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九人はポンコツスキル持ち  作者: 須田原道則
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壬生奇礼

 どうしてこうなったんだったか。

 

 あれは確か、女子高生のようなへそ出し制服を着た女から、異世界転生を告げられて、スキルを付与されてから始まったことだった。


 夜間清掃のバイトの帰り道、トラックに跳ねられたオレは、美少女女神様に起こされて、最強スキルを手にして、異世界最強を目指すはずだった。はずだったのだ。


 俺は浮かれていた。それはそれは、浮足立つなんてものじゃない、慣れないスキップをすれば足が攣って暫くは涙目で動けなくなるのを四回は繰り返すほどに浮かれていたんだ。


 だって異世界だぜ。あの異世界だぜ! 最強スキル持ちのオレはなんでもやり放題、酒池肉林を築き上げることだって、王になることだって、勇者になることだってできるんだ。あの頃夢見た夢を、現実に実現できるんだぜ。そりゃあそうだろう。


 だってオレの授かったスキルは発火、指定した対象を燃やすスキル。これだけだと鎮火させられるっていう弱点があるが、俺の発火は、対象が消し炭になるまで燃え続けるという弱点保護もしてある。どうだ? 最強だろう?


 一度試しに使ったときはそう思った。


 あの美少女女神は、注意点を教えてくれる時に、ここまで教えてくれていなかった。あの女神は、オレが最初に試したところまでのことしか注意点で教えてくれなかった。


 オレは用心深くはない。家の鍵を閉めたか閉めてないか気になるが、まぁいいかで、済ますほどにずぼらだ。


 発火はオレが認識した対象を燃やすが、ブラフとして指パッチンを鳴らすと同時に燃やすことにしている。だってそっちの方がカッコいいからな。


 この異世界には魔物という獣だったり、人型の何かだったりする物がいる。俺はそれらを狩って生計をたてることを思いついた。こういう異世界にはよくある話だ。魔物を狩って、そのドロップ品を金に換えて、それを装備や生活必需品に変える。そしてオレは有名ギルドに属して、俗に炎獄の魔術師なんて呼ばれたりして、なーんて妄想したり。


 だけど現実では、魔物が消し炭になるだけだった。


 最初は討伐してやったととの達成感を得たけど、肉の焼ける臭いが次第に焦げ臭くなり、パチパチと音をたてて炭化していく魔物を見ていると、そんな達成感は消えてしまっていた。もしもオレが放火魔だったら、これは才能だと喜んでいたのだろうが、どうやらオレは心優しき男だったようだ。


 で、次は魔物の集団に襲われた。そこで新たに発火の弱点が発覚した。最初の対象が完全に消し炭になるまで、次の対象に発火を発動することはできなかった。今度の魔物は狼のような魔物。一匹の統率者と他の兵隊がで構成された魔物の集団。


 最初の一匹を発火させた時は、火を警戒して襲い掛かってこなかったが、一匹しか燃やせないのを理解したのか、残りの兵隊で一気に襲われた。


 オレには仲間などいない。だってまだ最初の街にさえも辿り着いていないんだから、未だに最初に転移させられた森を右往左往と彷徨っている。だから必死で逃げた。死に物狂いで走った。肺が痛くなるほどに、足をもつれさせないように、発火を発動させるために時間を稼いだ。


 死に物狂いだったんだ。


 もう自分が何をしたのかさえも、覚えていない。オレが生き残るためには、こうするしかなかったんだろう。


 発火は対象を燃やし尽くす。デメリットとして、一つの対象にしか使えない。だがしかし、燃えうつったり、延焼させることはできる。まず木の枝に火をつけて、燃える武器を作った。それを沢山作って、魔物に投げた。するとどうなるか。


 森が燃えた。


 ちょうど風がよく吹く日だったし、ちょっと乾燥していたし、延焼の好条件が全て揃っていたんだと思う。


 一度広がった火の手を止める方法なんて持ち合わせていない。オレは燃え広がる方向とは違う方へ逃げて、火の手から逃れた。するとようやく森から出れて、魔物もうまく撒けたようだった。


 そして現在、小高い丘の上から、大量の煙を青空へとモクモクと立ち昇らせているのをボーッと見ているのだ。


「どうしよう・・・」



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