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九人はポンコツスキル持ち  作者: 須田原道則
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ジャック②

 俺達が村の女達を連れて帰ってきた時には、もう既に戦闘は終わっていた。俺達も命からがら魔物を撃退しながら降りてきていたので、村の近くまで来て、やけに静かなのに奇妙さを感じていたんだ。


 俺は一人駆け足に村へと向かった。


「何が起こったんだ?」


 村ではすすり泣く声と、呻き声で溢れていた。暗がりの中灯を近づけると、村の数人の若い衆が負傷して茣蓙の上で寝かせられていて、女集達がそれを介抱していた。近くで介抱している奴に訊ねると、泣きはらしたような赤い目で答えた。


「野盗団と戦闘になったの・・・」

「戦闘って、拠点防衛やねんから、こんな被害でえへんやろ。シマントもそう言ってたやんけ」

「・・・最初にデイモンさんがあいつらのスキルにやられたんや。それでデイモンさんが撃てって言わはってん。でもうちらデイモンさん事撃つのを躊躇っとったら、シマントさんが弓を引かはって撃たはったんや。それで、彼の犠牲を無駄にしてはならないって言わはったから、皆で撃った。・・・けどその矢が奥にいる馬型の魔物を刺激して、正面の防衛拠点に突っ込んできたんや・・・。ほんで馬型の魔物倒す為に男手がかなり負傷したんや・・・」

「野盗団はどうなったんや? それにかこつけて侵入されたんか!?」

「あっちも面を食らったんか一旦退いたみたいやわ・・・」

「デイモンは、デイモンはんはどうなったんや?」


 俺が訊ねると、目を瞑って小さく首を振られた。


 ほらみたことか。


 心に住まう兄貴がそういった気がする。


 兄貴は外から来た人間を毛嫌いしていた。内にいる人間の問題を外にいる人間が聞きかじっただけで解決できるわけがないと信じて疑わない。村の問題は村の中で解決するべきだと意気込んでいた。結果、村の外からやってきた野盗団に殺されたわけだが、俺は兄貴が間違っていたとも思えない。


 土着愛はその土地に住まうものにしか生まれない。外から来た奴らは土地に対する愛ではなく、利権や損益しか考えていない。村の発展と言うが、それは自分の財布を肥やしたい為。国の為と言うが、自分の資産を保持しておきたいだけ。体の良い言葉を使って、裏腹な思惑を孕んでいる奴らが外からくる人間だ。


 苦肉の策で求めた助け。こいつらもそうなのだろう。と俺はどこかで思っていた。助けると言っても、我さきに村人を兵の駒のように使い、自分は後ろで指示を出す奴らなのだろうと思っていた。


 兄貴の教訓通りの奴らなのだろうと心の片隅で卑下していた。


 デイモンの死体を見るまではそう思っていた。


 デイモンの死体は腐っていた。それが元々人間かどうかを判断するには厳しいほどに腐れ爛れ、腐臭を漂わせ、道の真ん中に放置されていた。死体には矢が刺さっている痕跡もあったが、それも腐っていた。俺の周りには山へ向かっていて、事の顛末を知らなかったユウダイがいた。


 ユウダイは何も言わずに手を合わせてから去った。その動作が何かを知らないが、祈りに似ているような気がした。


「触れると侵食されるようです。彼は今際の際まで敵の情報を叫んでいました、最後まで兵士として殉職した。私は彼に尊敬の念を頂きます」


 長老の家に戻るとシマントが目に涙を溜めながらそう言った。嘘くさく聞こえるのは俺だけなのだろうか。デイモンの追悼はそれで終わり、反省会が開かれた。誰も何も言わなかったのは、この犠牲に嘆いている暇がなく、早急に対策を立てなければいけないからだろう。だが、そこまで準じれるものだろうかと俺は思うのだ。


「捕虜となっていた人達は助けたようですが、蔵権さんは?」

「彼は囮となって相手の拠点に残って、恐らくだが大打撃を与えた。奴らの拠点は当分使い物にはならないはずだ。未だに奇礼のスキルも発動したままのようだから、すぐさま反攻に転じてくることはないだろう。今夜は牽制くらいになるはずだ」


 シマントの問いにカエサルが質問以上の答えを言う。キレイはずっと青ざめた顔をしている。こいつの能力が無ければ、奴らに大打撃を与えられなかったのに、こいつはずっとゾウゲンが囮になった事を悔いている。キレイは優しすぎるのだろう。


「増援が来るまで耐える、と言う事ですか?」

「あとはそうするしかない。村人と私達全員で死力を尽くせば、増援が来るまで耐えられる」


 軍人のカエサルがそう言うなら安心だな。とは思えない。ただでさえイレギュラーなことが起きて、既にスキルを持った人間が二人も死んでるのだから、絶対なんてはない。実際にカエサルは断言はしていない。


「耐える言うても、俺らも男手が削られたんやろ? それでも耐えられるんか?」

「男だろうが、女だろうが、子供だろうが関係ない。死力を尽くさねば、明日はない」


 嫌な発破のかけ方だった。全員が覚悟を持っていなければ、あんた達を差し出して、命乞いをする人間も出てくるかもしれない。だが、この村にはそんな奴はいない。もうこの村の人間も限界なのだ。寸分の奴隷のような未来よりも、寿命を全うする人間の未来の方が良い。


「そうやな。俺らはあんたらと共に戦うで」


 改めて俺は覚悟を決めた。



 



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