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九人はポンコツスキル持ち  作者: 須田原道則
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九人は打って出る

「糞が! 離しやがれ!」


 村の入り口より少しだけ離れた民家に、手足を縛って、矢を抜いて、手当をしていると、手当をしている玉枝に噛みつかんとばかりに野盗団の一人は叫んだ。


「離してもええけど、先に話そか」


 この民家には蔵権と玉枝と四万十とカエサルがいた。残りは武器制作と、後続の見張りである。


「てめぇらには何も話すことはねぇよ!」

「あるやろぉ。あんたらの人数とか、まとめてる奴の特徴とか、拠点の場所とか。ぎょーさんあるやん?」

「てめぇら・・・村人じゃねぇな。ギルドの人間ってところか・・・けっ、犬どもが」

「そやねん。犬やねん。まぁ犬は犬でも、飢えた犬でな。餌がないと噛みついてまうかもしれへんねんや」

「・・・なにされたって喋らんぜ」


 男は欠けた黄色く濁った歯を見せながら不敵に笑った。蔵権は顔色変えずに話をつづけた。


「人間には切れちゃいけないものがあるんやけど、わかる?」

「なぞなぞかぁ? 栄養だな。栄養が切れたら死ぬからな」

「おぉやるやん。正解は・・・堪忍袋の緒や」


 蔵権は手当したばかりの傷口に二十八センチ以上はある足を体重を乗せるように置いた。


「ぐおおおおおおおおおっ」

「そうそう。血管も切れたらあかんなぁ。矢傷はきれーに動脈さけてたけど、傷口グリグリして、切れたらあかん動脈切れたら、人間死んじゃうんやって。ねぇ」


 蔵権は少し顔を青ざめさせている玉枝に確認をとると、玉枝は小さく連続で頷く。


「てっめぇ・・・覚えてろよ・・・ぜってぇぶっころしてやぐっああああああっ」

「殺す? 死んだらできることなんてあらへんのに、随分希望的なんやな。お前の代わりを捕まえればええやで」

「俺の代わりだぁ? ハッ、俺が帰らなければイリオモテさんが不審がって、援軍を寄こすぜ」

「・・・」


 蔵権は新しい情報が取れたので、良しと思った。


「オールフォーワン、ワンフォーオールってやつか、野盗団にしては殊勝な心掛けやな。それに自分、死ぬの怖ないって顔しとってめっちゃええな。オレそういうのめっちゃそそるねん。この傷口のようにめちゃめちゃにしてやりたいわってな」


 蔵権の言葉と、心の底からの恍惚な表情に男は背筋をゾクリとさせた。野盗団という生死が共に付きまとう地に足つかない職をしている男は覚悟していた。いつ死んでもいいようにと刹那的に生きていた。だから死も覚悟できていたはずだった。なのに、この男、張磨蔵権の言葉と表情には妙な現実味があり、これから死よりも末恐ろしい事が起こるのだろうと想起してしまう。


 無論。蔵権が拷問をすることはない。蔵権のすることは噺家の領分だけ。話す言葉、力を入れる、抜く言葉、表情筋の動かし方、他全てをベストマッチさせることで、本当の事だと思わせる力。蔵権の職人芸がなせる技であった。


 現在踏んでいる足も、気持ち悪いと思いながら踏んでいるくらいには、良識はある。


「治療したんは、すぐに死んでもうたら、おもろないからや。安心せい。傷ついても治療はしたる。死なへん程度にずーっとしたる。イリオモテさんか、なんか知らへんけど、援軍がくるまで弄んだるわ。よかったなぁ、騎士道精神掲げて、野盗団に尽くせて」

「わかった! 話す! 話すから待ってくれ!」


 蔵権が置いてあった鋏と革袋を持って、迫った時、男は音を上げた。


「なんや、つまらん。・・・因みにやけど、嘘こいたら・・・」


 蔵権は男の股間をゆっくりと見て、鋏をシャキンと鳴らした。男は生唾を飲んで、慎重に話し出した。




「打って出るだぁ!?」


 見張りを目の良い村人に任せて、情報を聞き出して、急ぎで集まり、四万十の発言に驚きの声を上げたのは代理村人代表のジャックだった。


「えぇ。斥候が吐いた情報によると、相手の拠点は一カ所にしかなく、更には相手の頭目のスキルがかなり厄介かと思われます」

「あ、あんたが防衛拠点を作って、守ってれば大丈夫って言ったんやろ」

「ええ、ですが状況が変わりました。相手の頭目、クシロという男のスキルは、おそらく服従の類です。クシロという男はここら一帯の魔物をスキルの力で服従させています。それらが全て野盗団と共に襲い掛かってきては、一昼夜も持ちません」

「だが、それだと山の中は魔物だらけってことにならねぇか? そこに村人全員で入って行くのか?」

「いや、村人全員は無理だ。戦える男手だけで入る。あとこちらも山に慣れていない者は村に残るつもりだ。それに、捕らわれている人たちもいるなら、なおさら助けに行かなければならない」


 斥候が言うには、村から連れていかれた女は現在も生きており、野盗団の慰めものとして扱わられている。男はすでに山の土に変わってしまったようで。その話を聞いて、カエサルは久しぶりに度し難い怒りに吞まれそうになった。カエサルの放つ怒気は斥候の男の滑る口を加速させた。


「行くのは私、夕大、蔵権、奇礼、來亞だ。村人からは山に詳しく、体力のある者を三人ほど選出してほしい」

「無茶やで、あんたらの作戦はとなり村の援軍の到着を待つんやろ。打って出たところで、奴らの反感を買うだけやろ」

「無茶は承知の上。既に援軍の要請はしてある。到着するのは明日だろうが、我々が先に行動すれば、時間は稼げる」

「そんなん・・・」


 ジャックの言いたいことは、他のスキル持ちのメンバーも思っていることだった。四万十がたてた作戦が裏目に出て、作戦が破綻しかけているのだ。元の既定路線に戻すには無理をするしかないのである。


「大丈夫でしょ。御大将の作戦はいつも成功してるし」


 夕大は場を落ち着かせるために気楽に言った。ほとんどの人間が夕大が言うならば、と思うようになっていた。


「・・・分かった。村人からは俺とジョンソン、あと山菜取りのジョニーなら行ってくれるはずや」

「ではすでにある軽装備を持って我々は、沸きから村を出て山を登る。村の事は任せましたよ」


 カエサルは四万十に言うと神妙な面持ちで四万十は頷いた。


 八人は瞬く間に準備を終えて、野盗団の拠点がある山へと姿を消した。


一週間ぐらい。

もしかしたら二週間ぐらいお休み。

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