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Over And Over 〜或る男の悲しくも儚い異世界復讐譚〜  作者: 前田ヒロフミ


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第9話 最優先

文字数:2383字

「わたしの約束が最優先だよ」 


 私達の背後に立つ、一人の女がそう言った。


(この女が、聖女……)


 レインはもちろんだけど、教会騎士団のゲイルさんとガスさんも「あの方」と敬称するのだから、当然面識がある。


 けれど、私は初めて目にする聖女の女。


(……綺麗な女性だな)


 それが聖女カリン・リーズの第一印象。


 さらにもっと言うなら、白銀の長く美しい髪のクールビューティと評するのが適当だろう。


 私が何より驚いたのはカリンの出で立ち。


 聖職者らしからぬ白で統一されている。


 祭服やスカート、ブーツからローブまで全部真っ白。


 そんな聖女カリンが〈聖女の託宣〉でレインにスキルを覚醒させたのだ。


(ムカつく女だな)


 今日、初めて相対して確信する。


 やはり、聖女カリン・リーズは敵だ。


♢♢♢


 聖女のいきなりの登場に慌てふためく二人の騎士。


 おどおどするゲイルさんとガスさんをよそに言葉を続けるカリン。


「レイン、一年ぶりだね! じゃ、こっか」


「カ、カリン様……あ、あの……あのですね、エミリー様とレイン殿は……これから教皇様とお会いすることに……な、なっております……お約束は……また別の機会で……えーっと……お、お、お、お願いできますでしょうか?」


「そ、そ、そ、そ、そ、そうっす!」


 ゲイルさんとガスさんの言葉を聞いた聖女は眉をひそめ、首をかしげて不機嫌な顔になる。


(あっ、バカ女がキレた)


 私がそう思った矢先だった。


「ガス、うっさい黙れ! エセ二枚目野郎!」


「はいっす!」


 ガスさんを一喝したバカ女は、いつの間にか武器を手にしていた。


 ――白銀の聖杖。


 私の聖剣と神剣と同じく、カリンが手にする白銀の聖杖は聖女の証しだ。


「あのさ~、ゲイル。わたしの伝言を一字一句間違いないでレインに言ってくれた?」


「もちろんであります!」


「……ふ~ん。今、言ってみてくれるかな?」


「すぐ大湖に行くからね♪」


(ゲイルさん……火に油を注いでどうするの)


 今の状況で、どうして声色をまねするかなと呆れてしまった私は、開いた口が塞がらない。


「わたしに全然似てないけど、間違って伝えてないね。いい? よく聞いてよ? すぐ大湖に行く約束は何を差し置いても最優先なんだよ。分かるかな? 分からないなら、ゲイルとガスに教えてあげる」


〘キラッ!〙


 身の毛もよだつような声で聖女がそう言った瞬間、白銀の聖杖の先端にある魔法石が美しく光り輝き、カリンの体にゆらゆらと白い冷気が纏い始める。


(ちょっと、待って。これダメだよ、洒落にならない)


 聖騎士スキルが危険を察知し、私の頭の中に警告音を鳴り響かせる。


(う、うそでしょ? バカ女はゲイルさんとガスさんを殺すつもりなの? そんなことさせない。二人を助けるんだ)


 私が聖剣と神剣を取り出すため、足元にある木箱に手を触れた時、その声は聞こえた。


 ここにいるはずのない教皇様が、上品な声で聖女の暴走を止めるべく諭したのだった。


「おやめなさい、カリン。いくら何でも冗談が過ぎますよ。ゲイルとガスの二人は教皇である私の言いつけに従っただけですからね」


 この場にいた全員が周囲に視線を巡らすと、微笑む教皇様と顔を真っ赤にしている聖職者が大聖堂の重厚な扉口の前に立っていた。


 いかつい顔をした聖職者は、怒り心頭なのか怒号を浴びせる。


「カリン! 神聖なる大聖堂の前で何をしてるのですか! すぐにやめなさい!」


「フン」


 カリンは鼻を鳴らし、氷魔法の発動を止めたため、体に纏っていた白い冷気が〘フワッ〙と消え去っていく。


 教皇様にその身を向け直した聖女は、今にも噛みつきそうな勢いで食ってかかる。


「教皇様なら分かるでしょ? わたしの約束が最優先だってこと」 


「ええ、カリンの約束が最優先で構いません」


 教皇様は少し困り顔をしながら、気色ばんでいる聖女に優しく言ったのだった。


「だよね! さっすが教皇様わかってるぅ♪」


 満面の笑みを浮かべて喜ぶ聖女は、すぐさまレインに駆け寄ると、二人は跡形もなく消えてしまった。


「……えっ? レイン?」


 私は、目の前で起こったことが信じられず、ただ呆然と立ち尽くしていただけ。


「本当にしょうがない人ですね、カリンは」


 教皇様は何事もなかったかのように落ち着き払っていて、どういう状況にあるのか理解しているみたいだ。


 それは、ゲイルさんやガスさん、後に枢機卿と知る人にも見受けられる。


「教皇様、レインはどこに消えてしまったのでしょうか? 教えてください!」


 藁にも縋る思いだった。


 バカ女がどこに消えようが、どうでもいい。


 だけど、愛しき人は違う。


 私の運命の人であり光なのだ。


 レインがいない世界なんて耐えられない。


「落ち着くのです、聖騎士エミリー。二人とも大丈夫ですよ。カリンが固有スキル〈転移魔法〉を発動させただけです」


「て、転移魔法? それはいったいどんな魔法なのですか?」


「簡単に言えば、ある地点からある地点に移動できる魔法で聖女の固有スキルの一つです。どこに移動したのか、そこまで分かりませんが無事なのは確かです」


 教皇様の説明を聞いて、とりあえずひと安心だけど、別件で心配になる。


(大湖に飛んだんだ、あの二人……バカ女め、血祭りに上げてやりたい気分だよ)


 私がブツブツ独り言を言っていたところ、教皇様より部屋を用意してありますから、ゆっくり休んでくださいと仰って頂いたので、お言葉に甘えることにした。


 案内された部屋に入った私は、ベッドの上に大の字になる。


 二日間の過酷な強行軍で心身共に疲れ果てていた。


 でも、ゆっくり休める自信がない。


 レインと聖女が、二人っきりで大湖にいる。


 気にならないわけがない。


「……レインのバカ! 帰ってきたらカリンと何をしていたのか根掘り葉掘り聞いてやる!」


 私は、一人淋しく枕を抱えて横になった。


 これは、あることをする前のルーティン。


「…………」


 そして、熱く疼き出したアソコを鎮めるためオナニーをする。


 ()とセックスしている私を想像しながら。



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