男が望んだことなのだ』
「それでも、いやなものはいやなの!」
『お前だけ、お前だけが顕現できるのだ。男が念願を成就するため、そして地獄のような世界を救うため、聖女の力が必要なのだ』
「…………」
『聖女の務めを果たせ。お前だけが男を助けられるのだ。今の世でお前だけがな』
「…………」
『聖女カリン・リーズよ、その男と共に地獄のような世界を救うのだ』
「一つ条件があるの。スキルを覚醒させたら、彼の話の記憶を消して。とてもじゃないけど、記憶を持ったままなんて無理だよ。そうでなければ、わたしは一緒にいられない」
『約束しよう』
「ありがとう」
♢♢♢
「君がレイン・アッシュ?」
「ええ、そうです」
村の教会で初めて彼を見た。
わたしより一つ下の17才とは思えないほど大人びていて、すべてに達観してるような人。
別の言い方をするのであれば、影がある人だ。
今、彼は前世の記憶がない。
神と交わした〈聖約〉さえも記憶がない。
まったく記憶がないはずなのに、まるで自分の未来の行く末を知っているかのようだった。
わたしは彼の最悪な結末を知る者として、胸が張り裂けそうな思いに駆られてしまう。
けれど、私情を捨てて話を続ける。
それが彼のため、ひいては世界のためになるからだ。
「わたしはカリン・リーズ。結論から言うね。レイン・アッシュ、君はサムライスキル所持者だよ。詳しい説明は必ず後でする。お願い、聖女のわたしを信じてこれに触ってくれるかな?」
わたしだけだ。
そう、今の世でわたしだけがレイン・アッシュのために顕現できるもの。
――刀。
あなたが刀に触れた時、スキルが覚醒する。
そして、わたしは森沢亮次を記憶から消す。
前世のあなたを記憶から消すことによって、これから一緒にいられる。
あなたには悲しい未来しか訪れない。
カリン・リーズは、神に誓うよ。
あなたのそばから離れない。
その悲しき未来があなたに訪れる瞬間まで、わたしが幸せにしたいと思う。
レイン・アッシュ、あなたを。
「これに触れればいいんですね」
「うん。この刀はあなたを助けてくれるよ」
♢♢♢
今この時、一人の男がサムライスキルを覚醒する。
導く者、聖女カリン・リーズが顕現した刀によって。
――カリン・リーズは聖女にして導く者なり――
わたしはあなたのためなら死ねる。
読者様へ
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
次のエピソードから本作の主人公レイン・アッシュ視点がメインとなり、物語は進んでいきます。
拙い文章ですが、これからも引き続きお読みいただけると幸いです。




