■ゲームワールドでわちゃわちゃと♪
マカロンさんがみんなを案内したのは、大人数で同時に遊べるゲームワールドだ。
日本で言う氷鬼をモチーフにしたもので、鬼がタッチすると動けなくなって、全員凍らせれば鬼チームの勝ち、時間内に逃げきれば、それ以外の勝ちとなる。
(……これなら、身体が触れれば、それが接触判定になるから……手の使えないデスクトップでも充分に遊べるね……)
ゲームが始まると、ボクは逃げる側、マカロンさんは鬼側になる。そうして、廃墟の城塞らしき広いフィールドに飛ばされた。
そうして、出会い頭にマカロンさんと遭遇する。
「あ、カヌレくん。み~つけた♪ ばびゅ~~~~んッ!!!」
笑顔で全力ダッシュして、迫ってくる彼女。ボクは、慌てて後ずさろうとする。
「……わ……わわわっ……!!!」
が、一瞬でも、マカロンさんになら捕まってもいいな、なんて思ったのが運のツキだ。すぐに距離を詰められて、凍らされてしまうのだった。
しかもマカロンさんは捕まえたボクと余裕の笑顔でツーショットまで撮る。
(……くっ……うれしいけど、悔しい……複雑な気分だよ……)
やがてマカロンさんは可憐な笑顔で手を振ると、次の獲物を狩りにいった。最終的にその回は、鬼側の勝利で幕を閉じた。
マカロンさんはゲームも上手らしく、他にも待ち伏せされて凍らされた人や、味方を助けに行って凍らされた人まで、彼女の餌食になった人は多かったみたいだ。
で、次の回が始まると、ボクは鬼の側。マカロンさんは逃げる側になった。
「あ……カヌレくん……こんどは鬼なんだ? けど、簡単には捕まらないよ……!」
ボクが必死にマカロンさんの背中を追いかけるが、あと少しで逃げられてしまう。
(……ううん、素早い……!)
そして油断しているとボクが捕まえた他のヒトが、ワープゾーンから突然、現れたマカロンさんにすべて解放されるのだった。
(……手慣れてる。ベテランだから? いや、そもそもゲームがうまいのかも……)
結局、鬼側が逃げる側を捕まえきれないまま、負けてしまうのだった。
そんなこんなで、鬼と逃げる側を入れ替えながら、わちゃわちゃとゲームしつづける。その間にも人が出たり、入ったりして、まるで小学生の頃に戻ったような気分で楽しく遊んだ。
みんな、ぐったりして遊び疲れたところで、ずらりと全員で並んで記念撮影する。時間は夜十二時半を過ぎていて、そのまま解散の流れになった。
「ね、カヌレくん、どうだった? 楽しかった?」
「あ、うん……楽しかった……マカロンさんにはしてやられてばっかりだったけど……」
優しく言葉をかけられたことに甘えて、ボクはちょっと拗ねて見せる。
「ご、ごめんね……でも、ゲームは本気になっちゃうタチだから……」
マカロンさんは、あはは、と恥ずかしそうに笑う。社会人だし、僕より4~5才年上だと考えると、さすがに大人気ないと思ったのだろうか。
「でもさ、こんなにわちゃわちゃ遊べるなんて、想像もしてなかった。SNSで流れてくるスクショだけだと、可愛いとか、えっちぃとか、そんなイメージが先行してたし……」
「あ……それは、よく言われるけど……二次元風の可愛いアバターが日本界隈の主流だから、かな……ううん……」
マカロンさんは、ひと呼吸置いてから、ボクをじっと見た。
「――けど、まったりも、ドキドキも、わちゃわちゃも、ぜ~んぶ、ぶいちゃだよ」
その口調は、マカロンさんが自分自身に言い聞かせるような感じだ。
「決まりきった形や正しさなんてない、住んでるヒトや、コミュニティの数だけ、世界が変わっていく。もうひとつのリアルだもの」
そうして照れくさそうに、
「だからこそ、他のヒトが嫌がることはしないようにしないと、ね」
と付け加えるのだった。