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九人はポンコツスキル持ち  作者: 須田原道則
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張磨蔵権②

 おれの壬生奇礼への評価は主体性のない心優しき男。裏を返せば傷つきたくない卑怯者だが、この男は自分が最小限に傷つきたくないだけで、傷つかなければいけない場面では踏み出せない一歩を勇気で踏み込める男なのだろうと評価している。


 馬車で魔物から助けられた後も、オレが致命傷に陥る場面は割とあった。その際にも助けられていた。


 奇礼の事は後輩や弟子、さながら弟と思って接していた。だがその垣根を越えて、自分の中に仲間や同志という感情が芽生えているのも確かだった。少年と呼ぶのも、その感情を表に出すのが恥ずかしいからかもしれない。


 おれの考える落語は繋がりである。人と人――時には化生や神もいるが、それらが会話を通じて織りなす会話劇。壬生奇礼と出会い、第五師団に入り、おれの第二の物語が始まった。観客は少し前のめりになって話の続きをまだかまだかと少し興奮気味にしている時間くらいだろう。


 第一節のオチはどんなものになるのだろうか。この野盗団を懲らしめて、名を挙げて終わりなのは凡庸だが、個人的には悪くはない。



 緊迫した雰囲気の中、ジョニーの道案内の元、先頭にカエサルを置いて、捕虜にした男に変身した來亞が続き、ジャックとジョンソンと奇礼続き、殿に夕大とおれがいた。


 誰も声を発しない。限りなく慎重に草葉に擦れる音さえも立てずに、カエサルが歩いた道をしっかりとアヒルの親子のようについていく。山の中は村よりも涼しいはずなのに、緊張のせいかねっとりとした汗が気持ち悪い。


 いつどこから魔物や野盗団の輩が襲ってくるかもしれない恐怖が体を強張らせる。もしかしたら、既に見つかっていて、ずっと覗かれている可能性ものある。もしかしたらを考えると、ネガティブな想像しかできないし、更には考えることが増えて行ってしまう。黙っているということは思考をする時間が増えると言う事だから。頭の中を一つのタスク。カエサルについていくだけにすることができるならばどれだけ楽なのだろうか。


 おれはそれを極力したくない。楽はしたいが、楽で命取りになるのは阿呆すぎる。今は善とか悪だとか、そんな振れ幅のある事を考えずに、中庸であることが大事だ。与えられた使命と、おれがすべきことを熟すだけ。イレギュラーなことは考えておくには越したことはないが、それをマニュアル対応しようとは思ってはおかないことだ。


 木漏れ日から漏れる太陽光がオレ達を導いているのではなく、敵を導いているような気がしてならない。少し手前にいる夕大も、普段のちゃらけた面持ちではなく、集中力が極限に高まって、目に光を宿さない見たこともない顔をしていた。


 捕虜の話では魔物の警戒網を抜けられる道があるようで、そこには人が配置されているとの話だったが、今のところその気配はない。そもそも野盗団の言質を100%信じられるのだろうか。おれや四万十、カエサルは人と接することが多かったから、嘘か真かを見分ける審美眼が肥えていると自負できるが、それが相手も同じであった場合、常に100%とは言い難い。爪や指一本ごとと共に情報を吐かせるみたいな手段を小説や映画か何かでみたが、そちらの方が信頼できる。だがそれをやりたがる奴はおれ達の中にはいない。


 だから軽い尋問でなんとか情報を引き出して、四万十の能力で秘密を開示させた。確かに開示した情報には書かれていたが、それがこいつだけに知らさている情報で、他の人間には違う情報が知らされている可能性はある。村を出る時にふと気がついた。四万十やカエサルあたりは気がついているが、口には出さなかったのだろう。


 おれの考えは杞憂であった。魔物にも人にも出会わずに、野盗団の拠点まで辿り着いたのである。


 拠点は山の木を伐採して作った囲いで覆われており、入口も木ではあるが堅固な門があった。


 安堵の息はなく、ほどなくして更に身体が強張った。拠点の前には見張りが二人いた。初めて敵を認識して、村人三人と奇礼と來亞は警戒心を強めた。代わりに夕大とカエサルは気配を少しだけ薄くした気がした。


 見張りがいることは当たり前だ。ここからは奇礼を連れてきた意味が出てくる。


 カエサルは門の奥にある見張り櫓を奇礼を見つつ指さした。奇礼は黙って頷いてスキルを使った。


 櫓の先っぽから火がくすぶり始めた。茅葺屋根のような櫓だったので、火の手はすぐに回った。


「なんか焦げ臭くないか?」

「確かに言われてみればだな・・・」


 見張り番二人が異臭に気付いた。二人が異臭の原因を辺りを見回しながらが探っていると。


「おい! 櫓が燃えてるぞ!」


 片方の見張りが異臭の原因を見つけた。


「誰か隠れてタバコでも吸ってたんじゃねぇのか!」

「今はそんなことどうでもいいだろ! お前中に行って人連れて来い!」

「命令すんな!」


 口喧嘩しながらも、片方が門を開けて中へ消化しに走っていった。門の奥には他の野盗団はいない。それを確認した瞬間に、音もなくカエサルが隠れていた草葉の陰から出て、残った門番の首を掻っ切った。


 門番は剣を構える暇もなく、血のあぶくを噴き出す口をカエサルに抑えられながら絶命した。死体を門の中から見えない隅に置いて、カエサルはおれ達を手招いた。


 おれと來亞と夕大とジャックとジョニーがその手招きに応じる。奇礼とジョンソンは脱出経路を確保する要因でもあり、奇礼はスキルを使用した関係上、今は村人と同程度かそれ以下の存在だ。もしも死んでしまって、スキルが消えてしまっては捕らわれた村人を助ける時間が無くなってしまう。


 作戦はまず、奇礼のスキルで火を放ち、混乱に乗じて捕虜を助ける。その道中気取られずに野盗団を削っていく。それが大まかな作戦。もしも混乱せずに対応できるならば、力押しになるし、道中気取られた場合は混戦になるだろう。作戦をたてても実行する時には行き当たりばったりになるのは人生そのものだ。


 捕らわれた村人を助けて、悪党共を蹴散らす物語は中盤に差し掛かったのだろう。オチはおれが決めても構わないらしい。



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