■マカロンさんと、いきなり温泉回!!!? ①
座って、腰まで湯舟に浸かると、少し視界が下がって、湯面が近くに迫る。
(……これは……すごい……湯気も近くに見えて……実際、お風呂に入ってるみたいだ……)
温泉脇の樋からは沢山のお湯が流れ落ちて、響く音までリアルで、それらが一緒になって臨場感を盛りあげてくれる。
(……う……しかも……これ、思ったより恥ずかしいかも……)
ボクのアバターは下着で、かなり露出度が高い状態だ。その姿でマカロンさんの視線を浴びて、妙に気恥ずかしい感じがした。
胸の谷間から腰の括れ、お尻の丸みまで、ねっとりと舐めるように見られてしまって、身体の内から溢れる羞恥に耐えきれず、そのまま黙りこんでしまう。
(……裸でいると、なんだか頼りなくって……このアバターの娘がボク自身だって思うほど、いてもたってもいられない気分になるよ。素肌を見られた女子って、こんな気分なのかな……)
ボクは恥ずかしさに震えて、少し離れた場所から、ちらりとマカロンさんのほうを見る。
「ね、カヌレくん……こっち来てよ……」
そんなボクに近くへ来るようにマカロンさんは手招きする。
「え……でも、お互い……裸みたいなもんだし……」
「そんなの普通じゃない。お風呂に入ってるんだし、それに女の子同士だから、遠慮しないで」
「え、ええ……女の子って……そんなこと言われても……」
「ほら、キミだって、おっぱいついてるんだよ……ミラー出してみたらわかるよ……」
言われて手元のメニューからミラーを出す。確かに絵面的にはマカロンさんとボク。いわゆる『桔梗ちゃん』アバターの女子ふたりの入浴姿にしか見えない。
この状態で「女子ふたり、まったり温泉で~す♥」なんてキャプションをつけて、SNS投稿すれば、そう受け取られるのが普通だと思う。
「あ、ミラー見てる? ね、わたしの言うこと変じゃないよね。キミも立派な女子なんだよ」
「で、でも……ボクは……声とか普通だし……中のヒトは、もうすぐ成人の男性で……ううっ……」
そう言われて、ボクの脳はバグりそうになってしまう。たしかにマカロンさんは女子かもしれないけど、ボクは二十歳前の若い男だ。
声も高めのショタボイスだけど、やっぱり男のそれだし、仕草だってデスクトップで、動きに色っぽさや柔らかさはない。
(……ぶいちゃ入ってると、女の子の気分がちょっとはわかる気はするけど……でも、根本的に、違うし……ううっ……)
「あ……もしかして、きんちょ~してる……? ふふっ、かわいい……大丈夫、なんにもしないから……」
「え……そんな……マカロンさん……イケメンみたいな発言……ダメだって……」
「でも、近いとお話が聞こえづらいし……もっと、キミと仲良くなりたいもん……」
「あうう……こ、困っちゃうよ……」
「大丈夫、困ることなんてないよ」
マカロンさんは困ったように小首をかしげる。そうして軽く距離を詰めてきた。彼女の息遣いを近くに感じて、心拍数がさらに跳ねあがる。
「ね……もしかして、わたしのこと、キライになっちゃった?」
その質問はズルいと思った。マカロンさんみたいな可愛くて、愛想のいい子を嫌うヒトなんてめったにいないだろう。そうして本人を前にキライなんて、ボクの性格で言えないだろうこともわかっているのだろう。
「そんなこと、ないけど……」
ボクはそう返すしかない。
(……男を手玉に取る、小悪魔さんだよね、マカロンさんって……)
好きすぎて、近くに寄ってこられると、戸惑ってしまう。うれしいけど、困る、みたいな複雑な心境にボクは囚われていた。
(……マカロンさん、可愛くて……あざとくって、ずるいよ……まるで、ラブコメヒロインみたいな子で……リアルでこんな女子、絶対いないって……)
「……ふふっ、困惑させちゃって、ごめんなさい……」
愛らしい視線でボクを射貫いたまま、マカロンさんは柔らかく微笑む。
(……仕草も可愛い……ごくっ……こ、これがVRChat……!)
「絶対。違う」と内心、自分にツッコミを入れつつも、否定できない自分がいた。目の前で繰り広げられているやりとりも、VRChat世界での出来事だ。それは間違いない。
戸惑うボクを見て、彼女が顔を前へ乗りだしてくる。
「じゃあ、カヌレくんが来てくれないなら、わたしのほうから――」
そうして固まって動くことのできないボクの間近に、マカロンさんがす~っと、寄ってきたのだった。