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九人はポンコツスキル持ち  作者: 須田原道則
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九人は備える

「では収穫の時期になると、野盗団はやってくるんですね?」


 再びマクノヒーの家で、今度は四万十とデイモンがマクノヒーと村の重鎮二人と話を進めていた。他の七人は村の中と外を二班に分かれさせて視察しに行っていた。


「せや・・・です」

「普段通りで構いませんよ。私は確かにギルドの長ですが、賓客ではありません。共にこのファルガ村を守る同志ではありませんか」


 薄く張り付いたような笑顔で四万十は小さな所作をしながら語る。四万十は騒動の後に村の重鎮等には、自分がギルドの長であることを明かした。カエサルや騎士団側からすれば、混戦になった場合、最も人質に取られたくない人物であり、出発前にリスク分散すると言っていた本人とは思えない自己紹介であった。


 デイモンはこれらの行動は自分に注目を集めるパフォーマンスだと判断した。四万十は今後の事を考えて動いており、この村が救われた後に、自身が英雄にならんとしているのだろう。その先にあるのはこの領地の支配か、それとも・・・。何にせよ、途轍もない野心を持った男であり、警戒するには越したことはないと、デイモンは隣で思っていた。


「収穫の時期はもう直ぐや。今まで通りやと、偵察がやってきて、そん後に転移者がやってきおる」

「その転移者とは、髪の長い男ですか?」

「あー、髪の長い男もおるけど、女もきちょる。村の物資はもちろんやが、男は村の女かどわかし、女は若い男を連れていきよる。連れてかれた女も男も帰って来ん・・・。わしの息子も、こいつの娘も連れてかれた」


 重鎮の一人の男が俯きながら、娘の顔を思い出したか涙を見せながら唇を噛んだ。


「ではまずはその物見を縛り上げるのが先決じゃの」

「ど、どうやってや? わしらも偶々見つけたくらいで、毎回偵察が来とるかは分からへんで」

「それは外回り組が創造してくれとるから、それが出来次第じゃの」

「創造?」




「な、なんでアリアが二人もおるねん! おいらの目がおかしなったんとちゃうやんな!」


 ジョンソンの前にはジョンソンの年の離れた妹である、三つ編みおさげで儚そうな女子のアリアが二人並んで立っていた。


「おにぃ、どっちが本物でしょう?」


 左のアリアが悪戯な笑顔でジョンソンに訊ねると、目をひん剥いて、忙しく左右に眼球運動をして観察するジョンソン。実の兄であるジョンソンが見比べても、左右どちらのアリアも瓜二つであった。


「右や!」

「はぁ・・・おにぃうち悲しいわ」


 左のアリアが心底ガッカリする。


「いやわかるかいな! なぁ京介!」

「そ、そうですね・・・」

「ほら京介もこう言うとるやないか」

「・・・もういい? そろそろ仕事しないと、外の連中が帰ってくると思うんだけど、あたし小言言われたくないんだよね」


 右のアリア。アリアに変身した來亞が気怠そうに言う。


 來亞と京介は野盗団が村へと侵入した際の退避経路と、緊急避難場所を設置する為の場所の下見をジョンソンの案内でしていた。來亞は空間把握能力、京介は地図製図能力が長けているので抜擢された。


「そ、そうですね。い、行きましょうか」


 首から紐をかけて、板に乗った書きかけの地図を持った京介は委縮しながら音頭をとって歩き出す。來亞の横を通り過ぎる時に、小さく舌打ちされたのを京介は聞き逃さなかった。


 來亞はアリアに変身したことを軽く後悔していた。夕大の指示で、板金を鳴らし始めたら、民衆の混乱を煽って欲しいと頼まれて、村人の一人、か弱い女を選んだのだが、一日はこのままであり、もしも野盗団が攻めてきた時に、屈強な男な方が自衛できた。


 急に野盗団がやってくる可能性はないとはないえない。この時でさえアリアを蹴飛ばして、肉親であるジョンソンがアリアを守るために動くのだろうと予想し、先程民衆の盾にすらなろうとしなかった、咄嗟の判断も勇気もないガキに身を守ってもらおうとも思っていなかった。雁金來亞は誰も信用しない。


 來亞が夕大の頼みを聞いたのは、夕大の財布の有り金全部、報酬金として貰ったからだ。


「あの・・・雁金さん」


 ジョンソンとアリアを前に置いてきて、京介がおどおどしながら來亞に話しかけてくる。


「何?」


 不機嫌極まりない返答に京介は怯んだが、唾を飲んで続ける。


「えっと・・・あちらの離れた家は、どうしましょう?」


 京介の指さす方向には民家がポツンと建っていた。この村の民家は長屋のように群となっている成り立ちからすれば、一軒だけがあるのは珍しかった。


「どうするって、何がよ。具体的に言わないと分からないんだけど。あたしは頭良くないから」

「あっ、わっ、えっと、あの家は事前に貰ったバリケード案の外にありまして・・・ど、どうしたらいいのかなって」

「・・・・・・何? あたしに決定しろって言ってるの? あたしは地形の把握。あんたが製図。そしてあたしはギルドの派遣で、あんたは騎士団員。立場はあんたの方が上だから、相談せずにあんたで勝手に決めなさいよ」

「あ、うーん。団長には二人で相談して決めろって・・・言われていて・・・」


 主体性と主導権の無さに來亞は不快感を感情と衝動的に行動に表してやろうかと思ったが、この体格差でそれをしても有効的ではない留まった。


「・・・はぁ・・・・・・あの家はバリケード内に入れようにも、バリケードの材料がそこまでないだろうから、バリケードを増設することもできない。壊してバリケードの材料にするのもいいし、放置するのでもどっちでもいいわ。あんたの意見は?」

「ボクは・・・・・・放置するのがいいかと思います」

「じゃあそうすればいいじゃない。何か問題があるならあんたのとこの軍長が何か言うわ」

「そ、そうですね。そうしましょう」


 來亞は軽い頭痛を覚えたが、気のせいだろうと深呼吸をした。


「お兄ちゃん達、私達の家がどうかしたの?」

「えっ・・・あれ、アリアさんの家?」

「うん! おじいちゃんとおにぃと住んでるの!」


 京介の困り顔に、ズキズキとする頭痛は気のせいではないと來亞は確信した。

  

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