■ナチュラルにバ美肉!?
「それじゃ、せっかくだし、アバターを可愛いのにしよっか♪」
そう言ってマカロンさんは、さっとサンプルアバターに変わると、クローンコピーするように勧めてきた。
ボクは言われるままにデフォルトの海外風アバターから、マカロンさんの推薦してくれたアバターになんとなく変わると、そのまま近くにあったミラーへ向かう。
そうしてミラーの前に立つと、映ったアバターの姿をまじまじと見る。
「……こ、これが……ボク……すごい……可愛い……」
鏡にどアップで映った顔のあまりのキュートさに、思わずボクはそう呟いてしまう。
そこにはラベンターカラーの髪の愛らしい女子がいて、透明感のある明るく優しげな瞳で、ミラーの向こうから、自分のほうをじっと見つめてきていた。
(……しかも、胸、でっか……ごくっ……)
高く張ったおっぱいが間近に迫りだしてきて、その大きさに目を奪われる。
(……この爆乳、自分のアバターのヤツなんだよね……ううん……)
自分で自分に興奮してテンションが上がってしまうという複雑な経験に、ボクはただ戸惑ってしまう。
(……けど、やっぱり可愛いな……うん……)
そうして気持ちが落ち着くと、目の前の可憐な女子の、美しく愛らしい姿にじっと見入ってしまうのだった。
鏡に夢中になるボクの様子を脇のマカロンさんは、黙って見守ってくれていたみたいだ。ボクが気づいて、そちらをを向くと、彼女はとてもうれしそうに話しはじめた。
「あ、気に入った? その子のは『桔梗』ちゃん、って名前のアバター。お顔の表情も操作で変えられるよ~」
ボクはマカロンさんに教えられるままに、鏡に映った桔梗ちゃんの表情を変えていく。素敵な笑顔、頬をかすかに赤らめた顔、ちょっと拗ねたような感じと、ボクの操作ひとつで、鏡の女の子の表情がくるくると愛らしく変化した。
(……自在に表情が変わって……まるで自分の身体みたいだ……けど、これって、いわゆるバ美肉ってヤツだよね……)
配信でバ美肉Vの存在はよく知っていたし、時々見たりすることもあった。けれど、自分が何の覚悟も、思い切りもなく、流れでそうなってしまうことの衝撃を、ボクは言葉に出来ないでいた。
(……大学生で、もうすぐ二十歳のボクが……こんなことして、いいのかな……でも、これ……いい、いいよ……控えめに言って、最高すぎだよ…っ……!!!)
モニターの向こうにいる、もう一人の美少女のボク。自在に操ることのできるその姿に、言い知れない感動と、興奮を覚えてしまう。
ひどくカジュアルに、今まで生きてきた姿と違う自分になれる。そんなヴァーチャルの可能性の一端が垣間見えて、背すじにゾクゾクとしたものが走った。
身体の内側で拡がる、抑えようにない爆発的な何かに、ボクはしばらく翻弄されたまま、打ち震えていた。
「……ふふっ……思ったより、気に入ってくれたみたいで、よかった……その『桔梗』ちゃんはサンプルで、その状態のままだけど、購入すれば、自分好みに改変して遣うこともできるわよ」
そのままマカロンさんが、鏡に映ったボクの横にスッと並んできた。そこで彼女の顔と、ボクの顔がまったく同じものだと気づいた。
「あ……そっか、同じ子なんだ……」
髪型や瞳の色、服の印象に引っ張られて、気づけていなかったが、言われてみれば同じアバターだ。
(……すごいな……マカロンさん、アバターを自分の色に染めあげてて……みんな、こうしてオリジナルな自分を表現してるんだ……)
自分もおはツイで見た可愛い存在になれるかも、そう思うと急にテンションがあがってきた。
「ま、すぐにアバターはアップできないから、VRChatの世界でたくさん遊んで、フレンドを作るのがいいかな。というわけで、さっそく遊びにいこ~♪ ゴーゴーゴーっ!!!」
マカロンさんはハイテンションの勢いのまま、すぐ近くに別のワールドへのゲートを出した。
「はい、ポータル出したよ。せっかく、ぶいちゃ始めたわけだし、いろんなワールド見てみないとね♪ ほら、こっち~!」
鮮やかな身のこなしで、ひらりとポータルに飛びこむマカロンさん。
「あ、うん……待ってよ……!」
ボクは置いていかれまいと、慌てて彼女の後を追うのだった。