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九人はポンコツスキル持ち  作者: 須田原道則
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南部晴政②

 天命を受けた。だからこそそれを全うすることに遵守しないといけないと思っていた。憧れの織田信長から、大好きな織田信長から、このスキルでやり遂げろと言われていた気がした。


 だがそれは盲目的であった。この世界に来て、前世のわーが如何にぬるま湯に浸かっていたのかを思い知らされた。やれ群雄割拠の時代が好ましいやら、英雄に憧れるやら。群雄割拠とは混沌であり、英雄が現れると言うことは、英雄と対峙するものがいるということ。つまり平和とは真反対であり、己の持つ力。権力、武力、政治力。はたまた人間力。全ての力を駆使して、上り詰めないと天命など全うできない。


 わーは織田信長になりかった。なりたかったのだ。それはなれない者の羨望であり、なる者の思考ではない。わーの心は転生時に出会った織田信長に見透かされていたのだろう。誰かの模倣で心健やかになる程度の人間であると。


「おーい。でてこーい」


 村の外で女の呼ぶ声が響いた。カエサル達が山へ入って数十分の後の事だった。


 わーは見張り櫓から、夕日を浴びている女を見る。黒髪で青と緑のインナーカラーが入った短髪で小柄の女。ヒミと特徴が一致する。ヒミの後ろには六人の野盗団が控えており、馬型の魔物と滑車も持ってきていた。


 あの滑車は食料を持ち変える為のものだろうが、恐らく積荷として武器も積んでいるはずだろう。ヒミのスキルと、六人で制圧するにはそれなりの武器がないと制圧できない。


 わーは櫓から降りて、下で待機していたマクノヒーに確認をとる。


「食料の渡し方は、こちらがあちらまで持ってゆき、その場に置いて村へ戻るじゃな?」

「せや・・・でも食料なんてあらしまへんで」

「いらん。予定通り、わー一人で出ていく。任したぞ」


 マクノヒーの後ろにいた、小刻みに震えている京介へと声をかけて肩を叩いてやる。京介は何度も頷きながら了承した。


 京介にプレッシャーを与えるのは逆効果かもしれないが、どちらにせよ極限状態には変わりないので、プレッシャーと感じるか、信頼と感じるかは京介次第であろう。おそらく前者なのだろうが。


 ここに残った者は相手を足止めできるスキルを持った者達。玉枝の造幣。京介の不動。四万十の開示。そしてわーの模倣。この中で最も京介のスキルが足止めに向いている。京介のスキルが抜かれたならば、玉枝の迎撃型のスキルで時間稼ぎはできるだろう。四万十は戦闘向きではないので、人手くらいの換算。


 京介のスキルは視界に捉えている者を静止させるスキル。日が落ちて暗さが増す今、活かすには誰かがヒミと野盗団の近くまで行き、明かりをつけて視界を確保し、相手がばらけない様に注意を引いておかないといけない。


 村人にさせるのもいいが、これは手練れがやった方がいい。だから一番適性のあるわーが行くしかない。模倣すれば剣術の腕は確実に上がる。南部晴政も戦国大名の一人、豪傑とは言わないが、荒々しい東北を生き抜いた武将様である。


 京介が櫓へと昇ったのを確認してから、わーは土嚢が乗った滑車を引きながら村を出る。


 松明の火で顔を半分隠しながら、おっかなびっくりを演じて、ヒミ達の三メートル手前までやってきた。


「おせーよ。さっさと・・・お前村の人間か?」


 一瞬でバレてしまった。このヒミという女は村人全員の顔を覚えているのか、それともブラフか。何にせよ駆け引きなどは要らない。当初の予定通りに、ヒミ達にまで近づけたのだ。


 松明をヒミとわーの間に投げる。松明は地面につく前に空中で止まった。ヒミ達も誰一人言葉を発せず、動かなくなってしまう。概ね計画通りだが、予定外なのは、わーまで静止してしまっていることだろう。


 流石に櫓から肉眼で見て、わーだけを静止させるなは無理があった。望遠鏡があればもう少し視野を狭められたのだが、そんなものはない。指で円を作って視野を狭めれば解決するのだが、京介のスキルは発動している間は京介自身も動いてはならないから、一度発動すればこのままを維持するしかない。


 この後はわーが逃げ切って、遠隔で矢を放つ。矢は京介の視界に入れば止まるが、スキルを解除すればそのままの勢いで飛んでいくのは実験済み。止まった動作の中で急に避ける動作をするのは至難の業。しかもそれが無数に飛んでくる矢の雨ならば死に至らしめるだろう。


 問題はそれを実行すると、わーも巻き添えをくらうところ。もしもこうなってしまった場合には撃てと伝えておいたが、それを実行するかしないかは、村人達に委ねるしかない。


 わーは兵士だ。こちらの世界に来てから、いつ死んでもいいように訓練された。前世のわーとはまた違う一面を育てられた。前世よりも、こちらの世界の方が長く生き、全てがガラリと変えられた。だがいざ死を前にすると、そんな訓練も意味をなさない。


 止まった時間のまま、見えない矢がいつ放たれる恐怖。見えている恐怖も、見えていない恐怖も、どちらもねっとりとした汗をかかせる。汗が噴き出したと同時に、肌に張り付いて動かない。その奇妙な感覚が恐怖を増長させる。


 撃て、と、撃たないでくれ。の間で意志が揺れる。


 無限にも続く時間が流れた気がした。


 コン。と高い音と共に松明が地面に落ちた。コロロと転がる音を聞いて、京介がビビってスキルを解いたのだと理解した。


 ヒミの魚の腐ったような瞳と目が合った。剣を抜いて首を斬りにいったが、ヒミは咄嗟の防御反応をし、皮手袋で剣を弾いた。


 剣を弾くだけで終わったことに違和感を覚える。皮手袋ごと手を切っていてもおかしくない剣戟のはずなのに、弾かれた。


 次に剣を持っている右手が僅かに軽くなったことに気付いた。目で追うと、皮手袋に触れた部分が、溶鉱炉に入れた鉄のようにぐじゅぐじゅに溶けていた。おそらくヒミのスキル。触れた部分が腐るスキル。


「いっでええええええ!」


 ヒミは無事だった手を庇いながら涙目で叫んだ。その叫びで後ろにいる野盗団もわーに向かって動き出す。


 ヒミを庇うように出てきた一人に向けて溶けた剣を投擲する。男はぎょっとした表情で剣を避けた。弾いて落とすことはできるのに、驚いた表情で避けたのには意味があるのだろう。ヒミのスキルは、腐っている部分に触れると連鎖して腐るのだろう。奇礼のスキルと同じようなものか。ならば、ヒミのスキルを纏ったものに触れるのは危険。


 ここでわーが退いて、矢じりにでもヒミのスキルをつけられたら、囲いの意味もなくなる。七対一という不利な状況だが、ヒミをここで殺さないと長期戦は負け戦だ。


 退こうとしていた踵に力を入れて前に踏み込もうとした時、ヒミが野盗団の陰に隠れつつ、拳銃を取り出し、こちらに銃口を向けているのが見えた。


 この世界に拳銃はまだない。


 沢山の予想外が判断をかなり遅らせた。


「ケヒッ、死ね」

 

 火薬が爆発する音と共に銃弾がわーに向かって発射された。



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