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一般市民の成り上がり騎士道  作者: 軒下晝寝
騎士を生む地下迷宮
2/7

第一話 品定め

「てことで、試用のアルバさんです」

「いきなりだな」

「そう? 少し前に募集をかけるって言ってたでしょ?」

「だっけか、聞いてなかった!」

「言ってた。六日前」

「記憶はある」


 ダンジョン前へ集った六人。

 アルバを連れて少し遅めにやってきたカードが説明をし、募集のことを憶えていなかったヴィクトワールが首をかしげるが他の三人は憶えてはいた。


「立ち位置的には戦闘時は俺と同じ遊撃として前衛が漏らした敵を倒したりバックアタックに対応したり、前衛に上がってヘイトコントロールをしたり。非戦闘時は調査が役割かな」

「アルバと申します、よろしくお願いいたします」

「胡散臭い奴だな!」

「ちょっとヴィクトワール! いきなりそんなこと言う必要ないでしょ!? そりゃ確かに感情が籠ってなさそうな笑顔だけど……」

「口元しか、見えないのも」

「俺はどうでもいいな。興味がない」


 事前に言ってはいたとはいえ当日になっての参加。

 あまり歓迎の雰囲気ではない四人の様子にカードは溜め息を吐く。


「ゴメンね」

「いえいえ、慣れておりますから」

「じゃ、行こうか」

「初心者連れて奥まで行けるのかよ?」

「1-1-6-8-2通路だし大丈夫じゃない? ……あ、ちなみにアルバさんはダンジョン探索のこととかどれくらい知ってる? 通路の数字の割り振りとか」

「右手側通路を優先して進む、程度であれば」


 仮の仲間。

 自分たちも知識豊富というワケではないためアルバにも博識を求めることはないが、最低限探索の常識が通じなければ少し面倒になる。

 もちろん学のないモノたちでも容易に覚えられる程度のためそれを理由に断る気はカードにはないが。


「えっと、そうだね。基本は直進が優先で直進中の分岐は後回し、丁字路になったら右手優先。通路が突き当りまで行って、そこに扉があったらその先も一本の通路として考える。扉の先も直進基本右手優先ね」

「なるほど。ここまでは大丈夫です」

「ん。とりあえず道沿いに進んで、突き当りに扉があれば入る。その先で進めなくなるまで通路に沿って進む。行き止まりで一区切り。だから入ってすぐ、今進んでるこの右が行き止まりになるまでは『第1通路』ね」

「行き止まりになってから数字が増える――さっきの1-1-8などになるのですね」

「そ。行き止まりになったらその地点から引き返して扉や分岐に番号を振る。例えば今の左扉は1-15でここの右扉は1-14」

「奥に進むほど分岐の数字は若くなるのですね」

「おおよそは、ね」


 10メートルほどの距離を開けて通路左右の壁に現れる二つの扉。

 ダンジョン入り口に近い方が15であり、通路を進んだ先の扉が14。


「例外が?」

「扉には三つ、種類がある。一つは普通の扉、さっきから見えてるヤツだね。もう一つは見えてるけど開かない一方通行の扉、それはこの直線の先にある丁字路の左手側にあるね。で最後、隠し扉」

「なるほど。隠されている場合、いつ発見されるかがわからず、数字を割り振った後に見つかる可能性があるため後回しなのですね」

「理解が早いね。そういうトコ、好き」


 不意にウォルフリックが立ち止まる。

 手で後続を制止し、彼は耳を澄ませた。


「その左通路からモンスターの気配だ。どうする? 距離的には無視もできるぞ」

「背後から攻撃されたり逃げる時に阻まれても困る。戦おうか、アルバさん込みでの戦いもやっておきたいしね」

「数は五だ。匂いから考えてヴィルカチ」

「お? てことはウォルフリック、お前の親戚かもな」

「俺たち爪牙の人間に邪へ組した脆弱な者はいない。毛違いだ」

「アタシからすりゃお前ら獣人もヴィルカチも大差ないけどな」


 ヴィルカチ。

 人狼の一種。

 獣人との大きな差は、見た目で言えば喉周辺や鎖骨付近。

 他にも人狼の方が歯の本数が多く、筋肉のつき方や心臓魔石などの違いもある。


「とりあえずヴィクトワールはいつも通り前衛、レオーネとソフィアは後衛。ウォルフリックは後方警戒しつつ後衛で待機。アルバさんは……やりたいように動いて、こっちで補助するから」

「かしこまりました」


 丁字路。

 両手を大きく叩き鳴らし、通路の先へ届かせる。

 僅かに魔力を含んだその音は奥へ伸び、ヴィルカチたちの下へ届いた。

 そうしてヴィルカチたちは一斉にカードたちへ向かう。

 モンスターの根本にある『人類の敵』という特性。

 『人間』を感知し、少ない理性の枷が外れた。


『グルルルルゥァアアッ!』


 左右へ二体が進む。

 少し距離をおいて中央を三体が進む。

 炎の弾丸が向かって右のヴィルカチの片目を焼いた。

 白を纏った矢が左のヴィルカチの首を刺した。

 中央の三体をヴィクトワールが纏めて薙ぎ、一体が手首から先を失い、一体が口を切り裂かれ牙を折られた。

 アルバが無傷の一体の腹を殴り、身体が僅かに浮いたところで背後に回って足首を蹴り刈り、床に背を叩きつけたところで頭部を手で抑える。

 そんなアルバに襲い掛かる牙を失ったヴィルカチだが、カードが援護に回り背後から動きを阻害し心臓魔石に刃を通した。

 その隙にアルバは首を殴りつけ、骨を殴り砕いた。


「こっち、終わったぞ」

「こっちも」

「背後、敵の気配なし。戦闘終了だ」

「――よし、お疲れ様」


 残る三体。

 それぞれが倒し、戦闘が終わった。

 周囲を警戒し、ウォルフリックの言葉で警戒を緩め、アルバによるダブルチェックで警戒を解く。


「初めて見るヤツだな。ウォルフ、知ってたのか?」

「魔除けに牙が使われてる。以前街で見たことがあった」

「知りはしないのか? カードは?」

「軽い知識は。第1通路中盤か第2通路に現れるモンスターだからこの扉の向こうだろうね」

「扉……」

「ん? アルバさんどうかした?」

「いえ……博識だな、と思いまして」


 一方通行の扉を見つめ、呟いたアルバ。

 そんな彼女の様子を窺うカード。


「ははは、まだまだ全然知らないよ。知識だとレオーネの方が広さも深さも優れてるさ」

「おや、レオーネさんはそんなにも賢い方なのですね。魔術士だから必然と言えばそうですが」

「まあね。学校も出てるし」

「へぇ、それは知らなかったよ」


 基本的に個人の詮索はしない五人。

 五人、というよりもそれは開拓兵全体としての曖昧な共通認識だ。

 それはそれぞれがあまり語りたくない過去を持っていることが多かったり、そもそもとして他者の過去など詮索するメリットがないから。

 過去に囚われた人間がいるとして、その者と行動をともにしたいのなら未来に目を向けさせる方が手っ取り早いから。過去など知らずとも他者との交流はできるから。


「さて、残ったのは毛と血と魔石か。魔石だけだねぇ」


 命を失い霧散したモンスター。

 霧散から逃れたのは僅かな体毛と、僅かな血液と、六角柱の魔石だけ。

 せめて肉や、皮が大きく残っていれば商材にできるが、毛だけでは意味がないし、血はヴィルカチの場合利用価値がない。

 魔石だけが今回の戦利品だった。


「ところで開拓兵の皆さんはモンスターについてどれくらいご存じなのでしょうか?」

「モンスターについて? 開拓兵の知識って戦う相手に対するモノだからなぁ、そういう大枠だとそこまで知らないと思うよ? 俺がギルドで教わったのはモンスターは人間の感情から生まれる存在で、人間が今の生物である以上不可避の存在。昔の賢い人が頑張って周囲からモンスターが生まれる場所を集めることで人間の住む場所を安全に保ってる、だとかなんとか」


 開拓兵の知識はあくまでも既知を身に着けるだけの実利目的だ。

 未知を究明する、新規性は学者の領分。

 モンスターが生まれる要因を知るメリットはなく、それゆえ彼らは特定のモンスターの対処法などの知識のみを求める。


「正確には『モンスターの素を一定範囲から集め、人工的にモンスターを生み出すことで安全にしている』ですね。モンスターは人間の発する『想子』を核として『魔力』を糧に器――器体を生み出す。生物ではなく生命であり、そのため器体を維持している魔石を砕いたり、魂を反映した器体を一定以上損傷することで存在力を保てなくなって霧散してしまう――どうしました?」

「??? 途中からわかんなくなってきた……」

「説明が本の内容って感じね。カード、剣を想像してみて、わかりやすく貴方の持ってる短剣ね」

「ん」

「じゃあそこから刃の部分がなくなったらそれは剣と認識できる?」

「剣じゃない」

「そ。それが魔石を砕かれたモンスター。剣を剣たらしめている要素が失われた状態なの」


 歩きながら行われる解説。

 手元に材料があることもあって想像が楽で、カードは納得がいったように頷いていた。


「じゃあ、今度は刃の部分を戻して綺麗な状態からどんどんボロボロにしていってみて」

「刃こぼれしてたり、柄との繋ぎが緩くてグラついたり……うん、オーケー」

「それは『剣』として使える?」

「ムリ!」

「でしょう? 剣の形はしてるかもしれないけど剣として認識できるか、って言われたら難しいわよね。その意識の食い違いがモンスターの肉体――つまり器体と、魂とで生まれるから繋がりが切れて、器体が魔力供給を受けられずに消滅しちゃうの」

「おおっ、なるほど。……じゃあなんで部分的に残ったりするのさ?」

「それは存在力っていう部分が理由なの。モンスターの身体は基本的にはモンスターが持つ魔力によって維持されてるの。私の魔術も基本的には生み出した氷とか、少ししたら消えちゃうでしょ?」

「そういえばそうだね」

「けど、時間をかけてこの世界で生き続けたり、この世界に安定して存在する物質を食べてそれで肉体を再構成したらこの世界と肉体が適合するの。イメージ的にはいきなり村に来た人は受け入れにくいけど、その人が毎日来て挨拶とかしてくれたら受け入れやすいでしょ?」

「わかりやすい!」

「だからそうやって残ったりするの」

「へぇ~」


 これまで特に理由を考えずに金になるとだけ思ってギルドに買い取ってもらっていたモンスター素材(ドロップ)がそういった理由で残っていたのだという事実にカードのみならず他のメンバーも興味深げに聞いていた。


「ちなみに、魔術の場合は魔力をいっぱい込めることで強制的に魔術発動をやめた後でも残るようにできたりするの。モンスターも魔力暴走を起こしてると魔力の高ぶりでそうなるって聞いたことがあるよ」

「さっすが学校行ってた魔術士ぃ!」

「まあね」

「ところで、なんで肉体じゃなくて器体なんだ?」

「モンスターの身体が魂を乗せる器だから、かな。元々はゴーレムみたいな身体が『肉』じゃないモンスターにも『肉体』はおかしくないか、って話から始まったんだけど」

「……たしかに」


 深く考えたことのない部分。

 言われればゴーレムのような身体が鉱物のモンスターや、スライムのような身体が粘液のモンスターがいて、それらは肉ではない。

 その部分が定義されていることをカードは面白く思い、笑う。


「あ、アルバさん。ちなみにここがさっき言ってた扉ね。正面側にも隠し扉があるんだけど正規ルート、というか第1通路扱いは左手側のこの扉の先」

「隠し扉? ……なるほど」

「あそこに関しては観察したら遠目でもわかるけど、奥だとそこにあること前提で見てもわからないのだったりするらしいよ」

「それは一体どうやって見つけるのですか?」

「調べる人間の観察眼、らしい。完全に技術頼りだねぇ」


 ダンジョンの至る所に点在する隠し扉。

 何もせずとも見えている扉であっても鍵が必要などあり、次の階層に進むにはそれらを突破する必要があるのだ。


「探索はとても難しいのですね。私もお力になれるよう頑張ります!」

「お、気合十分だね。期待してるよ」

「……」

「……」

「……」

「……」


 二人のやりとりに聞き耳を立てる四人。


「おや? 行き止まりですか?」


 初めの扉を通ってから複数の扉を越え、200メートル以上歩いた頃に入った扉の先の部屋。

 部屋には入り口として使った扉以外には何もない。

 正確には松明や、いくつかの石像はあるがそれ以外のモノはなかった。


「カード。ここでそいつの調査能力を試したい」

「ん。そうね、幸いこの部屋にモンスターはいないし時間も十分ある。てことでアルバさん、どこに隠し扉があるか突き止めてみて」

「ふふっ、わかりました。やってみますね」


 ウォルフリックからの提案。

 それには他のメンバーも、カードも異論はなく。

 提案を受けたアルバは探索の定石通り右手側へ歩を進めた。

 部屋は横幅30メートル、縦幅20メートルの長方形型。

 扉の位置を基準にすれば左右に15メートル。

 壁伝いに歩き、『扉』という言葉に惑わされることなく床や天井なども広く確認してまずは軽く一周を。


「一回目じゃ見抜けなかったか」

「そういう言い方は良くないんじゃない? ウォルフリック」

「いーや、アタシなら気づけたね」

「初めて来たときに場所がわかってても気づかなかった女がなんか言ってら」

「うっせー」

「……」

「……?」


 不意に影が暗む。

 それはほんのわずか。言われてなお光源によるものと思うであろう些細な変化。

 だが、アルバの固有能力を知っているカードだけはその異変に気づいていた。


「一ヶ所、ですね。場所は入って正面付近の壁、あそこです」

「!」

「気づいてはいたみたいね。見落としがないように一周しただけかな?」

「ま、それくらいできなきゃ調査役失格だ」

「偉い」

「……調査の腕は確かみたいだし、これでウォルフリックは納得できたかな?」

「ああ」


 隠し扉を開けた先の通路。

 変化した空気感にアルバは少し戸惑いを見せる。


「魔力が濃くなりましたね」

「へぇ、ここに初めて来たときのレオーネと同じこと言うんだね」

「なんというか、空気が硬くなったと言いますか、呼吸がしづらくなったような。胸の奥が抑えられているような感覚です」

「アルバ、その感覚は正しいよ。ダンジョンは魔的なものを集めるから必然的にそうなるの」

「ですか」


 モンスターの核となる想子。

 モンスターの器体となる魔力(マナ)魔素(ミスト)といったモノ。

 魔道具の力で集積され、そうしてモンスターが生み出される。


「……ふと思ったのですがこのダンジョンは国王の宣言時に造られたのですよね?」

「そうよ? それがどうかしたの?」

「いえ、現在はルートヴィヒ国内の各都市にダンジョンが配置されていますが時期が合わないのではないかと思いまして」

「ああ、そういうこと。このダンジョン、新造されたのよ。以前のダンジョンを維持していた魔道具のメンテナンスを行ったり研究を元に改良したりするために地下牢をベースに新しく造って、多分そのついでに優秀な人材を集めよう、ってことだと思うわ」

「なるほど。そういうことでしたか」


 ルートヴィヒにおけるダンジョンの扱いを知ったアルバは相槌を打つ。


「アルバさんのいた街はどうだったの? あ、そもそもダンジョンあったりする? 俺のとこは村だからなくてさ~、ちょこちょこモンスター被害があったんだよね~」

(わたくし)のいた街? ……モンスター討伐を専門とする方々はいましたが詳しいことは知らないですね。故郷に興味がなく抜け出してきたので」

「あ~、なんかゴメンね」

「いえいえ、多くは語る気はありませんがそこに対する不快感は特にございませんのでお気になさらず」

「そっか」


 交通網が発達しつつある現代といえど遠方から来るのは難しいし、わずかに見えるアルバの顔つきやイントネーションから考えて他国の人間。つまり輪をかけて難しい。

 そんな状態で抜け出してきたというのはそれなりの事情があり、安易に介入すべきことではない。

 余計なことを聞いてしまったと少し後悔するカード。


「じゃ、どんどん行こうか」

 たまに興味本位がてらアニメの外人リアクションを見たりするんだけどキャラの名前が英語表記のせいで地味に変わったりしてるのよ

 私は名前が同じ意味でもその言語によって出身やキャラの親の設定に繋げてたりするからちょっと微妙な気分だったりする

 ジュリエッタとジュリエットはイタリア語と英語の違いでしかないけど、作品的には個人的には違ってる


 てなワケで、今作のキャラのアルファベット表記もついでにおいておきますね、と

 あ、もしかしたら作中言語のキャラが出るかもしれない(基本は翻訳してる体でやるけど、独特の言い回しとか魔力うんぬんを前提にした語句は我々世界の言語じゃ冗長になっちゃうから)


カード:Card(英語)

レオーネ:Leone(イタリア語) 父『レオナルド』から 名前と思いきや苗字

ヴィクトワール:Victoire(フランス語)

ソフィア:Sophia(ラテン語) 古代ギリシア語と迷った 背景的にラテン語

ウォルフリック:Wolfric(ドイツ語) 表記ゆれ多いのやめてもろて

アルバ:Alba(英語) 本人命名 白い花とか夜明けの白んだ空が好きとかなんとか

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