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九人はポンコツスキル持ち  作者: 須田原道則
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九人はもっと備える

「来るときも思いましたが、綺麗な小麦畑ですね」


 村を出て本街道を歩いている玉枝は、収穫時期間近のあたりを小麦色に染める畑を、絵画でも眺めるように見つめていた。


「いい畑でしょ。土もええし、水源も近い、虫の被害さえなければ、自慢の畑や」

「魔物とか獣の被害はないのか?」


 胸を張りながらジャックが言うと、隣で歩いていた夕大が質問した。


「ここんとこ魔物の被害はないなぁ。畑も家畜も襲われることはないしな。・・・あ、でも山には魔物がおるってジョンソンが言ってたな」

「ほな、山に入る時は気をつけろっちゅうこっちゃね。少年、ボヤ起こしたらあかんで」

「・・・笑えないです」

「蔵権さん、奇礼さんのトラウマを弄るのはやめてください」

「すまんすまん。・・・にしても御大将どこまで行くんや? バリケードを作るんやないんか?」


 六人は村の入り口がとても小さく見えるくらい離れた位置まで移動してきていた。蔵権に言われたからではないが、カエサルは足を止めて、振り返った。


「夕大。君が斥候だったら、ここから村の様子は理解できるか?」

「んー、作物の状態も、村の異変も、目がいい奴だったら、ここからだとハッキリと分かるな」


 夕大が目を凝らさずに言った。


「では肉眼ではどこまでが限界だ?」

「ちょっと待ってな」


 夕大は村を見つめながら、後ろ歩きで道を歩いていく。四十メートル程離れたところで夕大は手を挙げた。


「おいおい村からかなり離れてるぞ、あそこから何がわかるんだ?」


 ジャックが驚嘆の言葉を漏らしているが、腐海で過ごしてきた夕大は更に離れても、異変を肉眼だけで感知できる。


「人間技やないな。漫画とかのキャラやで」

「僕も鍛えればできるんでしょうか・・・」

「単純に鍛えても無理の境地やろ。命のやりとりせんとできひんのちゃう? 知らんけど」


 夕大と出会って日が浅い蔵権と奇礼は、初めて夕大のずば抜けた五感能力を見て、自分達との差異を感じた。


「今ので何が分かったんですか?」

「夕大以上の斥候がいるかもしれないが、並の斥候を基準として、罠を仕掛けておく必要がある」

「罠、ですか。どんな罠なんですか?」

「複雑な罠は一つ二つくらいだが、基本的には害獣対策の罠と何も変わらないよ」

「明日にでも野盗団はやってくるかもしれないのに、どうやって罠やバリケードを仕掛けるんや?」

「もちろん私達だけではなく、村人にも手伝ってもらう。今頃四万十さんとデイモンが村人に説明しているんじゃないかな?」




「わしらも戦うんか!」

「男だけやのうて、女も?」


 マクノヒーが村人たちを集めて、村のバリケード案や戦闘要員の説明を終えると、不満の声が上がった。


「はい」


 四万十は真剣な表情で言った。


「あ、あんたらが助けてくれるんじゃないのか?」

「私達九人は確かにスキルを持っています。ですが相手の三人も未知数のスキル持ちであり、徒党を組んでいます。野盗団はおよそ四十人。どれも戦闘経験のある輩でしょう。九人だけでは太刀打ちできません」

「え、援軍を呼べばいいんじゃないのか」

「援軍を呼ぶのにも時間がかかります。その間、私達九人だけで戦闘するのは無理がある。この村には五十人程度の人間がいる。なにも直接闘う訳ではありません。村に奴らが攻め入ってくるのであれば、籠城戦の利を使えばいいんです」

「籠城戦の・・・利・・・ってなんだ?」

「例えば、櫓をつくり、そこから矢を撃つ。例えば投石器を作り、石を投げる。穴を掘って行動の自由を奪う落とし穴を作る。簡単に考えるだけで思いつける策はあります」

「そんなもん、どうやって作ればええねん」

「こちらが設計図です」


 四万十は夕大が出ていく前にスキルで出しておいて設計図を広げる。そこには村にある限りある資材で作れるような櫓、投石器、弓、矢、槍、盾、様々な設計図があった。村人達はそれらの設計図を手に取ってまじまじと見た。


「こんなん作れるんか?」

「四人の指導者がいますし、のみ込みが早い方もいらっしゃるでしょう。それにこの村は籠城する利点があります」

「山が遠いからか?」

「確かに、奴らの拠点となっている山からは、離れていますし、本街道を超えてこないといけない。利点ですね。それもありますが、この村は小高い丘の上にあります、それに村の背後には深い溜め池があり、その奥は藪林になっている。つまり、背後から来ようにも溜め池を越えなければならず、前方からはこちらの方が見晴らしが良い。籠城戦をするには良い土地なのです」


 四万十の言い分に聴いていた村人の全員がポカンとした表情で頷いた。


「お、オレたちでも勝てるんか?」


 一人の男子が言った。


「勝てます」


 四万十は間髪いれずに力強く返した。


「子供でも、槍の振るい方、振るう場所を考えれば、相手の一人や二人に致命傷を負わすことが可能です」


 子供たちの方を向いて。


「女性であれども、弓を放てば相手を死に至らしめることもできる」


 女性たちの集団を見て。


「今まで皆さんは正面から切って出ていったから敗北したのです。あの敗北を、雪辱を晴らしましょう! 籠城戦となれば勝つ見込みはあります。この村は耐久に優れている。我々の援軍を待つ間もなく勝てる見込みがある! 今度こそ奴らを駆逐してやりましょう!」


 四万十は力強く拳を握って力説する。ようやく村人に伝わったのか、一人の村人が「うおおお」と、雄たけびを上げた。その熱で、他の村人たちの瞳の色が闘志に赤く燃え始める。


 概ね四万十の憶測通りになっているのをデイモンは危惧していた。




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