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一般市民の成り上がり騎士道  作者: 軒下晝寝
騎士を生む地下迷宮
6/7

第五話 休日

「良かった。夢じゃないですね」

「ははは、起きてすぐそれなの? ちゃんと生きて地上に戻って来てるよ。俺も、アルバさんも」


 昨日。影の中から見ることしかできなかったアルバは一晩を経て、カードが地上にいることを改めて喜んでいた。


「それに今後はもっと深く潜るんだし、そうすればイレギュラーは増える。前に出ることはないとはいえ慌てないように、冷静でいないとね。というか演技入ってるでしょ」

「おや、バレましたか? 最近読んだ本のキャラクターがこういう雰囲気だったのでなんとなく真似してみました。とはいえ心配だったのは本当ですよ? カードさんのことですからどうにかできるとは思ってましたから深くは心配してませんでしたけど」

「あはは、信用かな? でもね、レオーネたちがいるし、アルバさんもすぐ近くで助けてくれるから俺は死なないよ」

「ふふっ、慢心ですね」


 朝の空気のように軽い口。

 小さく笑い合いながら寝起きの水を飲むカードはふと窓の外に目を向け、お金の節約のために井戸から水を汲む他の客を目にしつつ水を飲み終え、コップへの魔力供給を停止してから服を着る。


「以前も思いましたけど、カードさんの私服って意外と質素ですよね」

「意外と? オシャレなイメージあったの? 俺」

「一見した印象は見た目に無頓着で性能重視という感じだったんですけど、装備が意外と全体的に統一感があったりして意外と気にする人なのかな、と思ったりもしたので」


 カードの装備は全体的に緑が多い。

 緑といってもいかにもな植物的緑ではなく、基本は白に近い淡い色。

 インナーの戦闘着(バトルウェア)は黒だが重ね着のシャツは淡い緑で、肩鎧(スポールダー)腕鎧(ブレイサー)脛鎧(グリーヴ)片胸鎧(ブレストプレート)などは鉄製のため鈍色だが、その留め具はシャツよりも少し濃い緑。

 さらには飛び道具を防ぐための外套(マント)は暗い緑だ。


「あ~、これはね~。いくつか候補ある中で好きな色だったっていうのと、ソフィアと装備を見て回った時にソフィアが『こっち、いい』って選んでくれたからだね。ちなみに俺自身は黒とか白とか青とか緑が好きかな、ただ緑は淡いか暗いかが好き。普通のも嫌いではないけど装備の色としては、と思っちゃう」

「おや、ソフィアさんと買い物に行かれるのですね。あくまでも開拓兵としての付き合いだけかと」

「基本は仲違い防止のためにも過干渉はしないね。ただまあ、別に干渉禁止ってワケではないかな。お互いに街で会えば話すし気が合えば一緒に買い物もして、たまにサシで飲みに行ったりもする。ま、そこそこの関係性って感じだね」


 開拓兵によってはパーティー内での必要以上の交流が禁止されていたり、パーティー内恋愛禁止だったりと色々なルールが決まっているがカードたちの場合そういったモノがない。

 そもそもとしてパーティーの歴が浅いというのも要因ではあるが、お互いの性格的に必要以上のルールは決める理由がなく、そういった面に関してはルールではなく曖昧な共通認識に留まっている。


「では今度一緒に食事でもどうですか?」

「いいよぉ。なんなら今日でもいいし」

「今日は一人で見て回ろうかと」

「そ? ならデートはまた今度だ。俺は基本いつでも空いてるから気が向いた時にでも誘ってよ」

「はい。その時は是非」


――――――――――


「あれ、カード? 奇遇ね、あなたも訓練しに来たの?」

「おはよ、レオーネ。ちゃんと鍛えないとみんなの足引っ張っちゃうからね~、色々やりに来たんだ」


 ギルドの提供する訓練場。

 いくつもあるうちの1つに訪れ、そこには先んじて訓練を――魔術の訓練をしていたレオーネがいた。


「ねえ、よかったらだけど私の訓練に付き合ってくれない?」

「どういう訓練?」

「杖での近接戦闘ね。使う場面はないだろうけど復習しないと忘れちゃうから」

「そういうことならいいよ。剣創杖(それ)を使っての直接戦闘、魔術ナシかな?」

「うん」


 レオーネの扱う剣創杖は見た目こそ魔術士の杖。

 けれどそこには少し特殊なギミックが仕込まれており、それは名前の通り剣を――刃を生み出せるという点だ。

 魔術発動の際に杖に込める魔力をその機構(ギミック)の方へ通すことで仮想の刃を創造し、全長70センチの杖は全長80センチの長剣にも全長200センチの槍にもなる。

 魔術士である彼女がそれを選んだのは、学生時代の戦闘訓練の授業で杖術・剣術・槍術どれにも適性があったからだ。

 とはいえ一番の適性は魔術士。護身程度にしか使う気はない。


「流石に来てすぐは辛いから準備運動してくるね」

「うん。ありがと」


 そういってカードはその場を離れ。

 少しして帰ってくる。


「お待たせ。はい、これ。訓練用の貸し出しプロテクター」

「えっ、わざわざ取りに行ってくれたの? ありがと~、どうしようか迷ってたんだよね~」

「訓練とはいえ鍛えるならちゃんとやるべきだし、ちゃんとやるなら危険だからね」

「わ、プロテクター久々で違和感あるなぁ。というか対人戦闘自体久々か」

「ちなみに訓練って杖・剣・槍の3でやる? それとも混ぜた1? もしくは全部の4?」

「ん~。なら4でお願いして良い?」

「オッケー。ちなみにお昼までなら付き合うからね」

「ホント?! じゃあせっかくだしお昼までで!」

「ははっ、喜んで」


 プロテクターを装着する2人。

 高いモノなら魔道具のコンパクトなプロテクターなのだが、歴が浅く活躍も少なく金も少ないカードたちではごく普通の物理的プロテクターしか使えない。

 重さのせいで動きがブレる違和感に2人は早くもっといいモノを使えたらと思い、その思いがお互いに顔に出ていることに気づき笑い合う。


「やっぱ思っちゃうよね~。学生時代のも似たようなヤツだったんだけどもう少し軽かったからさ~」

「だよね~。やっぱ、早くライセンス取りたいよ」

「カードは最近どんなライセンス取ったの?」

「俺は~、功績点(ポイント)の小さめなライセンスかなぁ。鎧ムカデ系統素材のを下から順番に取ったり、あとは雑に短剣系に使われる素材――金属とかモンスターのとか色々取ったりだね。レオーネは?」

「私はやっぱ、魔術系統よね。実際にその魔術が使えるかどうかはともかく、色んな魔術知識はムダにならないから」


 魔術発動には魔術回路と魔力が必要だ。

 魔術回路は個人によって大きく形状が異なり、魔術が使える者は現代では多くはない。

 基本的には魔術回路が少なかったり、細かったり、短かったりなどの要素でマトモに扱えるのは『固有能力』として発現したモノのみ。


「魔術的な、だったら俺でもできるんだけどねぇ。実用には至らないよ、やっぱ」


 だが、魔術回路が強く発達した者は固有能力以外にも魔術として扱える。

 そして魔術回路に魔力を流すことで発動する魔術というモノは、個人の試行錯誤で扱えるようにするのは砂粒を1つ1つ積み上げて城を築くような苦労であると同時に危険も伴うため、往々にして定型化された魔術を習得するのだ。


「魔術的な? どういうの?」

「魔力を回路に流して回転かけたりするだけして、そのまま放つ! 魔力弾だね」


 つまり、現代において魔術に必要なモノは前に挙げた2つに加えて、教本(ちしき)ということになる。

 そして会得すれば危険な力を振り回せる魔術は当然ながら法整備がされ、ギルド所属ならば開拓兵としての活動で得たポイントを消費してライセンスを得る必要があるのだ。


「回路を回路として使わないで管としてだけ使う技術ね。懐かしいな~、私も魔術を習う時に魔術基礎の授業で初めに習ったっけ」

「うぇ、自力で見つけたと思ったのに既存のだったかぁ……」

「あははッ、魔術を自力で研究しようとすると基本はそういうモノよ。知識がないままやろうとすると遠くないうちに既存の技術だって知って努力がムダになるってのが魔術研究者のあるあるネタね。――と、久々に装備するから手間取っちゃった。待たせてゴメンね~」

「いいよいいよ。じゃ、やろうか」


 基本装備が剣創杖と耐魔ローブに戦闘着(バトルウェア)という鎧を纏わないモノということもあって装備に時間がかかっていたレオーネ。

 装着を終え、軽く動きの感触を確かめると2人は距離を取って互いに構える。

 まずは杖の訓練。

 プロテクターとともに渡していたレオーネの杖と同じ形同じ重さ同じ重心位置の杖を構えるレオーネ。


「じゃ、(こっち)から攻める――ねッ!」


 訓練には様々な種類があるが、今回のは攻守切り替えのモノ。

 今回でいえば、攻め手であるレオーネが主導で動いてカードが守り受ける。

 そしてカードは時折セーブした反撃を守りの中に入れ、レオーネはそのリズムの変化に適切に対応しながら基礎の見直しと新たなシチュエーションによる『こうされた時、こう動く』という思考をし、試行を重ねるのだ。


「久しぶり、っていうけどちゃんと動けてるじゃん」

「ま、加減してもらってるから流石にね。そろそろギア上げていいよ。咄嗟の反応もしたいしギアチェンジはカード手動でお願い」

「オッケー。じゃあちょっとずつギア上げますよ、とっ」


 変化。――効率化。

 無駄を減らした動きによって全体的な速度は上がらないまま防御時間が短縮され、空き時間が増えることで反撃が増加する。

 加速ではない、まさに段階(ギア)変動(チェンジ)にレオーネは僅かな間、後手に回るがすぐに対応して元の攻撃反撃比率に戻した。


「ん。イイね。ただレオーネは攻撃を逸らされるのが苦手かな?」

「んッ。昔も言われた! その言葉!」


 そこが彼女が魔法剣士などの両立を選ばなかった理由だった。

 昔からレオーネは直接攻撃をするときに逸らされるのが苦手としていたのである。

 攻撃をする、という意識が急いてしまい、防がれれば手応えから反応ができるのだが逸らされると手応えのなさでどうしても意識が数瞬だけ遅れてしまう。

 克服がムリということはないだろうが、卒業までそれができなかったことを理由に彼女は両立を断念して後衛で魔術士に専念することにしたのだ。


「ま、助言はあとでまとめて言うねっ」

「ありがとッ!」


 さらに動きが変わる。

 今度は動きの精細さを下げ、引き換えのように加速を。

 動きが大きいため近接主体ではないレオーネでも動きは見えるが、素早い動きに対応ができるわけではない。

 例えるなら、どのコースを通ると事前に知らされていても素人ではプロの球に反応できないのと同じだ。

 が、レオーネは素人ではない。

 見えて、速度に対応できないのなら、読めばいい。

 もちろんカードの純粋な前衛戦闘担当の動きを読み切れるワケはないが、条件を絞れば読み合わせは可能。

 鍛えるための訓練で、相手は防御を主として反撃を混ぜ込む。

 攻めは自分の番。

 限られた条件で、見える動き、そこに自分の動きで相手に対応と制限を強いれば。

 読める。


「ハハッ。経験を地頭と知識でカバーして上回ろうとするレオーネのそういうトコ、ホント好き!」

「え~ッ、告白ッ? 私ッ、知的でッ、優しいッ、人がッ、好きだからッ、遠慮するッ!」

「振らないで、傷つく。というか告白でもないしッ」


 慣れはじめ、勘を取り戻しはじめたレオーネの動きが徐々に加速していた。

 無駄が省け、速度が上がる。

 随所で大振りになって反撃が容赦なく入るが、それでも動きが格段に良くなり。

 カードからの反撃数が大きく減っていた。

 大振りを突いた反撃も徐々に被弾が減ってゆき、1分間の被弾ゼロを機にカードの動きが更に変化する。


「ちょッ、っとッ、キツいッ!」

「知って、る」


 段階を分けた動きでレオーネの動きのクセや反射速度などを把握したカードはちょうど限界を狙った動きでレオーネの攻撃を促しつつ防御し、反撃を加えた。


(うん。やっぱ想定通り、ここがレオーネの持続可能な限界地点だね。超えると消耗が加速する。……独学の俺とは違ってちゃんと習ってたから動きは良いけど、反応があちこちニブいのは経験値と適正かな? 弱点克服自体はできそうだけど手間がかかりそうだからなぁ、メインがおろそかにはできないし)


「ちょッ、もうッ、ムリぃッ!」

「そぉ? ならあと1分半、ギア上げるからそれだけ耐えて休憩にしようか」

「もッ、ムリッ」


 口ではそう言いつつもレオーネは攻撃のテンポを上げる。

 自分の意思で、というよりかはそうしないと反撃がただの攻撃になるという理由が強いが。

 それでも精一杯打ち続ける。


「ッケイ、休憩しよう。俺はその間に助言言っていくから――」

「まっ、10秒、待って……」


 息絶え絶え。

 レオーネは上下し逸る胸を抑えながら深く息をする。


「まず、逸らされるのが苦手な部分ね。実際に上手くいくかはわからないけど改善案として1つあるのが動きを連動させること。一撃一撃じゃなくて決まった技の形とか、こうなったらこう動く、みたいな一連の動きを決めておく」

「そうするとどうなるの?」

「防がれた時はすぐに反応で来てるから、防がれた時はそのまま。流されたら一連の動きに従ってそのまま動く」

「流されてるっていうことは攻撃のヒマなんてないんじゃないの?」

「一連の動きってのは何も攻撃だけじゃないさ。例えばパンチをした時。右拳を打ち出して、斜め下に――自分から見て左下に打ち払われたとするでしょ?」

「うん」

「その時、あえてその流れに身を任せたらどうなると思う?」

「右腕が左下に向かうから――前回り受け身?」

「そう。流石にそのままじゃ相手の身体と接触するだろうから多少自力で斜めに道を逸らしつつ前に転がる。そしたら瞬間的には相手の視界から消えれるし、距離を取ることも逆に背後に回って攻撃もできる。後衛魔術師だしレオーネなら距離を取るかな」

「なるほど……」


 そういって実践するカード。

 殴る両拳を上げたポーズから右拳を打ち出し、それを斜め下へ逸らし、その勢いに身を乗せつつ足で軌道修正と加速を行う。

 両脚が地を離れると瞬間的に脚を畳み、半ばまでコンパクトに回転つつ終盤で脚を伸ばして受け身を取りつつ勢いで立ち上がった。


「ねえ、それって例えば右に逸らされたらどうするの?」

「相手の左耳の横を通る感じ、ってこと?」

「うん」

「あ~、その時は――俺なら左手で掌底、かな? 流石にその状況だと右手でどうこうするのは難しそうだし、相手の意識が右拳に向いてる隙に顔なり腹なりに左を叩き込むっ。人型想定ならいっそのことタックルして組みついてもいいし、速度で上回ってて運悪く逸らされただけなら右に逸らされた勢いでそのまま回って裏拳とかもあり? まあ拳の話だから参考にはならないね」

「いや、参考になったよ? 一連の動き、っていうのは考えたことがなかったから」

「魔術と同じだよ。回路に流して魔術を構築する、それを待機させる、別の魔術を構築して、複合したり。っていうのを一瞬でやる。……まあ、厳密には違うんだろうけど」

「あははっ、全然違うけど確かにイメージはしやすいわね。うん、ありがと」


 笑い、下ろしていた腰を上げるレオーネ。

 パンパンと土を叩き落し、消耗でふらつく彼女をカードは咄嗟に支える。


「もう少し休む?」

「ありがと、大丈夫。思ったよりも脚に力が入らなかっただけだから」

「あるよね~。普段と同じ気持ちで立ち上がったら、っての」


 笑いながら両脚に力を込め、ゆっくりとカードから身体を離すレオーネ。

 爪先で地面を叩き、その場で跳ね、両脚でしっかりと立つ。


「よしッ。続けようッ」

「オッケー」

 そういえば、ルビを振っていて思い出したことなんだけど

 マンガとかで明らかにルビがおかしなことになってるヤツあるよね

 ルビってつまりは『読み方』なわけで、なのに作品によってはルビの方がサブになってるっていう

 例えるなら『火球(ファイアボール)』ってワードがあるとして、これ読み方はファイアボールの方がルビ表記として正しいはずなのに、その言葉を聞いた第三者が『か、火球?』ってなってるのよ

 それやるなら『ファ、火球?』だと思う作者であった

 今時の作品ってそういうのが正解なの? 作者の感覚が古いだけ?

 最近買ってる本って昔から続いてる作品で、純粋な最新作は買ってないからわかんないのよねぇ……


 閑話休題(それはさておき)

 評価、感想、お気に入りしてくれるとモチベーションがアップアップって感じ

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