■カワイイおはようツイート♪
――――これは、広いメタバースの、どこにでもよくある……
ただ、ひとりひとりにとっては、かけがえのない、たったひとつのヴァーチャルにして、リアルな物語。。。。。
◇◆◇
スマホ片手にSNSのタイムラインを見ていたボクは、一枚のツイート画像に目を奪われる。
(わぁ~っ、可愛い!!!)
『おっはマカロンっ♪ 今日も一日、ほどほどで、いこ~。マカロンメイドがご主人さまをたくさん応援しま~す。きらりんッ☆』
愛らしいピンクフリルのメイドさんが、こちらに向かって笑顔で笑いかけてきていた。そのキュートな仕草、ほんのり色っぽい雰囲気に、ボクのハートは射貫かれたのだった。
それは大学に入った最初の夏休みのことだ。
長期リゾートバイトの面接に落ちたボクは、今さら実家に帰る気力もなく、他のバイトを探す気にもならず、下宿先のアパートでだらだらと過ごしていた。
毎日のように友人たちとやっていたFPS(対人シューティングゲーム)も、勝てないランク戦に嫌気が差して、離れてしまった。
(……はぁ~っ、やることないな……せっかくの夏休みなのに……)
そうして、スマホを手にSNSをだらだらと眺めていたら流れてきたのが、Vチューバーさんらしきヒトの、おはようツイート画像だった。
(Vチューバーの、マカロンさん……でいいのかな、この子? チャンネルとか、持ってそうだけど……)
キラキラした笑顔に軽くノックアウトされたボクは、ツイートした彼女に興味を持って、そのタイムラインを深掘りする。
だが、配信チャンネルを持ってるVチューバーさんというわけではないらしい。一人で映ったエモい写真や、大勢で映ったものなど、ゲームのスクショ風の画像が連続していた。
(……いい雰囲気の3Dモデルの画像で、有名配信者かと思ったけど、違うみたい。しかも、ゲームのスクショっていうより記念写真だよね、これ……)
最初に見た、おはよう!メイドさん画像は、界隈で『おはツイ』と呼ぶらしい。試しに似た言葉で検索してみたら、愛らしいロリっ娘から、セクシーなお姉さんまで、様々な姿でスクショがアップされていた。
(……みんな、イキイキしてて、すごく楽しそう。見てて、うらやましくなっちゃうかも……)
どの画像も『VRChat』という海外のサービスで遊んで、その中で撮影したものらしい。
(……けど『VRChat』って、なんて読むんだろ……? ぶい、あーるーしー……はっと……?)
読みかたさえわからなかったけど、アップされた沢山のキラキラした画像から、楽しげな雰囲気が充分すぎるほど伝わってきた。
調べてみると『VRChat』(VRチャット)というバーチャルリアリティ(VR)空間でなされるチャットアプリの一種みたいだ。
(……VRって、数万円もするゴーグルかぶってやるヤツだよね……機器を揃える必要がありそうだし、ハードルが高そう……)
ただ、その先入観を取り払いたいのだろう。様々なVRChatユーザーたちは、VRゴーグルなしでもプレイできる、とあちこちで書いたり、発言したりしていた。
(……他のゲームと同じように、デスクトップでも出来るんだ。だったら、ちょっと触ってみたいかも……)
まだ環境や性能は限られるがスマホでも、中の世界を覗くことは出来るらしい。
ボクはさらにネットを検索して、超有名PCゲームのダウンロードサイトから、VRChatの詳しい説明にたどりついた。
(……ランキング……VRゲームで上位のほうだ……みんな、結構プレイしてる……?)
さらにゲーム説明やレビューを読み進めていく。
(『VRChat』ってチャットサービスの一種なのに……でも、ジャンルに対人FPSって書いてある……)
ま、チャットならば、ある意味対人FPSなのかもしれない。会話で互いに撃ちあうこともある。ふと、そのことに気づいて、クスりと笑ってしまう。
そのままボクは熱量溢れるレビューに引き込まれていった。
評価が高く何千時間とやっているのに、やめたほうがいい、最悪なんて、手酷いコメントも散見される。
ただ嫌悪というよりも、好きになりすぎた結果、それが裏がって嫌いになった感じだ。数千時間、そして時には万を越えるプレイ時間がそれを物語っていた。
出会い、感動、闘争、愛、安らぎ、別離、そして連帯感に孤独まで、人生の悲喜こもごもが詰まっているように思えた。
地獄の釜の底に潜って、そうして戻ってこれなくなった――凄まじいレビューの数々を見て、そんな印象を強く受けた。
同時に、ボクは『VRChat』に強く興味を持った。
(……実際に、体験したくなるよね……これ……)
しかも『VRChatは無料!』らしい。
(午後から、時間もあるし……すぐプレイできるんだったら、ちょっと覗いてみよっか……)
せっかくの夏休み、新しいことを始めたい気持ちもあって、ボクは本当に気軽な気持ちで『VRChat』の世界へ初めてインした。
――それが、すべての始まりだった。