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九人はポンコツスキル持ち  作者: 須田原道則
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南部晴政

 好きなものがあった。それは戦国時代だ。足利家の力が衰えてきたところで、各国の戦国大名たちが、領地を取り合いはじめ、尾張の織田家がぐんぐんと頭角を現し、群雄割拠する時代。わーは、その中でも格別に織田信長が好きだ。猿とか禿とか狸は好かん。


 織田信長の生き様を真似したい。織田信長になりたい。小学生の時は教科書を読み耽り、それから図書館で歴史書を借りて読み耽り。戦国時代のことに詳しくなった。そこで初めてわーは自分の名前の残念さに気が付いた。


 わーの名前は南部晴政。そう室町から東北地域に居座っている大名だ。織田信長とも付き合いはある武将で、外交もしっかりしとるが、謀反を企てられたり、お家分裂やらと、資料がなさ過ぎて、どうにもパッとせん大名ではある。


 わーの名前は親が歴史好きであるからつけたとか。おかげであだ名は三日月だった。残念と言うのは好きな人間には貶しているかもしれんが、暗い過去があるせいで、余計に織田信長への愛が強まり、南部晴政への鬱憤が溜まった。


 わーは好きを形にするために、形から入ることに決めた。まずは織田信長の知識と共に、風体を真似することにした。そう、コスプレだ。有名なあの織田信長の肖像画を真似てコスプレをした。普通なら二次創作された、イケおじ織田信長なのだろうが、わーが気にいっとるのは、あの織田信長であり、生き様なのだ。


 三日三晩徹夜続きで作業してようやく出来上がったところで、わーはぶっ倒れたんじゃと思う。織田信長がスキルをくれた。最初は夢かと思ったが、どうやら現実であり、織田信長は黙ってスキルを託してくれた。


 スキルという織田信長からの天命を受けたわーは、晴れて異世界転生を果たしたんじゃ。


「えっと、異世界転生なんですか?」

「そうじゃな。お前たちは転移らしいが、わーは転生じゃ。じゃからこの世界の身分証明書は持っておる」

「はー、ええなぁ。おれ等はいきなり蛮族扱いやったもんな」


 大衆酒場で小銭稼ぎに日本の芸をしていた張磨蔵権と、その仲間である壬生奇礼と共に、酒を飲みかわす。


「お、お幾つなんですか?」

「わーは、今年で三十二じゃな。じゃから前世と合わせると五十には到達するかの」

「大先輩や。こら失礼しました」

「かしこまらんでよいよい。前世では同じくらいなんじゃから」

「やって少年。そろそろ敬語使うのやめよっか」

「い、いや、これは癖みたいなもので・・・そ、それよりも、南部さん・・・じゃないや、デイモンさんは、どうして僕達が転生してきたと分かったんですか?」


 壬生奇礼の発言に対して、張磨蔵権が小声であちゃーっと言ってから、今にでも逃げる準備を始めている。二、三秒の沈黙が拙かった質問だと理解したのか、壬生奇礼もおどおどとし始めた。


「まーて待て待て。お前たちの素性も大方は分っておる。何をしたかも知っておる。わーは確かに王国のもんだが、あーまちいまちい、話しを最後まで聞かんか。別にお前たちを処刑台に送り付ける為に来たわけじゃないわ。むしろ逆じゃ。お前たちの犯罪歴を帳消しにできると言ったらどうする?」


 荷物片手にとんずらをしそうになっていた張磨蔵権が、ようやく腰を下ろした。それに倣い壬生奇礼も座りなおした。


「そないな旨い話があるかいな」

「まぁ聞けや。わーは王国第五師団の一員じゃ。これが正規の腕章じゃの。それでわーの上司はこの世界に転移してきた人材を欲しとるじゃ」

「そ、それって僕達のような人達を保護しているってことですか?

「良い言い方をするとそうじゃな」

「じゃ、じゃあ悪い言い方は?」

「奴隷じゃ。あーまてまてまて。比喩表現じゃて、本質じゃにゃーて。わーの上司は善性があり、王国に貢献できる姿勢を見せるならば、師団に入れると言っておる。お前たちは望んで犯行をしたのではないのじゃろう?」

「・・・せやけど。それでも人を傷つけたし、これまで生きるために手を汚してきたんやで? その上司さんは随分と御人好しなんやね」

「それはそう思う。ただ切るときはバッサリと切り捨ておるから安心せい」


 壬生奇礼の顔が青ざめる。張磨蔵権の言う通り、この二人はこの世界では重罪に当たる犯罪を犯し、逃亡犯でもある。そんな人間がまともな職業につけるわけもなく、金銭を工面できるわけもなく、自分の持つスキルで犯罪を重ねるしかないのが、この王国の現状。


「話は聞くで。おれらみたいな逸れ者は、結局犯罪に走って、最後には処刑されるって。行政機関が民間人をお助けするのはええけど、あんたがそれに成り済ましているっちゅうのは考えたらあかんか?」

「え、だって、正規の腕章を見せてくれましたよ?」

「それが本物ちゅうのを少年は判別できるんやね?」

「・・・で、できません。で、でもそんな甘い話を持ち掛けてくるなら、もっと耳当たりのいい言葉で持ち掛けませんか?」

「おれも詐欺師ちゃうから、そこまでは分からんけども、この人は口達者ではある。と、喋りを生業にしとる言うといたる」


 壬生奇礼だけならば、コロリとこちら側へと落ちてくれているはずだが、張磨蔵権のせいで難易度が上がる。


「のらりくらり酒飲みかわしながら、快諾を貰おうと思っとったが、現実を一つ突き付けといたる。部屋はタコ部屋じゃが、三食付き、公務員になり、就業手当も当然出る。今よりは命の危険はない。仕事さえすれば暇な時間は遊んでよしじゃ」

「めっちゃ言うやんけ・・・まぁ、信じろっちゅうこっちゃな」

「えっ! 今まで疑ってたのに!?」

「こっちが歩み寄らんと、話が進まへんねん。少年はいつまで意固地になっとるんや」

「いや・・・僕は・・・」


 相性が良いのか悪いのか、本当にこの二人を迎え入れていいのかは、我が師団長に会わせなければ分からないことだ。


「ま、蟠りが無くのうたのなら、飲み直しや」



 


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