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一般市民の成り上がり騎士道  作者: 軒下晝寝
騎士を生む地下迷宮
4/7

第三話 知性

 評価して~

 感想もちょーだい

「でも本当に良かったの? こっちから提案しておいてなんだけど、俺の部屋の影で寝るって……こっちから手出しできないとはいえ気分的にさ」

「あの、どちらかといえばイヤなのはカードさんの方では?」


 元々は野宿するくらいなら部屋で、と提案したものの遠慮し、カードは代わりに部屋の影空間で寝ることを提案した。

 隔絶した影の空間といえど、外からの影響が多少はあり。例えば光や音などが侵入してくる。

 気温も関わってくるため外では安眠も難しいと考えたからだ。


「? なぜに」


 男女平等が一般的な社会。

 普人種、獣人種、魔術種(エルフ)などで大きく能力差、適性が異なり。

 魔術などにもよって男女という性差による能力差も関係はなく個人適性と研鑽が大きい。

 性別による不可避の違いも『そういうモノ』であり、差別とは無関係。

 だが、一般的というだけで普遍的ではない。

 地域や国によっては種族差別、男女差別はある。

 カードは一般的な環境で生まれ育ったため比較的そのあたりの認識は平凡だが、アルバは異国の人間。

 文化や、家庭環境によっては一人で寝たかったかもしれない、と。

 そんなカードにアルバは問い返すが、カードは意図を理解できなかった。


「一方的に見られるワケですし……。その、寝ている姿や朝でいえば着替えている姿を」

「別に? 兄弟三人で同じ部屋だったから同じ空間で寝るのに抵抗ないし。田舎だからプライバシーとかほぼなくて夜の話が翌日の昼には全員知ってるし。てかそもそも……開拓兵だよ?」


 前提として、開拓兵である。

 その事実にアルバは少しハッとした。


「長期で潜ればダンジョンで寝泊まりするし、男女パーティなら安全のために近くに人いる状態で服も脱ぐし身体も洗う。いちいち躊躇ってたらその方が命取りだよ?」

「なるほど、認識が甘かったのですね」


 今でこそダンジョンという環境が基本だが。

 そんなモノがなかった昔の時代は地上での活動が当然のこと。モンスターが跋扈する未到達領域へと入り、長期にわたって土地を『開拓』する。

 モンスターがのさばるゆえに、人里もない。


「ま、登録して初めてだし、異国の人間だから仕方ない仕方ない」


 野宿が前提。野営のの時に水浴びをするとなれば安全のために数人でまとめて行うし、男女比が均等なワケもなく混在で身体を清潔に保つ。

 となれば、男女の裸など当然見るし。見飽きもすれば、そもそも見て反応しないのが当然の社会にもなるのだ。


「そういった常識の差、というのも感じ取られて拒絶されたんでしょうね……」


 その地続きの現代開拓兵は当然その意識を継いでいるし。

 人々を救う開拓兵を支える社会がその認識を許容し、当然と認識するのもまたある種の必然。


「考えすぎじゃない? でもまあ、修正したいならすればいいんじゃないかな?」

「……」

「キミは異国の人間だし、この国(ルートヴィヒ)の人間としてここの常識を教えておくね」

「は、はい」

「極論をいえばキミは自由で、何をしてもいい。どんな人間だろうと構わない。その本性が凶暴であっても、国家転覆を望んでいてもどうだっていい」

「??」

「実害がなければルートヴィヒ(ここ)は寛容だ。破壊衝動を開拓兵としてモンスターを殺すことで発散できるのであれば国に害はない、国家転覆を望もうとそれを実行しなければ願望止まり。国に――つまりは国領や国民に損失を与えなければ人間性はどうだっていい」

「殺しを愉しむ人間でも、ですか?」

「うん」

「個人の過去に関係なく?」

「過去は過去だ、今にも先にも影響はないよ」


 ハッキリいえば、犯罪者でなければ問題はなく。

 その予備軍でなければ皆が無関心でいる。


「キミの思想が危険で、その思想を周囲に拡散する、それによって国が転覆する可能性があるなら思想の修正は必要だろうけど。キミはそうする気なのかな?」

「いえ、そういうつもりは……」

「キミは過去と決別して、故郷を飛び出して、新しい場所で人生を送ろうとしている。だったら好きにすればいい。キミの持つモノに害がないならルートヴィヒ(おれたち)はキミの所有物を放棄しろというつもりはないからさ」

「害があるから遠ざけられたのではないのですか?」

「ハハハ、ただの様子見だよ。キミ自身に問題がないと解ればみんな受け入れてくれるよ。ま、無防備じゃないってことだね、しばらくは我慢してってしかいえないかな」


 そう、全ては時間とアルバの行動次第だ。

 彼女がこの国に属することを選び、交流のなかで問題がないとわかれば、周囲も必然的に許容する。

 選択肢が限られているのは今だけ。少しすれば彼女には多くの道が現れる。


「……貴方は、それを言って(わたくし)がいなくなるとは、思わなかったのですか?」

「昨日も同じこと言ったよぅ。すべてはアルバさんの自由だ、ってね? それにアルバさんなら聞いたうえで一緒にいてくれると思ったのさ。なんとなくだけどね」

「フフッ、正解ですよ」


 真意の見えない笑み。

 応じてカードもニヤリと笑む。


――――――――――


「ちなみにアルバさんの故郷にモンスター食文化は?」

「ウサギ系統など人型ではないモンスターの肉であれば食肉利用されていましたね」

「ゴブリンとかオークとかの人型モンスターは忌避感ある感じかな」

「オーク、というのは体高2メートル強、体重120キロ強が平均値の醜悪な容姿のモンスター、ですよね?」

「うん。初めに食べた人スゴイよね~」

「あの見た目を……食べるんですか?」


 人を喰らう鬼の一種。

 系統はオーガと同じくゴブリン系。

 オークは角が退化し短く平たい角が額に二つ。肌色は緑から青褐色に転じ、肉の色も血を抜けば腐った肉のような黒ずんだ色。

 見た目は食欲の湧くものではない。


「正直俺もそういう前提がなかったら食べなかったな~」

「あの顔は……」

「あ、色じゃないのか」

「色は、まあ……平気ですね」

「意外ぃ」


 街の商業区を歩けば露店がチラホラと見える。

 ゴブリンやオーク、オーガ、ラミアやキマイラなどの肉を使った料理が売られていて、買われている。


「……少し失礼な話なのですが。その……」

「?」


 チョイチョイと袖を引いて囁き声で話しかけるアルバ。


「モンスターのラミアと人間の角蛇種(リビュア)はその、似ていますけど食べても大丈夫なのでしょうか?」

「……まあ、大丈夫じゃない? 食べる食べないは自由だし。角蛇種リビュアの人たちは普通にラミアをモンスター扱いしてるし。俺は味はそこまで好きじゃないけど日替わりの食事で出たら食べるよ」

「どんな味なんですか?」

「独特の味だねぇ。肉自体の味はそこまでない淡泊系で、味の染みこみは良い方かな。魔力(マナ)抜きがしにくいらしくて一般的な料理はあまり処理されてないね。だから口の中で広がる感じがする。それが好きって人もいるからまあ、個人によるとしかいえないね」


 魔力を感知する人間は甘味・塩味・苦味・酸味・旨味の5つに加えて魔味も存在する。

 魔味は特定の味ではなく、それぞれ固有の感覚があり総合したモノだ。

 カードの感覚でいえばラミアの魔味は口の中で広がる感覚、他でいえば人面樹(トレント)の果実の一種は舌に軽い圧迫感、というモノだったりする。


「お店が気になるのですけど……いいですか?」

「うん。行こうか」


 様々な料理の匂い入り乱れる通り。

 鼻腔をくすぐる香辛料の匂いに惹かれたアルバを追って屋台を巡る。


「初めて見る食べ物が沢山です」

「アルバさんはいっぱい食べれる人?」

「はい、食べるのは好きですね」

「じゃ、せっかくだし色々食べてみようか。ここらの食事ならかなり安いし奢るよ」

「そんな、悪いですよ」

「いいのいいの。まあ、気にするならアレだ、投資とでも思ってよ。仲良くすることで今後の繋がるを強めよう、みたいな?」

「ふふっ、わかりました。そういうことならいただきますね、ありがとうございます」


 食べ歩く二人。

 安いという言葉通り屋台の提供する食事の金額は平均3ゼル――賤銅貨3枚。

 栄養バランスを考えなければたらふく食べても余裕のある金額。

 ちなみにだが、5人パーティ1日の食費が1000ゼル程度なのに地上では桁がこんなにも違う理由は主に保存処理にある。

 ダンジョンのような魔の濃い場所では物質が善悪両方向に影響を受け、多くは悪影響を、ナマモノは往々にして腐敗が加速するのだ。

 その腐敗は特殊なモノで、通常の干し肉のような水分をタダ除去しただけの防腐処理では不足。

 ゆえに高くなる。


「美味しい?」

「はい。どれも美味しいですが、このほぐした肉をパン? で挟んだこの料理は食感も好きですし、使われている香辛料も初めてのモノで面白いです」

「ギィア・エマリス、だね。平たいパンの一種。材料に指定はないらしいから作る人によって味が結構変わるのが食べてて楽しいとこの一つだね。この味的に麦とイモの粉かな? 詳しい品種はわかんないけど」


 クレープのように薄いが、例えるならチャパティ。

 カードの推測通り小麦とイモを混ぜ、発酵させずに焼いたこのパンは焼いたあとで重ねて放置したことで生地がしっとりモチッとし、具材やソースを包んだ後に焼いているため重なった内部の生地はそのままの食感を保ち、火のあたった部分はカリッと香ばしい。

 絶妙な配分によって材料の匂いや味もマッチしていて、非常に人気のある商品だ。


「満足するまで食べて良いよ」

「はい」


―――――――――― 


「夕方の鐘がなるまでにしようか」

「わかりました。ではあちらの方の本棚から見てきます」

「ん。じゃあ俺は地図だから……あっちだ。俺は――あそこのテーブルで勉強するから一緒でもいいし終わったら合流でもいいからね」

「ではせっかくなので一緒にいさせてください」

「オッケー、じゃあまた後でね」


 書架に並んだ大量の本。

 モンスター被害に悩む人間だが、意外にたくましくモンスターを利用することもある。

 徹底した調査と環境整備によってモンスターを人為的に育み、その利用すら目論むことがあり。

 その英知の結晶が現代の『図書館』だ。

 大きな王都ルートヴィヒや、その他商業都市グラーベンシュタット・農業都市トリゴ・学術都市グラムテカなどの主要都市には確実に。小さな街でも高い確率で無料で利用できる図書館がある。

 それは樹木系モンスターを利用した製紙技術の発展や、魔道具による印刷技術など。

 そしてそれを可能とする文化の育み。

 図書館(ぶんか)という英知、書籍(ぎじゅつ)という英知、著作(けんきゅう)という英知。

 そのさまは、まさに圧巻だ。


「と。これでひとまずいいかな」


 いくつもの書架を巡って見つけた本。

『高魔地における感覚変動』

『線を引く』

『地図の基礎』

 の三冊。


「……ウン、測量? 歩いて? 縄? 鎖? ……ハハッ」


 とりあえず先に地図作成の基礎を学ぼうとページをめくるがそこに書いてあったのは地上での測量方法。

 正確にはダンジョン内でも使えるのだが、探索しながら地図を作るのに縄や鎖は使っていられない。

 時間がかかりすぎるし、安全確保の難しい場所でそれは自殺行為だ。


(っと、静かにしないと。……え~? と、いちパーティで探索中に地図を作成する場合は移動距離などを基準にするのが基本である。ただし、ダンジョン内では感覚変動が起こるためその点に注意する必要がある。……え、その部分の対処方法とか載ってないの?! 完全に作図の線の引き方とか繋げ方とかの部分じゃん……。移動距離など、ってなにさ。具体的に書いて?)


 書いてあるのは作図法。

 剣術で例えるなら剣技のこと、それを扱うための身体づくりの方法や適切な剣の握り方などはほとんど書いていない。


(これ、初心者向けだけど前提知識がある人間向けだなぁ……。後回しにしよ、先に感覚変動の方を読んでみるか)


 一冊目を閉じる。

 そのタイミングでアルバがいくつかの本を持って隣の席に腰を下ろした。


「モンスターの本?」

「はい。(わたくし)は音で探知をすることが基本なのですが、音以外でもモンスターを察知できるなどが可能であればより効率的かと思いまして」

「あとは各街のダンジョン地図?」

「競争するこの街の試練所(ダンジョン)とは異なり他の街は開拓兵に地図が公開されていますからね、参考にできるかと」

「ん。よくはわからないけどまあ、任せるよ」


 学のないカードには何を参考にすればいいのかがわからないし。自分のわからないことの具体的にどの部分がどういった理由でわからないのかも、わからない。

 小難しい思考などできる気がせず、自分にできるのはあくまでも『知識』のみ、『知恵』はムリである、と。


(感覚変動。魔が普段適応している濃度よりも濃い場所に立ち入ることで感覚が異常をきたす現象である……。普段よりも疲労を感じやすくなる、あるいは感じにくくなる。腕の感覚の変化が引き起こることで大男が僅かな荷物で体勢を崩す、脚を動かす感覚の変化で一歩ごとに歩幅が違いその結果歩いた距離の認識がズレる、視覚の異常で距離感があやふやになる、など様々である。……その異常は適応している濃度との差が大きいことで症状の悪化や増加などが起こる)


 カードは今のところ1階層の、浅い場所までしか行っていない。

 そのため感覚変動といっても精々がまれに起こる間合いの把握ミス。

 単なる未熟が理由だと思っていたミスが理由のあるモノだったと知って安堵し、同時に気を引き締めた。

 たとえ理由があろうとも、本気で先を目指すのならばそういった感覚変動に臨機応変に対応して一人前。

 間合いの把握に誤差が生じたならすぐに正す。

 本気で行うことに妥協は許されない。


(感覚変動の防止は時間をかけて緩やかに適応することが一般的だが、魔への耐性を高めることでも可能とされているが後者は難しい、と。逆に魔の薄い場所へ戻った際や立ち入った際は目眩や吐き気、魔力欠乏症に似た症状などが発生する、か)


 そこでふと、カードは疑問に思った。

 この試験の目的について。

 王が――レイラ・ルートヴィヒが宣言をしてから民が、開拓兵が集った。

 騎士を求めているのだろう。

 が、少し違和感もあった。

 通常のダンジョンは新生してからおおよそ1年、長くても2年があれば最奥までたどり着く。

 にもかかわらずこの街の試練所は既に5年が経っていた。

 たしかに凡百の戦士はいらないだろう。

 求められているのは『騎士』であり『国衛の鬼』。

 相応の実力と覚悟が不可欠。


(ダンジョンの難易度。モンスターの数に、広さ、深さ、加えて謎解きまがいのこと……俺が騎士の実態を知らないだけ? たしかに騎士っていうのは大事な立場、命尽きるまで国を護るのが使命、それにふさわしい振る舞いも必要なんだろうけど……知性に欠けた人間を振るい落とすためなら俺はダメ、だろうなぁ)


 思考が悶々と巡る。

 と、ともに1ページ、1ページと読み進め。

 めくれるページが尽きたところで思考は打ち切られた。

・レイラ=ルートヴィヒ Laila=Ludwig 女王 女

 夜のような黒紅(#302833)色の髪で毛先は錆(#6c3524)色 

 灰青(#c0c6c9)色の瞳 ヤギのような横長の瞳孔は素色(#eae5e3)

 グラムテカに引きこもっていたところを強制的に連行されて王女にさせられた

 3つ上の長男は騎士に、1つ上の長女は外交担当

 行事の時以外は民の前に出ず、為政は大臣たちに任せて読書をしてる

(提案された政策書類などを読んで問題があれば却下、修正案を出したり問題の指摘をして考えさせるなどはしている)

 曰く、不摂生が要因となって小柄とのこと

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