■マカロンさんと、いきなり温泉回!!!? ②
(……あ……マカロンさん……こんなに近くまで……)
間近に迫ったマカロンさんはやや熱っぽさをこめて、ボクをじっと見つめてきた。
「ほら、隣りまで来ちゃった。裸のおつきあいだね♥」
「あうう……そ、そうだけど……」
彼女の身体が揺れるたびに、湯面がかすかに波打って、その波紋のひとつひとつがボクに当たる。そのひとつひとつにマカロンさんを感じてしまって、どぎまぎしてしまう。
(……ふたりきりで、一緒にお風呂に入ってるんだ……)
脇に艶めかしく座ったマカロンさん。そのふにふにした柔らかそうな肌や、麗しい身体のラインにドキドキしながらも、同時に肉食獣めいた彼女の視線にさらされる。
(……これが、肉食系女子ってヤツなのかな、ううっ……)
彼女の舐めるような視線に、ボク自身が据え膳状態になっていて、ひどく複雑な気分だ。襲われたら、そのまま食べられてしまうのは間違いない。
(……狙ってるの、狙われてるの……どっちなんだろ……う~ん……)
ただ、マカロンさんは淑女らしく、隣でも色っぽく微笑むだけで、それ以上、なにもしてくることはない。
そうして彼女は隣で大きく伸びをすると、再びこちらを向く。
「……じつは……今日、いつも遊んでるフレンドが全然いなくって、どうしようかな、って思ってたの……そんなときに、カヌレくんがチュートリアルワールドにいたんだ……」
間近で響く声は魅力的で、ずっと聞いていたくなる。
「……その……勇気を持って、話しかけて……よかった……」
手慣れた初心者案内のヒトかと思ったけど、そうでもないらしい。彼女なりに思い切って行動してくれた結果、今の縁があるのだと、改めてわかった。
「……え……でも、マカロンさん、魅力的だし……友達、いっぱいいそうだから……」
「……だったら、いいんだけど。いつも遊んでくれるフレンドって、案外少ないもんなのよ。だから、ジョインは大歓迎よ……」
ジョインという聞きなれない言葉に、ボクは戸惑ってしまう。
「え、それって――」
「あ……ごめん。ジョインって言うのは、フレンドのところへ遊びにいくことを言うの。行くのはジョインする、来てくれるのはジョインされる、って」
一拍置いて、マカロンさんは続ける。
「実はUIが英語のころは、『JOIN』ってボタンがあったの。今は日本語UIからは消えちゃったけど。だから、日本界隈では、少しずつ使わなくなってくる言葉なのかも……」
「でも、みんな、まだ使ってるんだったら、知ってて損はないし。もっと教えてよ」
「あ、いいの? それじゃ、せっかくだし。ジョインのことを、もうちょっと。ジョインは大事よ。VRChatで遊ぶときの基本ね。同時にすっごく大変なことでもあるけど……」
マカロンさんは少し神妙な顔をしてみせる。
「VRChatでは、相手のステータス状態によるけど、いつでもフレンドのところへ遊びにいけるの。けど、そこに他の人が沢山いたら、どうする? リアルで言うと友達のいる隣のクラスに突れるか、ってこと」
「う~ん、ちょっと遊びに行きにくいかもね」
ボクは素直な気持ちを吐露した。
「でも、そこを乗り越えて、遊びにいくと、案外、歓迎してくれるものよ。わたし自身、ジョインされるとは、とってもうれしいもの」
「もし、歓迎してくれなかったら?」
マカロンさんは少し苦笑してみせる。歓迎されなかった経験もあるのだろう。
「う~ん。そこの場所の空気にあわないときもあるかもね。そんなときは、寝る前の挨拶に来ました、とか言って、一撃離脱よね。ぶいちゃも人間社会だし、いろいろなことがあるもの」
確かに、と思う。ややあって、マカロンさんはじっとボクの目を見つめる。そうして噛み含めるように言葉を継いだ。
「ともあれ、会う回数と過ごした時間が、人と人の絆を作るのよ。だからこそ、ジョインはぶいちゃの基本よ」
そこで神妙そうな表情を崩して、マカロンさんは柔らかく笑った。
「――それが、わたしがぶいちゃで学んだ、とっても大切なこと♪」
と同時に、画面上に見慣れない通知が現れた。
「……あ、あれ……これは……?」
「フレンド申請よ。もし、よかったら、お友達になってほしいな♪」
「も、もちろん」
ボクはマカロンさんのからのフレンド申請を許可する。憧れのおはツイの君とまさかフレンドになれるなんて思ってもいなかったから。
(……でも、女の子なのに、おはついの君、ってのも変かな……ふふっ……)
そうして湯舟にしばらく浸かってリラックスしながら、マカロンさんといろんなお話をした。彼女は社会人で忙しい仕事の合間を縫って、毎日のようにぶいちゃにログインしているらしい。
楽しそうにぶいちゃの話しをするマカロンさんを見ているだけで、この世界に来てよかった、とボクは素直に思うのだった。