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九人はポンコツスキル持ち  作者: 須田原道則
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九人は捕まえる

「ユウダイさん、これでええんけ?」


 村人の一人が設計図を見ながら長槍を作りつつ、近くで同じように長槍をテキパキと器用に作っていた夕大に訊ねた。


「おう。いい感じだ」


 手を止めずに、軽く見ただけで夕大は笑顔で親指を立てる。


「ユウダイさん、ここはどうすればええん?」

「ユウダイ、これどこにつけるん?」

「ユウダイさん、部品が余ったんやけど」

「だー、待て待て、一気に言われてもわからんってば。えーっと、エリーナのは、紐を逆手で持って、とぐろを巻くように回す。ニックのは大きい板の裏に引っかかりがあるからそこ。ベンのは持ち手の部品だから一度解体した方が早い」


 全員が夕大に感謝の言葉を告げて、それぞれ作業に戻った。夕大は一度辺りを見回してみた。村人たちが祭りの準備さながら、手と口を動かしながら作業をしている。奥の方では京介が壁に頭を向けながら避難経路の製図作業をしていた。


 やる気にさせられた村人たちは、早速夕大と京介の指導の下武器やバリケードを作り始めた。力のある者はカエサルとデイモンの指導の下、簡易式バリケードを目立たないように設置している。村人の中にも非戦闘員となる幼子や老人は、玉枝と來亞と共に飯を作っていた。


 野盗団に敵対心がバレないようにする作戦の一旦として、村人が集まって、騒がしくしていても、外から見れば祭りなのだと思わせるのが大事であった。収穫祭を装うために、まずは軒先や、村の入り口に紐を張って、その紐に提灯をかけてあり、中に入ってこない限り、打倒野盗団を掲げているとは到底思えない。


 しかし村人一同が全員が同じ気持ちなのかと言われると、それは違った。


 夕大は京介の背中を見つめながら、來亞と共に報告しに帰ってきた事を思い出す。

 

「村はずれの家? ・・・あぁ、マック爺さんの家か。あの爺さん頑固者やからなぁ」


 京介と來亞が村はずれの家の扱いをどうするかと九人で話していると、外に一緒にいた流れで話の輪の中に入っていたジャックがバツが悪そうに言った。


「バリケード外にあるので、一時的に立ち退いた方がいいですよって言ったんですけど、梃子でも動かん!って言われました。その後は何言っても無視されて・・・。今は、身内のジョンソンさんやアリアさんに説得して貰っていますが、期待はしない方がいいとのことで・・・」

「確かに家は大事やけど、なんでそこまでして動きたないんや? 命の方が大事やないか?」

「家やない。畑や」


 蔵権の疑問に答えたのはジャックだ。


「畑って、裏にある大きな畑のことですよね? 被害にあってもまた作ればいいのでは?」

「爺さんも歳やし、あの裏の畑は爺さんの家系がずっと耕してきた畑や。あんたらは自分達が命を懸けて作ってきた物を、一時的だと言われても簡単に捨てられるか?」


 奇礼は言葉に詰まる。


「ご老体ですから、これからの者に残したい思いと、自分が生きた証でもあるでしょう。そう易々と決定はできないでしょうね」

「そ、それでいいんですか?」

「いいわけないやろなぁ」


 四万十のプロファイリングに全員が軽くため息をする。


「カエサルさんは、どう判断するんですか? バリケードを増設したり、私達の誰かを回しますか?」


 玉枝の質問にカエサルは難しい顔をして返した。


「和を以て貴しとなす。ご老人の気持ちも汲めますが、それで村の和を乱すのは御法度。仕方ないですが、避難しないのであれば、ご自分で対処してもらうしかない」

「・・・まぁそうなるわな」


 ジャックが冷めた目でため息交じりに言った。


「ジャックさん。カエサルさんは見限ったわけではありませんよ。今は人手を割くのは難しいでしょうが、村の裏手から攻めるには根菜を育てている、見晴らしの良い裏の畑を通らないといけません。なので裏手から攻められることは、確率としてはそこまでないのです。なのでマックさんには自衛出来る物をお渡しになるのでしょう」

「そうなんか?」

「・・・えぇ。夕大できるね?」

「まぁできないこともないけど。誰が作業を請け負うんだ?」

「ぼ、ボクがやります。避難経路もちゃんと・・・します!」

「じゃあ京介にやってもらおう。無理せずにね」

「は、はい」


 京介は必死に避難経路図を描いている。早く終わらせてマックの自衛措置を作りたいのだろう。何が京介を突き動かしているのかを、夕大は気になっていた。


「なぁ京介。なんで引き受けたんだ?」

「・・・」


 気になったら聞かずにはいられない夕大は、丁度とっかけひっかけの質問の合間を潜って、京介の近くにまで行く。京介は集中しているようだった。


「おーい京介」

「はぃ! なんですか夕大さん」

「どうして引き受けたんだ? いつもだったら率先してやらないだろ?」

「えっとぉ、それはぁ・・・」


 京介は手を止めて目を泳がせる。


「お爺ちゃん子だったからか?」

「いや、別に・・・」

「じゃあなんだ?」


 夕大の澄んだ瞳が、薄暗い京介の心を見透かさんとする。それに耐えられない京介は白状し始める。


「あの・・・物を作るって、大変ですよね」

「そうだな」

「・・・・・・」


 京介はそれ以上は何も言わなかった。


「・・・んー? 物の作り手として思うことがあったってことか?」

「大体そんな感じです・・・」

「ふーん。そうか。忙しいところ、ありがとな」

「はい・・・」


 夕大もそれ以上は訊くことはなく自分の作業に戻った。


 それから一日経った。


 日が頂点に上り切る前に、提灯の紐に仕込んでおいた、斥候用の罠が村の監視所で鳴った。櫓で寝ていたデイモンが弓と矢を持って飛び起き、罠の位置を確認すると、獣ではない人型の影が見えた。それが村人や、外からきた人間ではないと判別がついた瞬間に、すぐさまスキル模倣を使って、矢を放った。


 矢は見事人の脚に中り、人影は小さな叫び声と共に、その場に蹲った。


 デイモンは櫓から降りて、近場の民家で寝ている蔵権を起こして、斥候を捕らえたのであった。


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