路肩の花の生き方
どうして花屋の花は家に持ち帰ると枯れるのか知ってますか?
私と姉は台湾旅行ツアーに参加していた。初めての海外旅行だったのでツアーにしようと姉と決めていた。
私は大学1年で姉は大学3年である。
その台湾旅行の帰りの飛行機
話し声によって私は起こされた。どうやら機内食を食べたあと私は疲れて寝てしまっていたようだ。横を見ると私と姉と一緒のツアーだった老人が話をしていた。私はぼーっと窓を見ていた。空はオレンジ色でだんだん藍色が混じっていた。あくびをすると遠かった耳が戻ってきて老人の声がよく聞こえるようになった。老人が話し始めた。
私の家は九州にあるんですよ。九州の北九州駅の近く、そこのねぇマンションに住んでいるんですよ。それをね、来月に売ることにしてるんです。鉄鋼がだんだん細くなって来たときに買ったので結構安かったんですよ。それが情報社会になって、北九州市には半導体を作る会社ができたでしょ。だからそこの不動産の値段が高騰してるんですよ。私の仕事は九州をぐるぐる出張することの多いサラリーマンでね、自分で言うのもなんですけど割と優良企業に努めていたと思いますよ。でも年も取ったし、マンションがいい値段になったしで、退職してね、まぁ、そういうわけですよ。
とシワだらけで全く変わらない顔に少し笑みが見えたように感じた。
姉は気を使った話し方で、そうしたら今後はどちらかへ?と返した。
ん、ん、たんが絡んだような、ガラガラ声で反応し老人は話した。
私の母親がいた家に住むんです。私が若い頃過ごしていた家なんですけどね。ものすごい山奥にあるんです。
といったあと老人は口を閉じた。
はあそうなんですかー。姉はなんとなく返事をし、しばらく微妙な気まずい空気が流れた。
老人はガラガラ声で話し始めた。
その山奥の家にはたくさんの植木鉢があるんです。
ガーデニング好きなんですか?と姉が問うと、待ってましたと言うような表情で、いやそれが違うんですよ。実は50年前に仕事で貯めたお金で植木の苗を大量に買いましてね、大きくなるまで育てて売ろうとしてたんですよ。なにせ一株2000円が20年育てると100万円になって売れるんですから。だから私は思い切って100株ほど買ったんですね。
すごいじゃないですか、と姉は乗り気で相槌をうった。しかし老人はガガッと低く笑って、いやっ、そこから落ちがあるんですよ。と言って話を続けた。私が植木を買って10年したら日本が不景気になってね、それと同時に植物のブームが過ぎたんですよ。それで今ではほぼ0円。それでも10年かわいがってきた植木をそれで見捨てるのは違うでしょ?
だから今も実家にたくさん植木鉢があるんですよ。
と老人は情けなさそうに笑顔をしていた。
姉は、植物を育てるのは結構好きなんですけどすぐ枯らしちゃうんですよ。と少し話を変えた。
老人は微笑み、「そりゃそうですよ。」といい、私達植木を売る側はベテランの上に温室で毎日毎日丁寧に様子を見ながら大事に売れる頃合いまで育てるんです。仕事ですしね。それを普通の人が腰掛け半分で育てるんですからそれは枯れますよ。と調子良く話した。
まぁ話を戻すのですが、どんな人でも先を見通すことは無理だということですよ。10年、20年なら尚更ね、だから私の人生の教訓は長いものに巻かれろ、ではないですけど普通に就職したほうがいいってことですよ。できれば優良企業にね。
そうですね、と姉は返したあと、でも情けなさそうに、私、もし優良企業に入れたとしてもそこでちゃんとやって行ける自信ないです。といった。
老人は、うんとしばらく考えたあと口を開けた。上司が10やれと言ったら5までを誰もが信用できるレベルでやりなさい、ほとんどの人は10までやろうとして、雑になって結局は3とか2とかにしかならないんだ。
と力強く言った。私はそれを聞きながら飛行機の窓を見つめていた。飛行機はそろそろ福岡の上空を飛ぼうとしていた。街の光がキラキラと私達を迎えてくれていた。